激震する世界5
「キング、オーブ……?」
「うむ。神の知識の一部などといったところで、使えるわけではないがな?」
「だが、使っているのだろう?」
「過去に、たった一人の大魔法士が全ての基本を構築したと言われておる。その人物について詳しくは残っておらんが、恐らくは何れかの国の王族であっただろう……とされておるの」
どの国も自分の祖先だと主張しておるがの、とアンゼリカは苦笑する。
「まあ、その真実はともかくじゃ。各国のキングオーブは魔力の線で繋がれた。しかし、そこから肝心の知識を引き出す術が未完成のまま大魔法士は姿を消してしまった」
大魔法士の消えた後に残されていたのは一つの魔道具と、ギルドカードの原型となった、数枚の金属板のみ。
その魔道具はキングオーブを利用し情報を蓄え、魔力線を利用して入力した情報を共有し引き出す事が出来るというものだった。
しかしながら、作成途中だったのかキングオーブに元々入力されていた情報は魔道具では引き出せず、今に至ってもそう出来るような改良は達成できていない。
「……なら、カードについてはどうなんだ?」
「詳細は妾にも分からんが、カードは元々「そういうもの」だったらしいの。どういう意図で作ったかは分からんが」
残されたコレをどう使うべきか。試行錯誤した末、各王家は「これ」を使って国を跨ぐ巨大組織を作る事を決定した。
情報を引き出せないのならば、それでも入力できるのならば。
民を使ってどんどん入力していけばいい。やがては神の叡智に届くような知識を溜め込めば、いずれは大魔導士の目指したものに辿り着くだろうと……そう目論んだのだ。
「倒したモノの情報を記録するカードを解析する事で完全なる情報引き出しの魔法の研究も進められたが失敗した……とも言われておる。ま、この辺りまでは各王家の基本知識じゃの」
アンゼリカの説明にセイルは頬を掻き、周囲を見回す。
大臣はともかく、場に居る騎士達も今の話に動揺した様子はない。
……となると、城で働く一定以上の者にとっては常識ということなのだろうか?
流石に下働きまでもが今の話を知っているとは思えない。
「……その神の知識とかいうのは、何処から出てきたんだ? 今聞いた話だと、誰もそれが収められているところを確認した事が無いように聞こえるが」
「無礼者が……っ!」
「黙れと言ったぞ、大臣」
激昂しかけた大臣を再びアンゼリカは黙らせ、静かに腕を組む。
「確かに、お主の言う通りじゃセイル。ひょっとするとキングオーブなどというのは作られた話で、全て大魔法士が造った魔道具……なのかもしれぬ」
そんなアンゼリカの言葉に場が騒めくが、アンゼリカの次の言葉で全員が黙り込む。
「しかし、だとすると大魔法士はカードに記録するのに必要な、世に存在する獣やモンスターの類を遍く知っていたということになる。それはそれで、非現実的な話だと思わぬか?」
「……確かにな。その大魔法士とやらが万物知る神でないのであれば、そのオーブに情報が記録されていたと考えるのが妥当……ということか?」
「その通りじゃ」
なるほど、確かに筋が通っている。
何処となく神話じみた話ではあるが、そう考える以外にない……ようにも思える。
しかしセイルは何となく、その姿を消した大魔法士とやらが実はあの少年神で……キングオーブとやらは、やはり空っぽで。そこに少年神が必要な情報を入力して去っていったのではないか、とも考えていた。
その目的が何かと言われてしまうと「分からない」と答えるしかないので、やはり想像の域は超えないのだが。
「……まあ、理解した。つまりダークエルフを倒した俺のカードにはダークエルフの情報が記録されているはずだ……ということか?」
「うむ、そういうことじゃの。それによってエルフとやらが真実そういう者達なのかだけは分かる」
つまり、実際にその目で見て尚エルフという存在はアンゼリカ達にとって信じがたいものなのだとセイルは考える。
そういう名目で変装した大国の連中が来たと考えた方が、余程納得がいくのだろう。
「分かった、後でギルドで確認してくるとしよう」
「うむ、頼む。盗賊の件に関しても、一度中止としよう。あんな連中が出てきたのでは、盗賊とやらの正体も……」
「ああ、盗賊ならダークエルフが倒したような事を言っていたな」
「ぬ?」
疑問符を浮かべるアンゼリカに、セイルは「言い忘れていたが」と前置きする。
「ダークエルフの呪術士が、盗賊連中を「材料」にしたと言っていた。全滅したかは分からんがな」
「む、そうか。まあ、お主がそんな嘘をつくとも思えんが……まあ、そうなると調査は必要かのう。相分かった。その件に関しては、しばし時間をくれ」
「ああ」
話は終わりじゃ、と。そう告げるアンゼリカが手を振ると、扉の前に立っていた騎士達が扉を開く。
退出せよという合図なのだろうと理解したセイルは立ち上がり、身を翻す。
そのままアミル達と共に部屋を出ると、近くに居た騎士にウルザ達が休んでいるという部屋の場所を尋ねるのだった。
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