大きくて硬いというのは、それだけで脅威である

「ぐっ……!」


 カースゴーレムから伝わってくる圧のようなものに、セイルは気圧されるような感覚を味わう。

 強い。それを感じ取ったのだ。

 だが、引くわけにはいかない。


「全員、こいつを囲め! 俺が正面を担当する!」

「はっ!」


 本来守るべきセイルを最正面に立たせるということは、王国兵の面々にとっては忌避すべき事だろう。

 しかしアミル達はセイルが一番強いということを知っているし、ガレスやオーガンにとってみれば最高指揮官であるセイルに現場で反抗するなどということは基本的に有り得ない。

 セイルの次に硬いアミルやガレスを左右に、そして一撃死を狙えるウルザが後方へと移動を始め、クロスの召喚したソルジャーアーマーがアミル達3人をサポートするように移動する。

 イリーナ、エイス、そしてクロスといった後衛陣はカースゴーレムの攻撃に巻き込まれないように射程ギリギリの位置へと展開していく。

 そしてこの中で一番回復役としての能力が高いオーガンは遊軍。必要に応じてサポートする役だ。


 ……そして、その布陣が完成するまでの間にもカースゴーレムとセイルの戦いは始まっていた。


「オオ、オオオオオオ!」


 カースゴーレムの振り上げた巨大な腕が振り下ろされ、大地を砕く。

 一瞬前まで其処に居たセイルはヴァルブレードを振るいその腕を斬ろうとするが、その寸前にカースゴーレムはその腕を引き戻す。


「チッ、速い……!」


 大きくて硬い、そして重い。となれば鈍重というのが相場だが、現実はそうではない。

 カースゴーレムは、動きが速い。

 勿論移動速度までそうであるとは限らないが……少なくとも腕の動きは速い。

 

「ダーク!」


 援護するようにイリーナの魔法が飛ぶが、肩に命中したダークの魔法はバシュンッと音を立てて着弾した「だけ」の結果に終わる。

 効いているのかもしれないが、効いていないのかもしれない。少なくとも外見では判別がつかず……その理由も、イリーナには分かっていた。


「やっぱり……闇魔法じゃ……」


 カースゴーレムも、イリーナのダークも闇属性。故に、効きが非常に悪いのだ。

 この場でカースゴーレムにより強いダメージを与えられるのは光属性であるクロスとオーガン。

 しかし召喚士であるクロスはイリーナより弱い魔法しか使えず、神官であるオーガンは「前衛をこなせるが本職の前衛程ではない」という特殊なタイプだ。積極的に前に出る事はしても、強力でタフな個体を相手にするほどの力はない。


「でも気は逸らせる」

「つーか、俺の矢よりゃマシでしょ。全然効いてねーし」


 クロスの呟きに応えるように、ソルジャーアーマー達がカースゴーレムへと攻撃を開始する。

 突き出す槍は僅かにカースゴーレムの表面を削るだけで、エイスの矢も弾かれている。

 ビッグシールドを構えるガレスも、ウルザも攻撃する隙を伺っている中……果敢に突撃を敢行するのはアミルだ。


「やあああああああ!」


 叫び突撃するアミルへとカースゴーレムはその光る眼を向けるが、正面のセイルよりは優先度が低いと判断しおざなりに腕を振るう。

 ……が、アミルはそれをギリギリのところで避けるとカースゴーレムの足元へと肉薄し剣を振るう。


 気合一閃。横凪ぎに振るった剣は……その硬い身体に弾かれながらも、確かな傷をその表面に残す。


「!? オオオオオ!」

「きゃっ!」


 カースゴーレムの振り回す腕がアミルを弾き飛ばし、素早く走ってきたオーガンがその身体を受け止めながらも盛大に背中から倒れ背後の木まで滑るように激突する。


「ぐ、たた……老骨にはキツいのう!」

「す、すみませ……」

「いや、構わんとも。見よ」


 言いながらアミルへと回復魔法を使うオーガンの示す先、アミルの視界には。今のカースゴーレムの隙を狙い足元まで辿り着いたセイルの姿があった。


「ヴァル……スラァッシュ!!」


 輝くセイルのヴァルブレード。その軌跡に、アミルは勝利を確信して。

 しかし、次の瞬間。その目は驚愕に見開かれる。

 いや、アミルだけではない。全員が、その光景に絶句する。


 ズンッ、と。大地を揺らす衝撃と共に、カースゴーレムが跳躍したのだ。


「な……っ」


 空振りしたヴァルスラッシュ。遥か上空へと跳躍するカースゴーレム。

 その姿に、セイルは唖然とした表情で上を見上げて。

 黒いオーラを纏い始めたその姿に……次に何が起こるかに気付く。


「全員、備え……いや、退避! アビリティ攻撃だ!」


 降りてくる、落ちてくる。

 闇色の塊と化したカースゴーレムが大地を揺らしながら、大地を砕きながら地上へと帰還する。

 発生した局地的な地震は同時に闇の波動を放ち、構えた盾の防御を貫く魔法衝撃となって周囲へと広がっていく。


 ……名付けるなら、ダーククエイクといったところだろうか。

 翼持つ者でもない限り、この衝撃から逃げる事は不可能であっただろう。

 離れていたイリーナ達への影響は少なかったが……破壊され消えたソルジャーアーマー達と、倒れ伏した仲間達がその威力を彼女達にも充分すぎる程に想像させていた。


「ぐっ……」


 ダーククエイクの破壊の中……立っていたのは、セイルと……アミルの、2人だけであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る