インターミッション

 空舞う蛙亭に戻ったセイルは、ここまでの話について仲間達に軽く説明していく。

 冒険者ギルドでの騒動、そして支部長の件……その全てについてだ。


「情報漏洩、ね」


 最初にそう呟いたのは、ウルザだった。

 隠密的な役割も果たすウルザとしては畑違いの呪いの話よりも、そちらが気になるのだろう。


「たぶんそれ、個人情報に留まる話じゃないわね」

「と、いうと?」

「依頼の詳細についても漏れてると考えていいと思うわ」


 確かにあり得る話ではある。むしろ、漏らしていないと考える方が不自然だろう。


「それは俺も考えたが……漏らしたからどうなるという話でもないだろう」


 そもそも盗賊の拠点も今いる位置も不明なのだ。

 漏らされた所で、どうなる話でもない。


「セイルが持って帰ってきたこの資料だけど。冒険者ギルド側で把握してる被害について書いてあるわよね」

「ああ、そうだな」


 被害者は生きておらずとも、現場に残された痕跡は幾らでもある。

 そうしたものから算出された被害や場所などがセイル達の持ち帰ってきた資料には書いてある。

 通常ならそこから盗賊の位置を計算するのだろうが、今回は被害が王都の全周なので然程意味はないとセイルは考えていた。


「これを見る限り、僅かに北の被害が大きいように見えるわ。恐らくそれを前提に、北に向かう依頼でも受けてるんじゃないかしら?」

「……ああ、なるほどな」


 ついでに退治してしまう分には問題ない。セイルもアーバルで使おうとした手だ。


「セイルより先んじて盗賊団を倒して、「役立たず」と罵る。狙いはこんなところかしらね」

「許せません……!」

「やー、そりゃ卑怯ですわ。ま、俺も自分が同じ立場だったらやるでしょうけどね」


 余計な事を言ったエイスがアミルに睨まれて目を逸らすが、それはさておき。


「だとしたら、それはそれでも構わない。支部長の呪いが解けさえすれば、あの副支部長は黙らせる事が出来るだろうしな」


 支部長が倒れている事が、副支部長の専横の原因だ。

 ならば支部長の呪いを解いて復帰させてしまいさえすれば、何も問題はない。

 余計な妨害も表向きはなくなるだろうし、必ずしもセイル達が盗賊を倒す必要もない。

 ランク云々に関しては、アンゼリカとの縁も得た以上はそこまで優先すべき問題でもないからだ。


「だとすると、問題は呪いの方……です」

「私達の世界の常識に照らし合わせるなら、たぶん相手はカースゴーレム。大きさと形態は不明だけど、強いのは間違いない」


 イリーナを補足するようにクロスはそう告げる。

 その敵はあくまでカオスディスティニーの話ではあるが、セイルにも覚えがある。


 カースゴーレム。呪いで黒く染まった身体を持つ巨人型の敵だ。

 グラフィックから判断するに恐らくは金属製の身体を持ち、驚くほどに硬く強い物理型の敵だ。

 しかも厄介な事にカースゴーレムはある程度の魔法防御も備えている。

 オリハルコンゴーレムやミスリルゴーレムといった怪物級程ではないが厄介な、そんなゴーレムだった。


「中々に厄介だな……」

「どうにかするしかない」

「確かにな」


 クロスの淡々とした言い様に、セイルは思わず苦笑する。

 そう、やるしかないのだ。やらなければ、何も始まりはしないのだから。


「けど、カースゴーレムを作るほどの呪術士……一体何者なのでしょうか」

「さて、な」


 それを推測するには、あまりにも情報が足りていない。

 ヴァイスの呟きを信じるなら、王都を拠点にしている者ではないのだろう。

 他の国から流れてきた呪術士という可能性もあるが……今それを考えても仕方がない。


「それについては今は予測しかできないが……今回の探索で遭遇する可能性もある。出来れば対策をしておきたいな」

「そんなのない。運と根性」

「……そうか、残念だ」


 そう言ってから、セイルはふと思いついたようにクロスへと視線を向ける。


「そういえば、お前の白の護法陣。あれは呪い対策に使えないのか?」

「無理。あのおじさんの呪いを見る限り、私よりずっと魔力が強い。護法陣を張っても、たぶん抜かれる」

「重ね重ね残念だな……だがまあ、仕方がないか」


 そもそもクロスはレベル1だ。レベルを上げれば、あるいは対抗できるようになるかもしれない。

 そんな事を考えながら、セイルは全員の顔を見回す。


「他に何か意見はないか? 思い付きでもなんでもいい」

「あ、それなら一つあるわ」


 軽く手をあげるウルザに、セイルは続きを話すように促して。


「副支部長のオバサンが暗殺者を放ってきたらどうするの? 可能性はあるわよ」

「む……」

「そ、そこまでするでしょうか。流石にそれは妨害の域を超えてますよ」

「有り得ない話じゃないわよ。さっきの話のヴァイスとかいう男も、それを警戒してるから護衛をつけてるんでしょ?」


 確かに、有り得ない話ではない。

 セイル達を消そうと思うなら、王都を離れている時が一番都合がいい。


「……そうだな。その時は……可能であれば暗殺者を捕縛して雇い主を吐かせる」

「不可能な時は?」

「その時は……仕方ないだろうな」


 あえて明言する事はしない。

 しかし、その意味するところを……その場に居た全員が、一切の齟齬無く理解した。

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