武具の合成は意外と成否を分ける

 セイルは全員に告げると、カオスゲートへと視線を落とし……やがて、チラリと視線を上げる。


「……どうした? 何か言い忘れた事でもあったか?」

「いえ、なんつーか……」


 疑問符を浮かべるセイルにエイスは視線を逸らすが、クロスがずいと出てきて「例の合成っていうのを見たい」と言い出す。


「見て面白いものでもないと思うが……いや、面白いか? どうだろうな……」


 今回の特殊合成がどういう挙動を示すか分からないが、中々手に入りそうにないアイテムを使う以上は中々見れない「面白いもの」かもしれない。

 そう思い直したセイルは頷くと、カオスゲートの画面を全員に見えるように向ける。


「なら、見ていくといい」

「そうする」

「あ、こら!」


 すかさずセイルの座っているベッドの横に陣取るクロスだが、アミルに窘められても何処吹く風である。


「まあアミル、そう怒るな」

「セイル様。お優しいのは分かりますが、あまり甘やかすのは……」

「羨ましいなら反対側に座ればいい」

「なっ」


 クロスに混ぜっ返されたアミルは硬直するが、そのクロスも溜息をついたセイルに頭をコツンと軽く叩かれる。


「クロス、お前もあまりアミルをからかうんじゃない」

「分かった」


 素直に頷くクロスと違いアミルは固まったままだが……セイルに「アミル、気にするな」と言われればようやく動き出す。


「さて、始めるか……」


 錆びた武具は無数にあるが、その「錆びた武具」シリーズに「錆びた鎧」といったような防具系は存在しない。

 ついでに言うと、元の「錆びた武具」がどの系統であるかも考慮されない。

 錆びた剣を使えば剣系の武器の確率が上がると信じて検証した者も居たが、結果は芳しくなかったという。

 これはカオスディスティニー運営の適当な仕事のせいと言う者も多かったが、好意的に「魔力による打ち直し」と解釈する者も多かった。

 ……まあ、それはさておき。この世界でもその法則が再現されているのは間違いない。

 ならば、適当な「錆びた武具」とカースゴーレムのコアを合成すればいい。


 セイルはカオスゲートの「合成元」に錆びた剣を選択し、合成アイテムに破損したカースゴーレム・コアを選択する。

 そうすると、合成画面に赤いメッセージが浮かび上がる。


 注意! 特殊合成です。失敗の場合も「破損したカースゴーレム・コア」はロストしますがよろしいですか?


 はい、いいえという選択と共にそんなメッセージが浮かびあがり、エイスがゴクリと喉を鳴らす。

 特殊合成にかかる金額も50シルバー。決して軽いリスクではない。


「な、なんか怖いですねコレ」

「まあ、「はい」を選ぶんだがな」

「うえっ!?」


 迷いなど無い。セイルはこういう時に迷えば運が逃げると信じている。

「はい」をセイルが選択したその瞬間、カオスゲートから光が溢れ出す。

 特殊合成を表す白と黒の渦のような光は……成功であれば弾ける電撃のようなエフェクト、失敗であれば真っ黒な闇のようなエフェクトへと変化するはずだった。


「来い……来い……!」

「お願いします、どうか……!」

「来る、絶対来るです……」


 セイルだけでなくアミルもイリーナも画面を見守りながら呟き、他の面々も祈るような表情でカオスゲートの画面を見つめて。

 ……やがて、カオスゲートから無数の電撃のような何かがバチバチという音と共に飛び出す。


「セイル様!?」

「問題ない! きた、きたぞ! ハハハ、きた!」


 動きかけた仲間達を制し、セイルはカオスゲートの画面を見つめる。

 放たれた電撃のようなものはセイルやクロスの身体で跳ねるが痛みも何もない。

 ならば何も問題はないと、セイルは未だ電撃エフェクトで見えないカオスゲートの画面へと視線を集中する。

 そして、電撃のエフェクトの奥から……その「結果」が姿を見せる。


特殊合成結果:

カオスアイ(☆☆☆★★★★)


「これ、は……」


 鎧ではない。しかし、武器でもない。

 星3ではあるが、これは……。


「ローブ、だな。これは」

「え?」


 セイルがアイテム詳細を確認すると、その内容が浮かび上がってくる。


名称:カオスアイ

レベル:1/50

種別:ローブ

物理防御:20

魔法防御:70

魔法攻撃力:20


【付属アビリティ】

・未開放


魔界からの帰還者が纏っていた材質不明のローブ。

纏う者は闇へ抗う力を得るとも、闇へ誘われるとも伝えられる。

とある魔族が姿を変えたものだとも噂されるが……?


「なんだか呪われていそうな説明書きじゃのう」

「……確かに。セイル様、これは世に出して平気なものなのでしょうか」


 オーガンとガレスは心配そうにそう言うが、イリーナは食い入るようにカオスゲートを見つめている。


「セイル様……これ、欲しいです」

「ああ、そう言うと思った。しかしな……」


 ゲーム……カオスディスティニーであれば、セイルはこの防具を迷いなくイリーナに与えただろう。

 しかし、現実である今はそれが正解であるか判断できない。

 この「カオスアイ」の説明テキストは、何処まで現実となるのか?


「……危険だ。これは出さない方がいいだろう」

「セイル様」


 カオスゲートを仕舞おうとするセイルの手を、イリーナが掴む。


「私に、くださいです」

「だが……危険だ。何かあってからじゃ遅いんだ」

「そんなものは、超えるです」


 セイルを正面から見つめたまま、イリーナは譲らぬ強い瞳をセイルへと向ける。


「例えそのローブが危険だとしても。私が制するです。だから……やる前に、諦めないでほしいです」

「……」


 常識を超えろ。そうイリーナに言ったのは、セイルだ。

 諦めるなと言ったのも、セイルだ。


 セイルはイリーナを見つめ返し……やがて、諦めたように溜息をつく。


「……分かった。だが危険だと思えばすぐに回収するぞ」

「……! はいです!」


 嬉しそうな顔をしてピョンピョンと跳ねるイリーナに苦笑しながら、セイルはカオスゲートからカオスアイを取り出す操作をする。


 いつもと同じように、セイル達の目の前にドサリと落ちるはずのカオスアイは、そうはならなかった。


「……え?」

「なっ!」


 部屋の中に出現した紫色のローブはしゅるりと溶けるようにその形を崩し、イリーナのローブや帽子に融合するように巻き付いていく。


「イリーナ!」

「大丈夫です!」


 ヴァルブレイドを抜きかけたセイルを、イリーナが制する。

 全員が武器に手をかける中……イリーナを覆っていた紫色の何かは、イリーナの帽子とローブをそれまでのものとは全く違うデザインに変える。

 

 ローブは、不可思議な装飾のついた紫色。

 帽子は、やはり紫色で……正面に、閉じた大きな目のようなデザインの紋様がついている。

 セイルがカオスゲートでデータを確認すると、やはりイリーナの装備を変えたコレが「カオスアイ」であることが確認できる。


「……ちゃんと、主と認めたみたいです」

「そ、うか。しかし……」


 何が「とある魔族が姿を変えたものだとも噂されるが……?」だ、とセイルは心の中で毒づく。

 魔族でなければ呪いのアイテムか何かで間違いないようにすら思える。


「……まさか、本当に魔族じゃないでしょうね」

「知らない。でも、強くなったような気がする」


 アミルが警戒するようにカオスアイを見ているが、イリーナは満足そうだ。


「とりあえず、呪いのようなものは感じないのう。マジックアイテムかもしれん」

「……ならいいんだが」


 オーガンの言葉にセイルは溜息をつく。


「まあ、これからソレも強化するんだが……ちゃんと脱げるのか? それ」

「隣で脱いでくるです」


 完全に前のローブと融合してしまっているカオスアイを脱ぐべく、イリーナは女子部屋へと戻っていく。


「……セイル様。本当によろしいんでしょうか」

「さて、な。大丈夫だと信じたいところだが……アミル、お前もだぞ?」

「あ、し、失礼しました!」


 慌てて女子部屋へと戻っていったアミル達が持ってきた装備。

 そしてエイス達の置いていった装備をカオスゲートに取り込むと、セイルは合成を始めるべくカオスゲートの操作を始めた。

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