チーム分け、する?
「守護者が強いのは当然なのでは? 呪いをかけているという事を知られては困るでしょうし」
アミルの意見は尤もだ。
誰かに呪いがかけられている。それだけで利害関係にある者が浮かぶし、それにより「誰が最も呪いをかけたがるか」という事だって分かってしまう。
それは呪いを依頼した者だけでなく、連鎖的に呪いをかけた呪術士の身の破滅にも繋がる。
故に「守護者が強い」事をアミルは疑問に思わない。
「いいや、それは違うのう」
勿論、それは専門外の人間から見た常識だ。
オーガンはゆっくりと首を横に振ると、全員の顔を見回す。
「そもそも、今回クロスのお嬢ちゃんが呪物の居場所を常に捕捉しておったが……奇妙に思わんかったかの?」
「何がです?」
「同じ術士だから分かるんだなあって思ってましたけど」
ガレスとエイスはそう言うが、イリーナが「あっ」と声をあげる。
「そういえば……おかしい、です」
「え、何処がです?」
「呪術の効果と籠めた魔力がアンバランス、です」
「ええ、ですからそれはさっきから」
「そうじゃないです」
アミルに、イリーナはそう言って否定する。
「強い魔力を籠めた呪物は捕捉されやすくなる……つまり、捕捉されても問題の無い即効性のある呪いでないと意味がない、です」
「そう。弱くて長く残る呪いだと、見つかりにくい弱い魔力でないと意味がない」
同じ術士……しかも専門外の相手に補足されてしまうような呪いでは、あからさまに「呪いをかけています」と宣言するようなものだ。
つまり、捕捉される前に速やかに目的を達成する必要があり、万が一達成前に相手が辿り着いても返り討ちに出来るような、そういうレベルの魔力の籠め方だとクロスは説明する。
「……となると、相手の目的が不明瞭になってくるのは分かるだろう?」
勿論、呪物を隠した呪術士がそんな事にも思い至らないアホであったという可能性もある。
あるが……セイルはそこまで楽観は出来なかった。
「今のところ、怪しいのは北の森だ。そこに全員で向かうか、あるいは……」
そう、あるいはまだ探索していない南と東の森のどちらかへも調査の手を伸ばすか。
もしくは王都に残り万が一に備えるという方法もある。
「東と南はともかく、王都にですか?」
「ああ。これは本当に念の為、だがな」
冒険者ギルド支部長のバグロムが狙いなのであれば、その依頼主は副支部長でほぼ合っているだろう。
しかし、そうでないとしたら……「本当の狙い」は絞れなくなる。
極端な話、アンゼリカ王女や王が対象である可能性も考えなければならない。
しかし、だからといってセイルが王都に残っていては呪術士を倒せない可能性が高い。
王都に残すのであれば「いざという時に対象を連れて退避できる」程度の者が望ましい。
「以上を踏まえた上で聞きたい。お前達は、どうするのが最上だと思う?」
その言葉に、全員が押し黙る。
「お前がどうしたいか」という問いであれば、セイルについて行きたいと答えられる。
しかし、「どうするのが最上と思うか」という問いには即答できない。
アミルも、イリーナも、ガレスも。3人とも「命令を受ける立場」であっても作戦立案になど関わった事はない。
エイスはただの村人だし、オーガンも悩み相談くらいは受けた経験はあるが……それだけだ。
「半分、王都に残せばいいと思う」
だが、そこにハッキリとした声で答えたのは……クロスであった。
「そうか。何故だ?」
「理由は簡単。相手の狙いが王都の誰かであった場合の、牽制」
「ふむ?」
「私達が呪術士のカースゴーレムを倒した事が相手に知れていると仮定した場合、私が呪術士ならこう考える。「その面倒な奴を何処かに引き付けて事を成そう」と」
セイル達が全員で北の森へと向かえば、自然とその状況が形作られる。
だから王都に戦力の半分を残す事で、どの程度効果があるかは不明だが「警戒している」という状況を作ることが出来る。
それは決して意味がない事ではない。
「……なるほどな。アンゼリカにも話を通しておく必要はあるだろうが、確かに一理ある」
「勿論、残すのは誰でもいいわけじゃない。少なくとも、ウルザは必須」
「だろうな」
隠密行動が可能であり、どんな状況にも素早く対応できるウルザは陰ながらの護衛としても最適だ。
ヘクス王国の騎士のプライドを傷つけないという面でも良い選択といえる。
「あの……何故アンゼリカ王女に?」
「決まっている。もし狙いが支部長でなかった場合、アンゼリカやこの国の王が狙いの可能性があるからだ。そしてそうなった場合、ヘクス王国は一気に崩れてしまう」
アンゼリカ自身、この国で「有効」な王女は自分自身であり……セイルがその婿となった場合は王配となると言っていた。
それは「有効」な王子も居ないという事に他ならない。
つまり、王とアンゼリカに何かあればヘクス王国は正当な血統を失うのだ。
そして、それはヘクス王国自体が崩れる事を意味している。
「……勿論、こんなものは勝手な想像に過ぎない。戦力を分けた事で呪術士と盗賊相手に戦力が足りず敗れる可能性だってあるんだからな」
それを理解した上で、どうするか。
そう問いかけるセイルに……全員が思考の海へと沈み。
やがて、戦力を2つに分ける案が採択された。
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