部隊編成はバランスが大事

 まず、北の森探索チームはセイル、アミル、イリーナ、オーガン。

 近接戦闘と魔法、回復。全てをバランスよく考慮した結果だ。

 そしてウルザ、エイス、ガレス、クロスは王都待機チーム。

 まさか一介の冒険者が一国の姫や王相手に「護衛します」などと提案出来るはずも無いが、アンゼリカ個人に話を通した上でウルザの隠密能力であれば陰ながらの護衛が可能だ。

 これに加え、何かあればクロスのソルジャーアーマーやガレスの防御力、エイスの狩人としての観察能力が役に立つ……というわけだ。


「あの、セイル様」

「なんだ、イリーナ」


 イリーナは言おうか言うまいか迷うような様子を見せていたが……やがて、意を決したように口を開く。


「その。探索チームは私ではなく、光属性のクロスの方がいいと思う……です」

「何故そう思う?」

「……私は闇属性、です。カースゴーレムとの戦いでも、ほとんどお役にたててないです」


 なるほど、確かにイリーナのダークはカースゴーレム相手には通用していなかった。

 それはイリーナのダークもカースゴーレムも闇属性であったからだろう。

 もし北の森にいるかもしれない呪術士がカースゴーレムのような闇属性の何かを繰り出してきた場合、同様にイリーナの魔法が通じない可能性は高い。

 

「俺は、お前を北の森探索チームから外す気はないぞ?」

「ど、どうしてです?」

「理由は幾つかあるが……そうだな。俺はお前が役に立たないなどとは考えていない。それが一番大きな理由だ」


 セイルがそれを確信したのは、カースゴーレムの呪物の扱いの時だ。

 クロスもオーガンも忌避した中、イリーナだけは触れられると言った。

 そしてカースゴーレムの事も考えれば、闇属性の魔力を持つイリーナには「闇属性の力に対する耐性」があると考えていい。

 それは、呪術士との戦いにおいても大きな力になるはずだった。


「分かるか? お前は呪術士と戦う為の大きな力を持っている」


 セイルの説明にイリーナは頷こうとして……しかし、ぐっと胸の前で拳を握る。

 その様子で、余程カースゴーレムとの戦いが影響しているのだろうとセイルは察する。


「イリーナ」

「……はい、です」

「確かに、カースゴーレムにお前の魔法は通じなかったのかもしれない」


 その言葉に、イリーナの瞳が揺れる。

 魔法が敵に通じない魔法兵。それはどれ程の屈辱だろうか。

 だからこそ、セイルはイリーナの前に立ちその肩を掴む。


「なら、次会った時にはお前の魔法で超えるんだ」

「……え?」


 セイルの言っている事の意味を測りかねて、イリーナは目を瞬かせる。


「闇で闇を滅せぬと誰が決めた」

「そ、れは魔法の常識で……」

「ならば、その常識を超えろ。お前の闇で、敵の闇を塗り潰せ」


 セイルの言っている事は無茶だとイリーナは思う。

 闇魔法では、闇の者には通用しない。

 なのに、セイルはそれを成せと言う。

 けれど、それは。


「……ですが」

「思い出せ。カースゴーレムは、闇属性のお前に闇属性の攻撃を通したんだ。逆が出来ないという理屈が何処にある」

「あっ」


 そう、カースゴーレムの放ったダーククエイクは余波程度のダメージをイリーナを含む後衛陣へと与えた。

 そしてそれは、当然のように闇属性の攻撃であった。

 闇属性を持つイリーナに、闇属性の攻撃が通ったのだ。


「お前の杖も強化する。それだけでも大分違うはずだ。いずれは星3の杖も用意しよう。だから、役に立てないなどと諦めるな」

「……はい、です」

「よし」


 頷くイリーナの肩をセイルは軽く叩き、エイスへと振り向く。


「エイス、お前もだ。俺達に無いものをお前は持っている。これからも変わらず期待している」

「へいへい。ご期待に沿えるように頑張りますよ」


 エイスもまた、人知れず落ち込んでいた。

 森林用の偽装をしていたゴブリンを見逃したばかりかソルジャーアーマーにお株を奪われ、矢もカースゴーレムには通じなかった。

 今後の不安を感じていたのは確かだったが……セイルにそれを気付かれていた。

 だからこそ冗談めかして答えたが、更に真意を探る為にエイスはもう一歩踏み出した。


「ついでに聞きたいんですが、俺を森に連れて行ってくれないのはどうしてです? 森の探索ではお役に立てるつもりでしたけど」


 まさか西の森での失態が、と考えるエイスにセイルは「ああ、それか」と何でもないように答える。


「町中で何かあった時に魔法をぶっ放すというわけにもいかないだろう? それに何かあった時に柔軟に思考できる者は必須だ。ウルザ1人では荷が重すぎる」


 最悪、ウルザ1人と他3人という構成から始まる場合だってあるだろう。

 その時、クロスよりもガレスよりもエイスという狩人の視点と注意力が役に立つ。


「ウルザの姐さん並みの活躍なんかできませんよ?」

「ウルザのように動く必要はない。お前にしか出来ない事をしてくれ」


 セイルがそう言えば、エイスは困ったように頬を掻く。


「……はあ、分かりましたよ。ま、何かあるとも限りませんがね」

「無いならそれでいいさ。これはあくまで念の為なんだからな」


 エイスにそう伝えると、セイルは軽く手を叩く。


「よし、では解散だ。俺は例の合成を試した後に全員の装備を強化するから、装備を各自この部屋に運び込んだら今日はもう好きにしてくれていい」

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