寄り道2
促され部屋に入ると……そこは、しっかりと掃除された立派な部屋だった。
豪華というわけではないがしっかりとした家具が据え付けられ、主の質実剛健を好む性格が見て取れる。
ベッドも同様に大きくはあってもシンプルだが……そこに今、一人の男が寝ているのが見えた。
「……ヴァイス。そいつ等は誰だ?」
「ご報告した、王女様に好かれた連中ですよ」
「ああ、なるほどな」
ヴァイスの報告に頷く男は、見た目はおおよそ40~50代に見えた。
ボサボサの青髪は僅かにくすんでおり、目元には隈が見える。
しかし鍛えているのであろう身体はがっしりとしており、とてもそれなりの期間寝込んでいる人物には見えない。
そんな男はゆっくりと起き上がると、ベッドの縁に腰掛けるように座る。
「俺がこの王都ハーシェルの冒険者ギルド支部長、バグロムだ。大方ヴァイスが思わせぶりな事でも言って連れてきたんだろう……すまんな」
「セイルだ。こっちはアミルとクロス。謝罪は確かに受け取ったが……俺達はあんたが呪いにかけられたかもしれないと聞いている」
早速本題に入ったセイルに、バグロムは「ああ」と頷く。
「あくまで可能性の話だがな。それにコネリィが原因とは限らん」
「まあだ言ってんのかよ」
バグロムに呆れたようにヴァイスが肩をすくめるが、そんなヴァイスをバグロムは睨みつける。
「俺はむしろ、この王都の周辺に潜む盗賊共を疑っている」
「盗賊か……確かにその討伐の依頼は受けたが。何故盗賊が?」
「これは俺の勘だが……今回の盗賊騒動はおかしい」
そもそも盗賊稼業とは、やり過ぎないようにするのが鉄則だ。
あまり略奪し過ぎれば獲物も警戒するし、当然難易度も増す。
更には本気で討伐依頼が出されれば手練れの冒険者、場合によっては騎士団もやってくる。
少ない回数で最大の稼ぎを。それが盗賊稼業を長く続けるコツなのだとバグロムは語る。
「しかし、今回の連中は違う。まるで王都に入る者から根こそぎ奪うと言わんばかりに王都の全周に出没する」
「俺達が王都に来る時に護衛した馬車は襲われなかったが」
「その時に別の馬車か商隊が襲われていた可能性はあるな」
言いながら、バグロムは髭を撫でる。
「今回の連中は皆殺しが基本のようだ。その正体は分かっていないが……ひょっとすると索敵は優秀でも実際の人数は予想した程でもない可能性は……一応、あるな」
それでも相当なものだろうが、とバグロムは言って。次の瞬間、胸を抑えて呻く。
「ぐ、う……!」
「支部長!」
駆け寄ろうとしたヴァイスをクロスが裏拳で殴って止めると、そのままバグロムへと近づいていく。
真剣な表情でバグロムを見ていたクロスは、やがて大きめの舌打ちをする。
「……間違いなく呪い。それもかなり強力。このおっさんの心臓付近に絡みついてる」
「やっぱりか……! 解呪できねえのか!?」
「無理」
支部長を見ていたクロスは、ヴァイスの問いかけにあっさりとそう答える。
「術式が複雑すぎる、魔力も強すぎる。これをやった奴は相当の偏執狂で実力者。たぶん、術者を殺した方が早い」
「そんだけの呪術士なんざハーシェルに居たか……?」
ブツブツと呟くヴァイスをチラリとも見る事無く、クロスは一歩離れて片手をバグロムへと向ける。
「……白の護法陣」
バグロムとベッドを中心に、白い魔法陣が浮かび上がり天井まで届くような光の壁を作り出す。
その瞬間バグロムは痛みが消えたように苦痛の表情を和らげ……驚いたような顔で光の壁を見る。
「これは……光魔法か? 痛みが消えた……」
「あくまで緊急措置。根本的解決にはなってない」
「そうだろうな……」
「でも、見つけた」
クロスはそう言うと、睨みつけるように西の方角を見つめる。
「さっき、あの方角から闇の魔力が飛んできた。たぶん、定期的に一定の魔力を送り込むタイプの呪い。こういうのは本人じゃなくて、何か呪物を用意してある」
「それを壊せば解決するという事か?」
「このタイプなら供給される魔力を断てば呪いは自然と消滅する、はず」
たぶんね、と付け足すクロスだが……ヴァイスは希望を見つけたような顔になる。
「いや、可能性が見つかっただけでも有難い。それなら幾らでも対処のしようがある」
「そうでもない。この手の呪物には自衛機能がある」
「自衛機能……つーと」
「大体はゴーレム」
それを聞いて、ヴァイスは自分の額をバシッと叩く。
「……厄介な。あいつ等無茶苦茶硬ぇからな……」
言いながら、ヴァイスはセイルへと視線を向ける。
「なあ、これから盗賊探しに行く予定なんだろ?」
「まあな」
「西に行く気はねえか?」
「おい、ヴァイス」
支部長が咎めるような声を出すが、セイルは少し考えた後に「いいだろう」と頷く。
「どのみち、盗賊の居場所については大した情報もない。もし盗賊と呪術士が繋がっているのなら……その呪物の近くにいる可能性だってあるしな」
「有難い。恩に着るぜ」
ホッとしたようにヴァイスは言うと、セイルへと握手を求めるように手を差し出す。
「勿論、任せっぱなしじゃねえ。俺は行けねえが……腕利きを1人つける」
「いや、必要ない」
むしろ、ついてこられても色々と迷惑だ。
気兼ねしなくて良い分、自分達だけの方がセイルにとっては都合がいい。
「お前達は支部長を守っていてくれ。呪物とやらは、俺達が破壊する」
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