ゴブリンの襲撃2

「ヴァル……スラアアアアッシュ!」


 セイルの咆哮に応えるかのようにヴァルブレードが眩く輝く。

 

「ギイアアアアアアアアア!」


 ゴブリンキングの棍棒が、負けじと赤く輝く。

 オークジェネラルと同じパワースラッシュ……いや、パワースマッシュといったところだろうか。

 あの時のそれよりも更に禍々しい輝きを放つ棍棒がヴァルブレードとぶつかり合う。

 そしてそれは実際、オークジェネラルのパワースラッシュよりも遥か上の威力だっただろう。

 あの時セイルがこのゴブリンキングと打ち合っていれば、あるいは押し負けたかもしれない。


 ……だが。ヴァルブレードの力は、あの時の比ではない。

 ゴブリンキングの赤く輝く棍棒をヴァルブレードは切り裂き、光の消えたヴァルブレードをそのままセイルはゴブリンキングの腕へと振り下ろす。


「ギ、ギエアアアアアア!?」


 信じられないものを見る目で棍棒を見ていたゴブリンキングは、瞬間的な判断で後ろへ飛び退こうとするも間に合わずに腕を深々と切り裂かれる。


「ギ、ギイイイイ……」

「逃げられると思うなよ……お前は此処で仕留める」


 油断はない。先程の攻撃で、ゴブリンキングが相当に強い事はセイルも充分に理解している。

 ヴァルブレードを構え、セイルはゴブリンキングを見据える。

 逃がしはしない。此処で逃がせば、後々何を仕掛けてくるか分かったものではない。

 じりじりと下がろうとするゴブリンキングとの距離を詰め、セイルは叫ぶ。


「ヴァル……!」

「ギア、ギア! ギオオオオオオ!」


 ヴァルスラッシュをセイルが放とうとした、その刹那。

 ゴブリンキングの咆哮に応えるように数匹のウルフ達が左右の茂みからセイルへと襲い掛かって。

 その隙を狙うように、ゴブリンキングの拳が赤い輝きに覆われる。


「ギヒヒヒ! ギイイイイイ!」


 完全に隙をついたと。勝ったと言わんばかりの声をあげながらゴブリンキングはセイルへと殴り掛かる。

 ……だが、すぐにその顔は驚愕に変わる。

 自分に噛みつこうとするウルフ達を全く構わず、セイルはゴブリンキングだけを見据えていて。

 セイルの周囲に展開した3つの魔法陣から、3体のソルジャーアーマーが現れセイルの壁になる。


「スラッシュ!!」


 再び、2つの輝きがぶつかり合う。

 いや。赤い輝きを、ヴァルブレードの輝きが一方的に蹂躙する。

 武器すら失い素手で挑んだゴブリンキングが、セイルに勝てる道理はない。


「ギアアアアアアアアア!?」


 深々と切り裂かれたゴブリンキングは絶叫をあげ、身体を投げ出すようにして地面に転がる。

 完全に絶命したその姿に残ったゴブリン達は悲鳴を上げる。

 強いジェネラル達を統率した、偉大なるキング。

 それが倒れた事がどれ程の事態か、頭の悪いゴブリン達にも充分すぎる程に理解できてしまったのだ。


 逃げていくゴブリン。そして統率を失い逃げていくウルフ。

 それを追う事はせず、セイルはふうと息を吐き振り返る。

 

「全員、怪我は!?」

「ありません!」


 素早く全員の状態を確認したアミルが代表して答え、セイルは「よし」と頷く。

 懸念事項であったゴブリンについては、これで潰せたと考えていいだろう。

 予想よりも多少大規模ではあったがゴブリンを潰すことで、新しい仲間のレベルアップも出来たと考えていいはずだ。

 カオスゲートを取り出し確認してみればクロスがレベル5、オーガンとガレスがレベル3になっている。

 クロスの方がレベルが高くなっているのは、ソルジャーアーマーの撃破分がそのままクロスに経験値として入ったからだろう。

 そのソルジャーアーマーも今は周囲に敵がいないのか、それとも護衛のつもりなのかセイルの側で置物の鎧のように突っ立っている。


「奥に進むぞ。クロス、方角は?」

「変わらず。そのままでいい」

「よし」


 陣形を元に戻すと、再びアミルを先頭にセイル達は進みだす。

 時折ゴブリンの気配を感じたかソルジャーアーマーが反応する事があったが、クロスの「防御優先で」という命令を聞いているソルジャーアーマー達は走り出すことはなかった。

 ゴブリン達……今となっては残党と化したゴブリン達もセイルが近づいてきた事に気付くと逃げていく為、戦闘らしい戦闘も起こらずにセイル達は森を奥へと進んで。


「此処」


 クロスの、そんな言葉に立ち止まる。


「此処……? 何処だ?」

「む、確かに感じるです。今アミルのいる辺りから4歩先くらいです」


 クロスに続いてイリーナもそんな事を言い出し、アミルが「えっ」と声をあげる。

 その先には他と同じ草むらがあるだけで、何もないように見えているからだ。

 しかし、2人があると言うからにはあるのだろうとセイルは判断する。


「それで、どうすればいい。掘り起こせばいいのか?」

「ううん、必要ない」

「……ですね」


 何かを納得したように頷き合うクロスとイリーナに他の全員が疑問符を浮かべるが、すぐにオーガンが「むっ」と声をあげる。


「セイル様、警戒を! 来ますぞ!」


 そう叫んだその瞬間。地面がグラグラと揺れ始める。


「此方が気付いた事に気付いたようですな……!」


 地面から、拳大の大きさの黒い金属の塊のようなものが飛び出す。

 空中に浮遊する金属塊は、凶悪な赤い輝きを宿らせて。

 

「……! 全員、下がれ!」


 セイル達の足元の地面が爆発するように盛り上がり、金属塊へと向かっていく。

 それは黒く染まりながら金属塊を覆い、巨人の姿を象っていく。

 地面も草も木も、周囲の全てを黒い金属質の身体へと変えて、見上げるような巨人がその姿を顕現させていく。


「オ、オオ……オオオオオオ……」


 地の底から響くような声をあげて……セイル達の前に呪いの巨人、カースゴーレムが完成した。

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