激震する世界14

「知らぬ」

「だろうな」


 城に帰還後、招かれたアンゼリカの私室。

 諸々の報告後にキングオーブについて尋ねたセイルに、アンゼリカはあっさりと知らないと答えた。


「確かにお主の言う通り、キングオーブはこの城にあるじゃろう。しかしそれは父上以外は誰も知らぬ場所にあった」

「……継承の時のみに伝えられるということか」

「あるいは、そうだったのかもしれんの。しかし人数を割いて捜索するわけにもいかん。これだけは他の誰かを信用するわけにもいかぬ事じゃ」


 確かにそうだろう。キングオーブの使われ方や謂れについては城の重要メンバーで共有していてもいいだろう。

 知った所で悪用できるようなものでもない。無理に悪用したところで、たかが知れている。

 なにしろヘクス王国だけではなく他の国も同じものを利用しているのだ。

 自然と他国がその監視役となっている。


 だが、キングオーブそのものの所在となると話が違う。

 キングオーブを持ち去られてしまえば、そのダメージは計り知れない。

 故に、王以外にその情報を持たないというのは……正しい。


「まったく、困った事じゃ。冒険者ギルドの件についてはどうにでもなるが……キングオーブについてはな」

「王族のみに分かる探す手段などはないのか?」

「そんなものがあれば、とっくに見つけておるよ」


 自嘲するように笑うアンゼリカに、セイルも肩を竦める。

 確かにその通りだ。ここまで慎重に前王の事を隠し通してきたアンゼリカが、そんな事を試していないはずがない。


「……何処かの誰かが妾の王配となってくれるのであれば、協力を要請できるし実物を触らせてもいいんじゃがのー」

「そうか。ならその何処かの誰かに頼んでくれ」

「つれないのー! 少しくらい妾に思うところはないのか!?」

「そんな事を言われてもな……」


 アミルやイリーナ、ウルザといった美少女達に普段囲まれているせいか、美形に対する耐性は最近ついてきたようにセイルは思う。

 目の前にいるアンゼリカも美少女であることは疑いようもないが、それだけで無条件に好意を持つほどちょろいわけではないと、セイルは自分に自信を持っている。


「しかし、いつまでもキングオーブが所在不明というわけにもいかないだろう」

「そりゃそうじゃの。最優先というわけでもないが」

「キングオーブの場所は王しか知らない。これは確かなんだな?」

「妾の知る限りではそうじゃの」


 つまり、キングオーブを守る兵がいるというわけではない。

 あるいは、キングオーブだと知らずに守っている兵がいるのかもしれない。

 そして居るのであれば、恐らく城の何処よりも厳重なはずだ。


「……宝物庫はどうだ?」

「当然、真っ先に探しておる。妾には隠し扉一つ見つけられんかったがの」

「王の部屋は」

「妥当じゃの。まあ、何も見つけられんかったが」


 見つからない、ではなく見つけられない。

 つまり、アンゼリカ自身その可能性を排除していないということだ。

 その上で「見つけられなかった」と、そう言っているのだとセイルは気付く。

 だから、次の質問は傾向を変える。


「時間をかければ、見つけられると思うか?」

「あるいは、の。しかしそう簡単に見つかる場所であれば意味がないのも確かであろうの」


 確かにその通りだろうとセイルも思う。

 少し探して見つけられる場所にキングオーブがあるのであれば、その存在を知っている他国が奪おうと人を送り込めば、奪えてしまうかもしれない。それは何の意味もない。

 

「……しかしのう、疑問に思う事もある」

「疑問?」

「レヴァンド王国には、王権の象徴として飾られる「支配者の宝玉」があるという。如何にも目立つ場所に飾ってあっての。妾も宴に呼ばれた時に見たことがある」

「それは、まさか」

「キングオーブじゃの。他の国も名称こそ違うが、それらしきものを目立つ場所に掲げておる」

「何故……」


 キングオーブを奪われでもしたら問題だろうに、何故そんな事をしているのか。

 疑問に思うセイルに、アンゼリカは小さく溜息をつく。


「奪われはせんという自信かもしれんの。あるいは、王権を分かりやすく示しておるのか。しかし我が国のように厳重に隠してはおらんということじゃ」

「そう、か。それで疑問というのは?」

「何故我が国だけ隠しておるのか、じゃ。守り切れないからか?」


 なるほど、それはあるかもしれない。

 ヘクス王国が小国だというのであれば、そうして隠す手段も必要になるだろう。


「妾はな、思うのだ。本来は秘匿するべきものであって……その秘匿する理由が長き時の果てに忘れられたのではないか、とな」

「エルフ達の事のように、か?」

「うむ。キングオーブが王権の象徴ということだけが残っているのであれば、ああして見せびらかしても疑問ではあるまいよ」

「……だとすると」

「そうじゃの」


 そう答え、アンゼリカは疲れ果てたように椅子に背中を預ける。


「世界に影響が出るというのであれば、それはどの程度なのか。もし大国の何処かが崩れれば……その国のキングオーブは奪われているやもしれん」


 言いながらアンゼリカはセイルをじっと見る。


「セイル。お主も疲れておるじゃろうが……妾と冒険者ギルドに行ってくれぬか? もしかすると、そこで他国の状況が分かるやもしれぬ」


 その言葉に、セイルに頷く以外の選択肢があるはずもなかった。

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