寄り道
「……さて、どうするかな」
紙に書かれた地図を記憶すると、セイルはそれを懐へと仕舞い歩き出す。
「セイル様、今のは……」
「本人の言う事が言葉通りなら……支部長派、というやつだろうな」
無論、そう見せかけた副支部長派であって、これは何かの罠という可能性だって充分にある。
言葉通りに受け取るなら、セイル達を支部長派に引き込む為の工作とも思えるが……。
「行くの?」
「行くさ。背中から撃たれる可能性が低くなるなら、試しておきたい」
あの副支部長は、明確にセイル達を敵視している。
直接的に暗殺者を送り込んでくる程アホではないと信じたいところではあるが、情報漏洩が確実なところからみても「しない」とは言い切れない。
となると、支部長をどうにか回復させられる手段を確保しておくのは悪い手ではないだろう。
「問題は、何故あいつは俺達に……ということだ」
あのヴァイスとかいう男が動けない理由があるのか、それともセイル達にしか出来ない何かがあるのか。
ひとまず可能性として考えられるのは、クロスの「光属性」だろうか。
この属性に関する調査はウルザが担当しているが、今のところ良い報告はない。
光と闇が珍しく、土、火、風、水の順番に多く……無属性は一番少ないらしいということだけは分かっている。
「書面に記す必要がない程常識なのかもしれないわね」とはウルザの言葉だが、王都に来た以上は何か進展があることをセイルも期待している。
「さて、この辺りだが……」
大通りから一本外れた、けれど人通りが少ないわけではない……そんな場所に地図に記された建物はあった。
石造りの二階建ての家。王都では珍しくないデザインだが、この辺りは裕福な人間が住んでいるのか多少大きめだ。
そして具体的にどの家であるかは……特徴的な逆毛の男が目印になっていた。
「よっ、また会ったな」
「……さっき別れる必要はあったのか?」
「あったさ。お前さん達を尾行しようとしてた連中を軽くボコれたからな」
ハハッと軽い調子で笑うヴァイスだが……なるほど、如何にも戦士っぽい見た目とは裏腹にウルザのような隠密としての能力を持っているのかもしれないとセイルは警戒する。
「そう警戒するなよ。俺はこう見えて支部長の懐刀ってやつでね。バカっぽく振る舞いながら裏で動くのが役目なんだ」
「……往来で言う事でもないように思えるがな」
「なあに、問題はねえよ。俺に察知できないレベルの隠密がいるなら、何処に居ても聞かれるからな」
確かに、この通りにはセイル達以外の人影はない。
ウルザが見ればあるいは違うのかもしれないが……少なくともセイル達が察知できるレベルでは問題はない。
「ま、とにかく入ろうぜ。いつまでも此処に居てもいい事は一つもねえ」
言いながらヴァイスは鍵を取り出すと、手慣れた様子でドアを解錠し開く。
「さ、支部長の家へようこそ。どうぞ中へってなもんだ」
その言葉に、まずはアミルが警戒した様子で中へと入っていく。
周囲を警戒し、問題ないという風にセイルへと振り向き頷く。
それを確かめてから、セイルはクロスを引き寄せ守るようにしながら家の中へと入る。
これは万が一クロスとセイル達を引き離す為の罠だった場合の警戒だが……その様子を見てヴァイスは「信用されてねえなあ」と肩をすくめてみせる。
そして最後にヴァイスが入ると、扉の鍵を閉める。
「……少し埃臭いな」
「掃除婦とかも解雇してっかんな、俺達が全部やってんだ。多少は我慢してくれ」
「そうなのか?」
「おう、少しでも信用できない奴は近づけたくねえ」
言いながらヴァイスは階段を上っていく。
見てみれば、埃避けなのか1階の家具のほとんどにはカバーがかかっているのが見える。
それなりの間、この階を使っていないのが見受けられた。
「おーい、こっちだ」
階段の上から声をかけてくるヴァイスの後を追うように、セイル達は階段を上っていく。
先程ヴァイスは「俺達」と言った。
つまり支部長派は何人か居て、この場にもヴァイスと支部長以外の誰かがいると推測される。
警戒しながら階段を上っていくと……廊下の先、部屋の前に武装した男が2人いるのが見えた。
「あいつ等も支部長派だ。ちゃーんと「洗って」るから、心配はいらねえ」
「……3人だけ? 少ない」
「んにゃ、5人だ。確実に「支部長派だ」って言える連中だけってこったな。そもそもそういうのに興味ねえ奴の方が多い」
なるほど、支部長派だ副支部長派だといっても所詮は冒険者ギルドのハーシェル支部内での権力争いだ。
冒険者にしてみれば、どちらであっても自分達の仕事が確保されればいいという者も多いのだろう。
「……俺達はいいのか?」
「あれだけヒス婆に嫌われて副支部長派ですってのもねえだろ。嫌われた経緯も把握してる」
「なるほどな」
副支部長派ではない。つまりはそう判断されたということだ。
「おい、ヴァイス。そいつ等は……」
「副支部長に嫌われた奴さ。ま、「王女派」ってとこだな」
「……なるほど」
それだけで納得したのか、あるいはアリアスとアンゼリカ王女との顛末を知っているのか。
ある程度警戒心を解いた見張りの男達は、セイル達へと視線を向ける。
「で、役に立つのか?」
「それはこれからさ……ヴァイスです。中入りますよ、支部長」
ヴァイスはそう言って、ドアをノックすると……返事を待たずドアを開ける。
「さ、入ってくれ。支部長がお待ちだ」
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