そう、我等
「うっ……くうっ……」
痛む体を無理矢理動かしながら、アミルは剣を構え直す。
彼女が立てているのは、背後に倒れているオーガンの回復魔法のおかげである。
アミルが壁のような形になりながらも動けないオーガンは、それを察した瞬間に回復魔法をアミルへとかけていたのだ。
だが、他の仲間はそういうわけにもいかない。
ガレスの大きな盾も、闇の魔力を含む地震を防ぐようになど作られてはいない。
ウルザの高い回避能力も、翼がその身にあるわけでもなければ意味はない。
離れていたイリーナ達とて、直撃というわけではなくとも今すぐに動けるわけでもない。
だから、今セイルを助けられるのは自分しかいない。
そんな使命感を抱きながら、アミルは走る。
まずやるべきはセイルへの加勢ではなく、その憂いを取り除くこと。
そして、セイルは。唯一ダーククエイクを正面から耐え抜いたセイルは、カースゴーレムの猛攻を素早く避けていた。
「あれだけの大技の後にまだ動くか!」
大量の闇の魔力を放出したはずのカースゴーレムだが、動きが鈍るどころか速くなっている。
その巨体に絡みつく闇の魔力が原因であるだろうことは想像に難くなく、恐らくは先程のダーククエイクが攻撃と同時に自身を強化する固有能力なのであろうとセイルに予測させる。
セイルの振るうヴァルブレードによる傷が直っていくところを見るに、自己回復能力まで備えている。
「オオオオオオオオオオオオ!」
「くっ!」
それだけではない。闇の魔力を纏うことで、射程も僅かに変化している。
目の前を通り過ぎたチリリとした僅かな痺れを伴う闇の魔力。
恐らく、まともに受ければただではすむまい。
「ここまでとは、な」
今までの戦闘が予想よりも楽であった為に、多少甘く見積もっていた感は否めない。
ヴァルブレードを強化したという事実も、セイルの予測を甘くした原因ではあっただろう。
だが、そうだとしてもここまでの強敵であるなどと想像はつかないだろう。
ヴァイスの「厄介」という呟きは倒せない相手ではない、というニュアンスを含んでいた。
ガチャ産ではない現地の武器や防具でも倒せる相手。
そう判断したのは決して間違っていなかったはずだ。
「はあっ!」
カースゴーレムの腕を躱し、足元へと潜り込んだセイルがヴァルブレードによる一撃を放つ。
ヴァルスラッシュは撃たない。
カースゴーレムは、間違いなくヴァルスラッシュを警戒している。
その結果があのダーククエイクであったならば、今それを放つ事は倒れている仲間への再度のダーククエイクという結果を招きかねない。
「オオ、オオオオオ!!」
ヴァルブレードによって深く切り裂かれたカースゴーレムの足はその瞬間に高速再生を始める。
セイルを吹き飛ばそうとするかのような蹴りを回避しながら、セイルは今度はもう一方の足へと斬撃を加える。
「オオオオオオオ!?」
「どうした、俺は此処だぞ!」
カースゴーレムの攻撃を躱しながら、セイルは傷の再生速度を確かめ舌打ちをする。
やはり、ダメだ。
異常なほどに再生能力が高すぎる。
カースゴーレムを叩き壊すには、ヴァルスラッシュを撃つしかない。
だが、どうやってその隙を作るか? どうすればダーククエイクの発動を妨害できるのか?
そう考えた時。カースゴーレムの周囲に3つの魔法陣が浮かび上がる。
「これは……クロスの!」
魔法陣の中から飛び出たソルジャーアーマー達は一斉にカースゴーレムへと攻撃を加えるが、それでもたいしたダメージは通っていない。
振り向いた先には、遠く離れたクロス達の姿があり……そこから叫ぶアミルがいた。
「セイル様、全員避難完了です! どうぞご随意に!」
「……! よくやった、アミル!」
ならば遠慮する必要は何処にもない。当たるまでヴァルスラッシュを放ってやると、セイルはそう考えアミルに「離れていろ」と叫ぼうとして。
しかし、何か直感的なものがその声を押し留める。
違う、そうではないと。
放つべきはソレではないとセイルの中で何かが叫ぶ。
そして。セイルは……そして、アミルは。天啓のように「それ」を知る。
「来い、アミル!」
「はい、セイル様!」
カースゴーレムの拳を躱し一撃を入れながら、セイルはアミルを呼ぶ。
セイルの中に生まれていた新たなアビリティ「協力攻撃」。
それはカオスディスティニーでは「隣接するユニットのうち、好感度の高いユニットと職業に合わせた合体攻撃が一定確率で発動する」というものだった。
そしてどうやら……今が、その時である。
「オオオオオオオオオ!」
纏わりつくソルジャーアーマーを壊しても、また新しいソルジャーアーマー達が現れてカースゴーレムへと執拗に攻撃を加える。
その度にカースゴーレムはソルジャーアーマーを律儀に壊していく。
ダーククエイクで一気に吹き飛ばす事など、全く考えつかないかのようなその動き。
いや。事実そう「定められていない」のだろう。一定以上の攻撃で無ければダーククエイクによるカウンターを放たないように仕込まれているのだ。
大威力の攻撃を放つような相手でなければ通常の攻撃で全滅させられると……このゴーレムの作成者もまた、そんな甘い考えを抱いていたのだろう。
「お待たせしました、セイル様!」
「ああ、アミル。やるぞ!」
「はい! いきます……王国剣兵隊、全員整列!」
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