激震する世界15

「で、また私が駆り出されるのね?」

「すまんな」

「いいわよ、脳筋アミルじゃ門番程度の役にしかたたないでしょうし」

「いや、それは……」


 あんまり否定できないな、と思いながらもセイルは一応フォローしようとする。


「それは、何よ」

「その、なんだ。あー……うん。アミルも頑張ってるぞ?」

「それはフォローになっておらんのう」


 そう言って、アンゼリカが笑う。

 3人がいるのは王族用の馬車の中で、当然のように騎士が護衛についている。

 身軽なウルザを選んだのは、その辺りの配慮でもあった。

 そんな3人が向かっているのは冒険者ギルド。

 歩いても大した時間のかかる距離ではないが、それでも馬車を使いしっかりと護衛で固めるのが王族の義務……であるらしい。


「しかし、このウルザといったか。中々に鍛えられておる。他の者もそうじゃが、信じられんくらいの豪傑の集まりじゃ」

「そうか」

「それを従えておるセイルは、もっと強いんじゃろうのう」

「いや、それは……」

「ふふん。従えておるという点は否定せんかったな?」


 アンゼリカの言葉にセイルはぐっと言葉に詰まる。

 言質を与えたつもりはないが、凄まじく察しがいいのだろう。

 

「そんな事はない。俺達は仲間だ。普通にな」

「普通、のう? まあ、それならそれでいいんじゃが。特に追及はせんよ」

「そうか」

「嫌われたくないしのう。とはいえ、馬鹿とも思われたくもない。なんともむず痒い事よ」


 どう答えていいのか分からず、セイルは困ったような顔をする。

 アンゼリカからの求婚は保留という話にしているが、そうする事で互いに利益がある。

 アンゼリカに対する婚約という他国からの干渉をセイルという「婚約者候補」の存在で弾き、セイルにはブラックカードという利益がもたらされた。

 しかし、アンゼリカからの求婚もセイルという個人に対する好意ではなく能力に対する好意のはずだ。

 当然それはセイルを上回る者が出ればそちらに好意が向く類のものだろうと思っていたから、こんな事を言われても「困ったな……」という気持ちしか湧き上がっては来ないのだ。


 しかしながら、アンゼリカの方からしてみればセイルは絶対に逃がしたくない優良物件だ。

 セイルが自分を友人未満程度にしか好いていないのは分かっている。

 精々良い取引相手か知り合い程度じゃろうな……と、そんな推測もしている。

 だが、それはそれだ。女王として相手を間違えるわけにはいかないが、今のところセイルは人格的にも問題がない。

 能力もエルフの英雄とやらと戦える程のものがあり、乱世に突入するであろう現在、絶対に他国にとられたくない存在でもある。


 もっと迫れば堕ちるかのう……と、そんな事を考えてアンゼリカはウルザを見る。

 同じ女としてはいっそ羨ましすぎて嫉妬すら湧いてこない程に完璧な身体。

 あんなのが側にいるのであれば、自分が迫ったところでセイルは子供がじゃれているくらいにしか思わないかもしれない。


「ぐぬ……」

「どうした?」


 見透かしたようにニヤニヤしているウルザとは逆に分かっていない顔のセイルに、アンゼリカは「なんでもない」と返す。

 ちょっと無理かもしれぬ。そうアンゼリカが思ってしまったのは……まあ、無理もない事だろう。

 そうしている間にも馬車は停止し、扉がコツンコツンとノックされる。


「姫様。到着致しました」


 姫様、と呼ぶのは王位継承の儀式までの対外的なものなのだろう。

 そんな騎士の言葉にアンゼリカは「うむ」と頷く。


「行くぞ、セイル」

「ああ」


 セイルが率先してドアを開けると騎士が面食らったような顔をするが、すぐに平静な表情になる。

 セイルが周囲の安全確認を担っているのだとすぐに気付いたのだろう。


「問題なさそうだ。ウルザ」

「ええ。行くわよ、お姫様?」

「そうじゃの」


 ウルザにエスコートされながら、アンゼリカが馬車から降りる。

 その眼前にあるのは冒険者ギルドであり、先程現場検証にあたっていたらしい兵士達が整列して野次馬達を通さぬように……そしてアンゼリカを歓迎するように立っている。


「そういえば支部長の呪いはもう解けたはずだが……」

「どのみち今は入れんよ。行くぞセイル」

「ああ」


 報酬を決めてはいなかったが、権限の面でしてもらう事はあまり無いかもしれないな……などと考えながらセイルはウルザと共にアンゼリカの後について冒険者ギルドの中に入っていく。

 職員の一人もいない冒険者ギルドの中には兵士が立っており、アンゼリカを見るなり敬礼を始める。

 ガチャリ、となる防具の音は如何にも厳めしく、アンゼリカはそれに「楽にせよ」と言いながら進んでいく。

 その迷いのない足取りにセイルは思わず「行く場所は分かっているのか?」と聞いてしまうが、アンゼリカは足を止めると振り返りニヤリと笑う。


「うむ。此処にはよく来ておる。お主のような実力者を探すには最適じゃからの」

「……いいのか? その使い方は……」

「どの国でもしておることじゃよ……たぶん、な」

「たぶん、なのか」

「細かい事はどうでもいいじゃろ。それ、行くぞ」


 まあ、有り得ない事じゃないんだろうか。

 自分が王でも同じ事をするかもしれないな……と。

 セイルはそんな事を考えながら、アンゼリカと共に地下へと繋がる階段を降りていく。

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