激震する世界3

 そして通された部屋で、セイルは……いや、セイルだけではなく全員が驚きで目を見開いた。


「よく戻ったの、セイル」


 セイル達が通されたのは、以前の部屋ではなく……何故か、玉座の間であった。

 そして、セイル達を迎えたアンゼリカが座っていたのは、王の為だけに用意された玉座だったのだ。

 初見でセイル達を試したアンゼリカではあったが、まさかセイル達を驚かす為だけに玉座に座ったりはしないだろう。

 居並ぶ騎士や大臣と思わしき者達がそれを諫めもしないのも、彼女の行動を認めている証拠でもある。

 ならばアンゼリカが玉座に座っているのはどういう意味があるのか。

 セイルはそれを考え……「王になったのか」と問いかける。


 確か、以前の食事の席でアンゼリカは父である王は体調不良だと言っていた。

 もし、それが文字通りの意味であり……「遥か遠く」へ旅立ったとしたら。

 そうであるならば、アンゼリカが玉座に座っているのもセイルには納得がいくことだった。


「……というかじゃな。妾は少し前から王なのじゃ」

「どういう意味だ?」

「おおよそ三月程前の話になるがの。父上は高みへと旅立たれた。元より気弱な方ではあられたが……ここ数年は見ていて気の毒になるほど憔悴しておられた」


 聞いていて、セイルはペグの話を思い出す。

 確かアンゼリカの父であるヘクス国王は「大国が攻めてくるかもしれない」と武具を買い漁っていたという話だったはずだ。

 武闘大会も開催される予定だったはずだが……。


「ん……?」

「何ぞ心当たりでもあったかの?」

「いや……」


 そこで、セイルはあの時のペグの不可解な行動を思い出す。

 護衛に誘っておきながら、突然白き盾を雇いアーバルの町から出て行ったペグ。

 確かペグとその商会が取り扱っていたものは、ヘクス王国に売り払う武具。

 しかし、もしその商売に何かが発生した……あるいは、何かの情報を入手したとしたら。

 それ故に、町を急いで出る必要があったのなら。


「……アーバルの町で会った商人が、やけに慌てていた事があったと思ってな」

「武具の買取量も段階的ではあるが、大幅に減らしておったからの。そこから何かに勘付いたのかもしれんのう」


 言いながら、アンゼリカは小さく笑う。


「とはいえ、父上の事はまだ国民にも明らかにはしておらん」

「それは……いや、待て。それは「俺達」が聞いていい話なのか?」


 今更ながらセイルがそう問いかけると、アンゼリカは肩をすくめてみせる。


「当然じゃろ? いずれバレる……いや、すぐにでも分かる話じゃ。父上は、先程の地震で運悪く旅立たれた事になるのじゃからの」

「それで、いいのか?」


 自分の父であり、自国の王の話。それをそんな嘘にしてしまっていいのかとセイルは問いかけて。

 アンゼリカは、自嘲するような笑みを返す。


「ならばセイルが妾の立場なら発表できるか? 妾の父上は……我が国の王は、自国が磨り潰されるかもしれないという恐怖に負け自刃しました、とのう?」


 その言葉に無言を貫いていた騎士や大臣達も、沈痛な表情になる。

 ……なるほど、確かにそんなものは発表できないだろう。

 お前達の王は恐怖の感情に急かされるままに他国から武具を使いきれない程に買い漁り、そのあげくに自刃しました……などと。

 そんなものを発表してしまえば、どうなるか分かりはしない。


「より良いタイミングを計っておったが……もはや、それも叶わん。妾が王として立たねばならぬ状況にある」

「それは、この地震のせいか」

「……」


 セイルの問いに、アンゼリカは無言。いや、探るような目をセイルへと向けている。


「……のう、セイル。お主達、森の中で誰かと会わんかったか?」

「どういう、意味だ?」


 わざわざそんな事を聞くからには「盗賊」という意味ではないのだろう。

 ならば呪術士……アガルベリダの事だろうか?

 しかし、何故それをこのタイミングで聞くのか。セイルはそれに考えを巡らせて。

 ふと、気付く。


「それに答える前に、アンゼリカ。俺からも聞きたい事がある」

「うむ。なんじゃ?」

「お前の護衛にと残していった、俺の仲間達は何処だ?」

「安静にしておる。大きな怪我はないので安心せよ」


 その一言に、セイルの背後に控え黙っていたアミル達がザワつく。

 勿論、セイルとて心中穏やかではない。


「……ダークエルフか?」

「此処に来た者はライトエルフ、と名乗っておったの。羨むほどに白い肌と、長い耳を持つ者達じゃった」


 となると、アガルベリダとは別口だろうかとセイルは思う。

 カオスディスティニーではライトエルフとダークエルフは敵対関係にあったが、それはゲームの話。

 しかしそれをさておいても違う種族であるならば、協調関係であるとは限らない。

 纏めて「エルフ」ではなく「ライトエルフ」や「ダークエルフ」と名乗っているのは、その証拠にも思えた。


「圧倒的であった。妾の騎士達はあっという間に打ち倒され、ウルザ達も善戦はしたが……一人、明らかに「違う」者が居った。そ奴は、こう名乗っておったよ」


 ライトエルフの英雄、ストラレスタ。


 聞かされたその言葉に。

 セイルは、アガルベリダのあの不可解な台詞の意味が……ようやく理解できた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る