王国剣兵隊

 アミルの掛け声は、本来有り得ない。

 この場にいる王国剣兵はアミル1人だけ。

 だから、この場に王国剣兵隊が集合する事など有り得ない。


 ……だが。アミルの掛け声に応えるように、アミルの背後に無数の鎧兜姿の何者か達がゆらりと現れる。

 それは明らかに現実のものとは微妙に異なる何か。

 兜の中に溜まる闇は、個人の識別すらも不可能としている。

 そう、例えるなら個人の判定を不要とするカオスディスティニーの脇役兵士をそのまま現実としたならば、このような感じであろうという姿。

 それでも、アミルはそこに「王国の仲間達」の気配を感じていた。

 故に。アミルは1つの迷いもなく叫ぶ。


「全員、突撃いいいいいいいい!」

「ウオオオオオオオオオオオオ!!」


 居並ぶ王国剣兵達は剣を振り上げ、盾を構え走り出す。

 再びソルジャーアーマー達を殲滅したカースゴーレムは自分に与えられた命令通りにソレを迎撃しようとして。

 しかし、瞬く間に自分の足元へと迫った剣兵達に一瞬反応が遅れる。

 そして。その遅れは致命的であった。


「オ、オオオオオオ!?」


 アミル達……剣兵の振るう剣が、まるでセイルが振るっているかのようにカースゴーレムを傷つける。

 その傷は、決して浅くはない。回復が、間に合わない。

 このままでは倒されてしまう。その判断が、カースゴーレムに「ダーククエイク」の発動の選択肢を与える。

 だが。幻のように消えたアミル以外の剣兵達。その不可思議にカースゴーレムは慌しく再判定を始める。

 この場に「残る」事が至上命令であるカースゴーレムにとって、ダーククエイクは気軽に放てるものではない。


 そして。その一瞬の混乱が全てであった。


「逃がさん……!」


 カースゴーレムの目前まで迫っていたセイルのヴァルブレードが、光り輝いている。

 それは「ヴァルスラッシュ」ではなく、「協力攻撃」専用のセイルの特殊攻撃。

 名も無き光の斬撃は……カースゴーレムの片足を斬り飛ばす。


「オオオオオ!」


 バランスを崩し倒れるカースゴーレムは、それでもセイルを巻き添えにしようと腕を伸ばして。

 しかし、その腕を足場にしてセイルは跳ぶ。

 高く、高く。

 掲げたヴァルブレードには、眩いまでの輝きが宿っていく。


「ヴァル……スラアアアアッシュ!!」


 カースゴーレムの頭を粉砕するように斬り、セイルは地面へと着地する。

 名残のようにヴァルブレードをギラリと光らせ消えた魔力の輝きが合図であったかのように、カースゴーレムは僅かに震える程度だったその動きを完全に停止する。

 同時にその身体はザラリと崩れ、中から現れた黒い金属の塊……恐らくはカースゴーレムのコアであっただろうものが真っ二つに割れて転がる。


「や、やった……」


 倒した。その瞬間を見届けたアミルの顔に興奮したような赤い色が差していく。


「やったあああ! やりましたよセイル様!」


 飛び上がって喜ぶアミルに、セイルは短く「ああ」と頷く。

 そして誰かが走ってくる音が響き、セイルの背中に抱き着いてくる。


「すごい、すごい! あんなの倒しちゃった!」

「クロスか。お前のフォローのおかげでもある」


 喜色満面でセイルに抱き着いていたクロスは、セイルを離さないようにしながらズリズリとセイルの正面へと回ってくる。


「本当?」

「ああ、本当だ。よくゴーレムを引き付けてくれた。ところで、他の皆は……」

「イリーナが回復して回ってる。そのくらいは役に立ちたいとか言ってた」

「……」


 闇属性の魔法を使うイリーナは、今回のカースゴーレム戦で気になるところがあったのだろう。

 エイスが駆け寄ってこないのも、イリーナを手伝っているからだろうが……今回の戦いは、2人にとっては「相性が悪かった」としか言いようがない。

 だが、そんな言葉では納得できないものが2人の中にあるだろう事はセイルにも想像できた。


「セイル、ご褒美」

「ん? ああ」


 セイルがクロスの頭を撫でると、クロスは喜んだ様子を見せる。

 この辺りはまだ子供なのだろうか……などと考えながら、セイルは地面に落ちている黒い金属の塊……今はアミルが剣で突いているソレへと視線を向ける。


「クロス。支部長の呪いは解けたと思うか?」

「呪物は壊した。あとは身体に溜まった呪いをどうにかするだけ」

「む、まだあるのか」

「勿論。身体の抵抗力が弱まってたら、いつまでも呪いが残留するかもしれない」


 カオスディスティニーにおけるバッドステータスは「ターンごとの判定」で治るものだった。

 勿論現実である以上はそんな簡単にはいかないだろうが、やはり何らかの儀式が必要であるだろうことはクロスの言葉からも分かった。


「となると、オーガンに頼むべきか」


 イリーナの回復魔法の結果か、元気に走り回って回復魔法をかけているらしきオーガンを視界の隅に捉えながら、セイルはそう呟く。


「それでいいと思う。私は本職じゃないし」

「そうだな……で、あの呪物はどうする」

「持って帰ればいい。たぶん、何かの役に立つ」

「なら、そうするか。クロス、そろそろ離れてくれ」

「やだ」


 抵抗するように抱き着く力を強くするクロスを仕方なく引きずりながら、セイルはアミルが見張っている黒い金属の塊の元へと歩いていく。

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