念の為言うと、ガチャはオマケ要素。ただし収益源

 空舞う蛙亭に戻ったセイルは、全員を部屋に集め……思わず苦笑する。


「大分増えたな」


 セイル、アミル、イリーナ、エイス、オーガン、ガレス、クロス。

 此処にいるだけで7人もいる。

 3人部屋にこれだけ詰め込むと、狭く感じてしまう。


「……ん? ウルザはどうした」

「姐さんなら出かけるって言ってましたよ」

「ああ、そうか」


 ウルザには基本的に情報収集を任せていた事を思い出し、セイルは頷く。

 ウルザには調べて貰う事がたくさんあるので、自主的に動いてもらえるのは非常に助かるのだ。


「さて、では今後の方針を決めようと思う」

「方針、ですか。私達はセイル様が「そうせよ」と命じてくださればその通りに動きますが」

「別にそれでもいいんだが、俺は全知全能というわけじゃないからな……間違える事だってある」


 話し合う事が必ずしも良いとは限らない。

 セイルとて、3人揃えば必ず文殊の知恵となると信仰しているわけでもない。

 話し合う事でより混乱する事だってあると分かっている。

 しかし、止める人間無くば暴走するということも分かっているという……ただそれだけの話だ。


「実際、アミルには色々ストッパーを任せているしな」

「分かってらっしゃるなら自重して頂けるとありがたいのですが……」

「それは無理だ」


 アッサリと答えるセイルにアミルが何とも言い難い視線を向けるが、それはさておき。

 事実、生活コストは上昇の一途だ。

 オーガンとガレスが増えたことで1日辺りの宿泊代が4シルバー増え、食事代や風呂代などを考えれば更に費用が嵩む。この辺りは増えはしても減る事はない。

 一日辺り、最低でも32シルバーは強制的に消えるのだと考えると現実的な危機感となるだろうか。

 しかしそれも命あってこその話ではある。


「とにかく、まず優先すべきは呪術士対策だ。その鍵はすでに此処にある」


 言いながら、セイルはカオスゲートをヒラヒラと振る。


「錆びた武具とカオスゴーレムのコアとの合成で、対抗できる何か……可能ならば防具を手に入れる」

「セイル様、それについてなのですが」

「なんだ、アミル?」

「私の記憶では錆びた武具は確か武器しか手に入っていないように認識しているのですが」

「ああ、それで間違いない」


 言いながら、セイルは錆びた剣をカオスゲートから取り出す。

 ゴトリ、と音を立てて床に落ちた剣は材質も不明な程に錆びており、「錆びた剣」というよりは「朽ちた剣」という方が相応しいような惨状であった。


「……これは酷い」

「控えめに言ってガラクタじゃのう」

「汚いですねえ」


 何やら散々な評価の錆びた剣を見下ろしながら、セイルは「これは見ての通りの錆びた剣なわけだが」と切り出す。


「これを特定のアイテムと合成すると、特殊な剣……になるかもしれないが、杖やら盾やら、鎧やらになるかもしれない」

「え?」

「ワケわかんないです」


 アミルとイリーナの当然の反応に、セイルはカオスゲートに錆びた剣を収納しながら頷く。


「俺だって訳わからん。だが、そういうものなんだ」

「鍛え直している……と解釈すれば」

「そう思うだろう?」


 なんとか理解の範疇に収めようとしているガレスに、セイルは苦笑する。


「木製の杖になったりもするんだぞ」

「何故……」

「神の力だからな、そういうものなんだろう」


 あの少年神に責任を全て丸投げするようにセイルは言うが、実際カオスディスティニーでもそういうシステムだったのだ。

 ガチャではないのにガチャみたいというこのシステムは、時間とアイテムを持て余した一部プレイヤーに人気だったものの、重課金プレイヤーには忘れ去れらたシステムでもあった……のだが、それはさておき。


「とにかくこれで切り札を手に入れる。そして、全員の武具も強化するつもりだ。ここまでで何か意見はあるか?」

「いえ、妥当であるかと思います」


 アミルが率先してそう答えるが、全員が同意の頷きを返す。

 カースゴーレムとの戦闘は全員に等しく危機感を植え付けている。

 武具の強化に異論が出ようはずもない。


「で、問題は此処からだな」

「はあ、何かありましたでしょうか?」


 首を傾げるガレスだが、オーガンとクロスは何かを察していたのか難しい顔をする。


「文字通り、明日からの方針についてだ。班分けをするかについて迷っている」

「えっ」

「何故です? 確か北に向かうというお話だったはずでは」


 そんな声をあげるアミルとガレスだが、そこでオーガンが「それなんじゃがな」と答える。


「セイル様には帰り際に少し話したのじゃが……今回の冒険者ギルド支部長への呪い、おかしな点がある」

「おかしな点……です?」

「かけられていたのは、少しずつ対象を死に近づける呪い。心臓の病気と区別のつかないレベルの、呪いとしては弱く……けど、タチの悪いやつ」

「それが何か……?」


 クロスの説明にアミルは首を傾げる。イリーナもよく分からない風ではあったが、そこでセイルが説明を引き継ぐ。


「弱い呪いの守護者としては、あのカースゴーレムは強すぎる。そういうことらしい」

「あの程度の呪いを守るにしては、呪物に籠められた魔力が強すぎるのじゃ。勿論、死に至るという点では凶悪に変わりはないのじゃが……あれ程の魔力を籠めるなら、もっと呪いの選択に幅があったように思う。そこが奇妙でのう……」

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