回収と帰還
「セイル様、これ……」
アミルが真剣な顔で見ていた呪物……黒い金属の塊を間近で見て、セイルは思わず顔をしかめる。
真っ二つになって本来の力を失って尚漂う、黒い闇の魔力。
人を呪う為に籠められたその魔力は、アミルが警戒し、セイルが顔をしかめ……そしてクロスがセイルの後ろに隠れる程度には禍々しかった。
「クロス。これは持って帰るには向かないんじゃないか?」
「確かにちょっと闇の魔力が強すぎる。あまり長く持ってると、心がやられるかもしれない」
「ロクでもないですね……」
3人でどうしたものかと見ていると、回復したらしい他の仲間達が戻ってくる。
「……ふう、不覚だったわね」
「申し訳ないです、セイル様……」
そう言って心なしか元気がない様子なのは、ウルザとイリーナだ。
他の面々も程度は違えど暗い顔をしており、彼等が何かを言う前にセイルは「無事でよかった」と告げる。
「今回の件は、敵を甘く見積もった俺の責任だ。だから、反省はもう終わりだ。責めるなら俺を責めるべきなんだからな」
「え、いえ。そ、そんなことは!」
ガレスが慌てたように背筋を正すが、そんなガレスにセイルは苦笑する。
「出来ないか? まあ、この言い方は卑怯だったかもな。だが、事実だ。俺はこの戦力でいけると踏んだ。結果として勝ちはしたが、楽観していいものではない」
何しろ、このカースゴーレムで終わりではない。
「何処かに、この呪物を造りカースゴーレムを仕込んだ奴がいる。そいつは間違いなく、このカースゴーレムより強いだろうからな……」
呪術士……魔法タイプであるから御しやすいなどと考えるべきではない。
カースゴーレムのような前衛を任せられる何かに身を守らせていると考える方が自然であり、そうなると複数のカースゴーレムが同じ場所に存在する事態だって考えられる。
「魔法防御を高める必要がある、が……」
そう上手くはいかない。カオスディスイティニーにおいて魔法防御が高いのは魔法系ユニットを含む一部のユニットだけであり、魔法に弱いユニットはどこまでいっても魔法に弱いのは変わらない。
勿論、魔法防御の高い鎧などもあるにはあるが、レア度の問題で手に入らないものが多い。
つまり、今出来る範囲で魔法防御を上げていく必要があるということだ。
「まあ、それは後で考えよう。それより皆、この呪物の残骸についてどう思う」
セイルに言われ、その場の全員が気付いてはいても何も言わなかった呪物に目を向けるが……すぐにオーガンが嫌そうな声をあげる。
「うぐっ……セイル様、この老骨にはソレはキツいですな。呪詛に満ちておるわい」
「お前にもどうにも出来ないか?」
「むう。消滅させることなら可能かもしれませんが、そういう話ではないのでしょう?」
「ああ」
あくまで直感的にだが、この呪物の残骸は有用なものだとセイルは考えていた。
どう役に立つかはまだ分からないのだが……。
「たぶん私なら持てるですけど……周りへの影響は避けられないです」
「ふむ」
闇属性の魔力を持つイリーナの意見に、やはり処分した方がいいのかとセイルは考えるが……そこに、ウルザが「でも」と声をあげる。
「セイルのカオスゲートになら保管できるんじゃないの? 神様の力によるものなんでしょ、あれ」
「まあ、そうなんだがな」
しかし利用法が分からないままでは、取り出しも出来ない死蔵品になる。
そんな迷惑なものをあまりカオスゲートに入れたくはなかったのだが……セイルは少し考えると「やってみるか」と呟きカオスゲートに呪物の残骸を収納する。
そして画面を操作し今収納したばかりの呪物を探す。
「……これか」
名称:破損したカースゴーレム・コア
種別:アイテム
破損したカースゴーレムのコア。
内包した闇の魔力は、失われた何かを目覚めさせる一因となるかもしれない。
「なんでしょう、この説明……」
「失われた何かって、遺跡か何かかしらね?」
男性陣と違って女性陣は遠慮なくセイルのカオスゲートに顔を近づけそんな事を言い合うが……セイルはその説明文を見て固まったように動きを止めていた。
「セイル?」
それに気付いたクロスがセイルを見上げるが、セイルから返ってきたのは小さな笑い声だった。
「は、はは……なるほど、そういうことか」
「え?」
「喜べ、皆。光明が見えた」
「ど、どういうことですか?」
アミルを含め全員が訳が分からないといった表情をする。
当然だ。セイルですら忘れていた事だ。
ガチャに課金すればするほど、この機能の事はオマケとしか思わなくなるのだから。
「錆びた武具」と特殊なアイテムを合成した時に発生する特殊現象。
ランダムで星1から4の特別な武具が手に入る……かもしれない、特殊な合成。
確率は50%程度でありどの程度のものが手に入るかもランダムな為、重課金者は自然とガチャから手に入る武器や防具に傾倒し、こんな機能は記憶の彼方に忘れ去る。
つまるところ、無課金や低課金向けの救済機能のようなものである。
「チャンスは1回。だがきっと……俺なら引き当てられる」
勿論、根拠はない。
自信満々のセイルを先頭に、一行は王都への道を戻り始めた。
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