支部長の家にて

 王都ハーシェル、バグロム支部長の家。

 ヴァイスの見守る中でバグロムを診ていたオーガンは、何度か頷くと手の平から黄金色の光の魔力を放出し始める。


「おお、これは……」

「動くでない。光だろうと闇だろうと、他者の魔力は身体に良いものではない」


 そんな事を言いながら、オーガンは身体の何か所かに魔力を放出し……やがて小さく息を吐き出す。

 その様子を見て、ヴァイスが待ちきれなくなったかのように「か、解呪できたのか……?」と問いかける。


「ああ、呪いは解けた。といっても、呪いに奪われたものが返ってくるわけではないがの」

「それは分かる。体力は依然落ちたままのようだ……魔力も僅かだが弱っているな。まあ、鍛え直せばどうにでもなるだろうが」

「そういうことじゃ。あまり無理はしないのがよいじゃろうの」


 呪われている間に落ちた体力、そして呪いに抵抗し弱った魔力が戻るわけではない。

 だが、これ以上どうにかなるわけでもない。

 それを理解したヴァイスが、嬉しそうな顔をする。


「だが、それでも呪いは解けた! こいつはデカいぜ……! 礼を言わせてくれ爺さん!」

「礼を言うならセイル様に言えばよい。ワシは命令で動いとるだけじゃからの」

「そ、そうか。セイル、助かった。恩に着るぜ」


 一瞬セイルとオーガンはどんな関係なのかと考えたヴァイスだが、その考えをすぐに中断してセイルに近づき握手を求める。

 セイルもそれを握り返すと、小さく笑う。


「気にする事はない。こちらにも利益があるからやった事だ」

「ああ、副支部長だろ? 支部長の呪いが解けた以上は問題ねえさ!」

「……そう上手くはいかない」

「あ?」


 ヴァイスに水を差したのは、様子を見ていたクロスだった。

 この場に来たのは護衛としてアミル、そしてセイルとオーガン、クロスの4人だったが……クロスは厳しい顔のままだ。


「呪術士を倒したわけじゃない。放っておけば、また呪いをかけかねない」

「うっ……そういやそうだな。セイル、何か手掛かりはなかったのか?」

「呪物の残骸ならあるがな……見てるだけで呪われそうな代物だ。触らない方がいいぞ」

「そう、か……」


 それを聞いて、ヴァイスは明らかに残念そうな顔をする。

 呪物の近くに呪術士がいることをヴァイスは期待していたのだが、そう上手くはいかなかったようだ。


「あの勇者君は北に向かったみてえだが……そっちはまだ戻ってきてない。探すのに手こずってるのかもしれねえな」


 ヴァイスの読みでは、盗賊団は北に本拠地がある。

 しかし其処に呪術士が居るかというと、それは別の話だ。

 むしろ盗賊団如きが呪術士を抱えているかは、大いに疑問があった。

 もし居るとするなら……それは非常に厄介な話になる。


「俺としちゃ、呪術士を探してほしいんだが……手掛かりもなしじゃな」


 ひとまずバグロムの呪いがどうにかなった以上は、セイル達はアンゼリカ王女の依頼を果たす事を考えるのが優先なのは当然だ。

 あくまで今回は、盗賊退治にヴァイスが乗っかった形でしかない。


「……この件については、引き続き俺達でも続けよう。何か情報があれば渡してほしい」


 だがセイルとしても乗りかかった舟だ。

 今更バグロム支部長を見捨てる選択肢など存在はしない。


「とりあえず明日、俺達も北の森の調査に向かう。そこで盗賊がいるなら倒し、呪術士がいるならばこれも倒そう。念の為聞くが、捕縛の必要はあるか?」

「そうだな……盗賊は無条件でブッ殺すのが法だしな。呪術士に関しては、可能なら捕まえてくれ。不可能なら「盗賊の一員だった」として処理して構わねえ」


 勿論捕まえて依頼主を吐かせるのが最上ではあるが、呪術士は危険な相手だ。

 ほとんどの呪術士はモンスターや盗賊退治にその腕を振るう「真っ当」な呪術士だが、人に仇なす呪術士は……その業のせいか、どんどん悍ましい呪術を使うようになっていく。

 そこまで危険になった呪術士は討伐対象となるが、一部の権力者などが子飼いにしているという噂もあるほどだ。

 そして、今回バグロムに呪いをかけた呪術士は……間違いなく堕ちた呪術士だ。

 となれば討伐対象であるのだが、盗賊の一員として処理してしまった方が色々と楽という裏事情もあったりする。


「……分かった。そのようにしよう」

「すまないな、セイル。今すぐというわけにはいかないが、俺も支部に復帰する。可能な限りの支援は行うつもりだが……必要なモノはあるか?」


 そんなバグロムの言葉にセイルは少し考え「いや、今はないな」と答える。


「今回の件が全部解決したら、報酬として何か貰う事にしよう」

「そうか。ギルドとしては難しいかもしれんが、俺が個人的に出来る範囲で便宜を図ろう」

「ああ、頼む」


 そんな約束をすると、セイルはアミル達を連れて支部長の家を出る。

 可能であれば今すぐ北の森に向かいたいとも思うが、そうはいかない。

 セイルやアミルを含め、全員がかなり消耗している。

 それに……今回の件を踏まえ、準備する事がある。


「宿に戻るぞ。明日の為の準備が要る」


 セイルはそう言うと、宿に向けて歩き出す。

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