激震する世界2
やがて王都ハーシェルの門に辿り着いたセイル達を迎えたのは、慌てたような衛兵の声だった。
「お、おい! ちょっと待った!」
「なんだ? 急いでるんだが。身分証か?」
「いや、違う。あ、違わないか? あんたの名前を確認させてほしい!」
よく分からない事を言う衛兵の男に、セイルは「俺か? セイルだ」と返す。
まさか衛兵に副支部長が手を回したわけでもないだろう。
そうなると支部長か……あるいはアンゼリカか。
そう思い悩む暇もなく、衛兵は「おお!」と声をあげる。
「そうか、あんたがセイルか! 城から呼び出しがきている。すぐに向かってくれ!」
「城……アンゼリカ王女か?」
「そう聞いている。さあ、早く! 戻ってきたらすぐ知らせろと伝えられているんだ」
「ああ、分かった」
そう答えると、セイル達は門を潜り……やがてオーガンが、ぽつりと呟く。
「ワシはその王女様とやらを知らんのじゃが……我儘な方なのかのう?」
「どうだろうな。押しは強いように感じたが、引く事もある程度知っているように見受けられたが」
所謂ワガママ王女ではないな、と答えるセイルにオーガンは「ふむう」と頷く。
「となるとセイル様を慌てて呼び出すような何かが起きた、というのは間違いないじゃろうが……」
「……使者を出すでもなく、伝言ですか。緊急性としては中の下くらいです」
オーガンの推測にイリーナもそう付け加え、アミルが「そうなんでしょうか……」と首を傾げる。
「普通に考えたらそうです。迎えに行くまでではないけど急いで伝えたい何か、というのが妥当、です」
「セイル様は、どう思われますか?」
「……恐らくは2人の言う通りだとは思う。だが、具体的に何かと言われると分からんな」
まさか城に居る仲間に何かあったわけではないだろうが……と、そんな事を考えながらもセイルの足は自然と早まる。
そして、そうしていると……何処となく、周囲に同じように落ち着かない様子の人達がいる事に気付く。
「あんな変な月は初めてだ……」
「さっきの地震もそうだぜ……いったい何が起こってるんだ?」
何かが起こっている。それは誰もが感じているのだろう。
しかしそれが「何であるか」を口にするのに脅えているようにも見えた。
まるで口に出せば、それが現実になってしまうかのように。
「……」
しかし、彼等に何かを聞いたところで明確な答えは出ないだろうとセイルは直感していた。
恐らく彼等自身、答えを持っているわけではないのだ。
それでも「何かがあるかもしれない」と正体の見えない不安に脅えている。
そんな彼等に話しかけたところで、不安を増大させるだけだと……セイルは足早に通り過ぎていく。
門前広場、大通り。空が不安なのか、外に出ている人間はあまり多くない。
また来るかもしれない地震よりも、普段とは違う空こそを恐れているのだろう。
それでもざわめきは確かに聞こえてきて。不安に満ちた町中を、セイルは進んでいく。
普段なら人通りの多いであろう王城前も警備の兵士以外は一人も居らず、橋の前に立つ警備の兵士達からも緊張感が透けて見える。
「……! セイル様ですね」
「ああ。呼ばれていると聞いた」
「すぐにお通しします」
以前と比べると対応の速さが格段に違う。そんな事をセイルが考えている間にも兵士は「セイル様、ご到着!」と叫び地面を斧槍で打つ。
「お急ぎください。姫様がお待ちです」
「分かった」
此処でどんな用事か、と聞いたところで同じ答えが返ってくるだけだろう。
セイルはそう判断し、アミル達を連れて門の奥へと入っていく。
「セイル様ご一行、入城ー!」
以前同様の掛け声に急かされ入城したセイル達だが、正面から先程の兵士とは違う装備の……騎士が走ってくるのを見て足を止める。
「セイル様、お迎えにあがりました!」
「あ、ああ」
まるで急な国賓を招くかのような慌てぶりの騎士に、セイルは思わずそんな声をあげる。
確かにアンゼリカとは協力関係にあるが、そこまでされるような関係ではない。
実際、前回送り出される時には騎士の随行などはなかった。
……となると、何か変化があったということだが……それが今の状況と関係があるのかはセイルには判断がつかない。
「随分慌てているようだが、何があったんだ?」
「……それは私の口からは申し上げられません」
「俺の仲間に何かあったか」
「いえ、姫様の臨時の護衛の方々は全員ご無事です」
その言葉に、全員がピクリと反応する。
確かに「仲間に何かあったか」というのはセイルによる質問だ。
それに「無事だ」と答えるのは、間違った答えではない。
しかし、しかしだ。
通常であれば「何もありません」と答えるはずだ。
そうではなく「無事だ」と答えるのは、何かがあったと言っているようなものだ。
「……分かった。行こう」
「はい、ご案内します」
ここで問い詰めるのは容易い。「ダークエルフ」の単語を出して反応を探るのもいいだろう。
しかし、そんな事に意味はない。
何かがあった。その事実の前に、くだらない問答をしている必要性を……セイルは、全く感じなかったのだ。
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