ゴブリンの襲撃
「セイル。召喚する?」
「ソルジャーアーマーか。有難いが……本番はまだ先だぞ。大丈夫か?」
カオスディスティニーでは、召喚にはある程度の制限があった。
具体的には星の数だけの召喚が可能……というものだったが、それと同じであるとするならばクロスに召喚可能なソルジャーアーマーは3体ということになる。
「問題ない。任せて」
そう答えると、クロスは召喚書を開き呪文らしきものを唱え始める。
「此処に扉を開く。呼びかけに答えよ異界の使者、契約の書はこの手に。捧ぐ対価はこの身に。出でよ、現れ出でよ。汝、硬き者。異界の兵士。永久の戦場にて槍を振るう者!」
セイルの前の地面に3つの魔法陣が現れ、その中から槍持つ全身鎧が現れる。
ソルジャーアーマー。クロスが召喚する防御重視の召喚ユニットだ。
クロス同様レベル1ではあるが、それでもかなりの防御力を持っている。
周囲を警戒させろ、と。そうセイルが言うその前に、ソルジャーアーマー達は一斉に前方へと走り出す。
「なっ……クロス!」
「何か見つけたみたい。たぶん敵」
そんなクロスの言葉を証明するように、ソルジャーアーマー達は走った先の木の陰に槍を突き刺す。
響く汚い悲鳴に、エイスが「ゴブリン……!」と叫ぶ。
繰り出された槍は3本、仕留められたゴブリンも3体。
「待ち伏せか……!」
セイル達の行く先、その先でガサガサと音が響き始める。
無数の音にはやがて耳障りな鳴き声が混ざり始め、身体に枝や葉で覆った擬装用の衣らしきものを纏ったゴブリン達がその姿を現す。
「ゲッ、森林用の偽装……!?」
「やはり指導者がいる! 全員、近づく奴から仕留めろ!」
囲まれ戦い始めたソルジャーアーマーをそのままに、セイルは指示を出す。
ゴブリンの総数は不明。かなりの数が森の向こうからやってきているのは確かだが、数を数えている暇はない。
「ダーク!」
飛び掛かってきたゴブリンをイリーナの魔法が消滅させ、アミルの剣が別のゴブリンを両断する。
「結構な数がいるわよ! 突破じゃなくて迎撃でいいのね!?」
「ああ!」
恐らくあのまま進んでいれば、ソルジャーアーマーではなくセイル達がゴブリンの群れに飛び込む事になったはずだ。
森林用の偽装。バレた時に素早く囲む統制のとれ方。
間違いなく近くにジェネラルがいるとセイルはみていた。
となると、後から追われるよりは此処で迎撃してしまった方がいい。
「邪魔なゴブリンは此処で片づける! 全員、俺達の経験値に変えてしまえ!」
「了解!」
一斉に声が響き、ゴブリンの不快な声を一瞬ではあるが打ち消して。
更にそれを打ち消さんとばかりに大きな咆哮を響かせる何かがソルジャーアーマー達へと襲い掛かる。
ゴブリンジェネラル。木を削って作ったらしい棍棒を振るうゴブリンジェネラルに1体のソルジャーアーマーが殴られ吹き飛ぶが、すぐに他の2体がゴブリンジェネラルへと槍を突き刺す。
「凄い……!」
「油断するなよアミル、まだ敵の総力は……」
「ギイイイ!」
後方から響いた声と何かを吹き飛ばすような音に、セイルは慌ててそちらへと視線を向ける。
「ぬ、ぐう!」
そこには、もう1体のゴブリンジェネラルと……その攻撃を受け止めるガレスの姿があった。
「な、なんだ! 何があった!?」
「地中じゃ! こやつ、地中に潜っておった!」
叫びながらオーガンはゴブリンジェネラルへとメイスを叩き付ける。
盾で攻撃を受け止めていたガレスもハルバードを突き出すようにしてゴブリンジェネラルを攻撃し、エイスの放った矢がその隙間を縫ってゴブリンジェネラルへと突き刺さる。
「1体じゃない……のか!」
援護に行くか否か。セイルがそれを判断しようとした瞬間、森の中を疾走する何かがセイルへと飛び掛かってくる。
咄嗟にセイルが振ったヴァルブレードに切り裂かれ地面に落ちたそれは、藍色の毛を持つ獣……ウルフだ。
「ガルルルルル!」
「ガアアアア!」
「くっ!」
1体ではない。ゴブリンと連携するかのように数匹のウルフが左右から飛び掛かり、セイルとウルザへ襲い掛かる。
「ダーク!」
「ギャッ……」
イリーナのダークで一匹が消えてなくなり、ウルザの振るった短剣が一撃でウルフを絶命させる。
セイルもヴァルブレードを振るうが、敵はウルフだけではない。
アミルもソルジャーアーマー達がゴブリンジェネラルを相手にしている事で抜けてくる正面からのゴブリン達を斬り倒す事で手一杯だ。
「なんて数……!」
「陣形を崩すな! イリーナ、お前は後方のゴブリンジェネラルを!」
「了解、です!」
少々数が多いが、問題ない。
最初の奇襲をソルジャーアーマー達が崩した時点で、セイル達の勝ちは揺るがない。
そして何より。倒せば倒す程、セイル達はレベルアップして強くなる。
それを証明するかのように、イリーナのダークが後方のゴブリンジェネラルの頭を消滅させた時……ガレスとオーガンの動きが目に見えて良くなった。
そして前方でも、ソルジャーアーマー達が倒れ伏したゴブリンジェネラルにトドメを刺している。
「よし、残りを掃討しろ……!」
セイルがそう叫んだ瞬間、前方のソルジャーアーマー達が何かに弾き飛ばされ木々に叩き付けられ、その内の1体がダメージ許容量を超えたのか粒子となって消えていく。
「ギイ……ギガアアアアアアアア!」
丸太のような巨大な棍棒を持ったゴブリン。
オークと見間違うような巨体は、ゴブリンジェネラルとは比べ物にならない程の筋肉に覆われている。
「……ゴブリンキング、というわけか」
「セイル様、私が!」
「待て、アミル。オーガン! しばらく俺の位置を頼めるか!」
「勿論じゃ!」
後方をガレスに任せ走ってくるオーガンに場所を譲るように、セイルは前方へと走る。
「アレは俺が仕留める……!」
3体目のソルジャーアーマーをゴブリンキングが粒子に変えて。
動き出そうとするその前に、セイルはゴブリンキングの正面へと迫っていた。
「出し惜しみはなしだ……いくぞ!」
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