ガチャを回してるんじゃない、経済を回してるんだ
「……さて、ガチャを引くぞ」
「えっ」
セイルの一言で、真剣な雰囲気が一気に霧散する。
もう出撃しようという雰囲気だったのにガチャ。
いそいそとカオスゲートを取り出したセイルの手を、アミルが掴む。
「ま、待ってくださいセイル様。何故今ガチャを?」
「決まってるだろう。使える手を増やす為だ」
ガチャを引けば、武具かユニットが出る。
そして今、セイルには目当てのユニットがあったのだ。
「俺は今、神官を呼ぶべきだと思っている。これからとの戦いに備える為にもな」
「神官……」
神官。そのイメージは通常のゲームであれば「ひ弱な回復役」だろう。
ソーシャルゲームでも、その認識はほとんど共有されていると言っていい。
しかし、カオスディスティニーでは違った。
カオスディスティニーの神官は魔力を籠めたメイスを振り回す近接攻撃職であり、通常の魔法職よりも多少強い回復魔法を使う特殊ユニットであった。
そもそもカオスディスティニーには「回復役」という概念がない。
回復アイテムや一時強化アイテムなどは存在したが、回復魔法は神官含め、あくまで魔法職のおまけ技能だったのだ。
それ故にイリーナも現状使っているわけではないが回復魔法が使えるとセイルは認識していた。
していたが……逆に言うと、それ以上の認識はなかった。
それは此処までそういったものに頼らずに済んでいたが故の認識不足でもあっただろう。
だが、セイルはクロスが呪いに関して自分のゲーム知識を超える対応をしたことで「認識不足」を理解した。
今回は通用しないようだが、クロスは解呪の魔法のようなものを使える。
それはクロスの「魔法学校の問題児」……つまり「魔法学校」という設定が活きたものであるのかもしれない。
そして同時に「呪いは解くもの」という認識が常識として彼女達に存在しているということでもある。
……ということは、だ。
神官であれば、そういった技能をより深く修めている可能性がある。
幸いにも神官は星1から存在している。手に入れるのが無理というわけではない。
まあ、勿論。星3であれば言う事はないのだが……。
たとえば、粉砕神官ディアーネ。
巨大なメイスと身に纏う鎧が特徴的な女性で、前衛としても頼りになる。
アビリティ「天誅撃」は範囲攻撃で、「使える星3ユニット」としてあげられていたほどだ。
他にも今回目的に沿う星3神官であれば、神官戦士グリム。
所謂美形枠の男ユニットで、状態異常耐性を上げる「祝福の光」が使える……正直、今一番欲しいユニットでもある。
「……確かに。神官がいれば、大分違う。元々呪祓いは連中が本職」
「でも、呼べるです? それって狙って呼べないはずでは……」
クロスとイリーナに、セイルは口元に笑みを浮かべながら頷く。
自信に満ちたその顔に、何か勝算があるのかとウルザ以外の全員が期待して。
「ああ、任せろ。来るまで引けば100%出る」
「ん……」
「んん?」
何かおかしな台詞を聞いた気がしてアミルとエイスが首を傾げるが、すぐに気付いたクロスが「それは色々違う」と呆れたような声をあげる。
「え? えっと……どういうことです? 神官が絶対に来るってことですよね?」
「……つまり、上限額設定なし。神官が来るまでノンストップ」
「ちょっと待ってくださいセイル様!?」
「止めるなアミル! これは戦略上必要なガチャなんだ!」
カオスゲートを巡ってジタバタするセイルとアミルを見ながら、ウルザがクスクスと笑う。
「まあ、いいじゃない。まだ資金には余裕があるでしょう?」
「あればいいってものじゃありません! この宿だって、1人1日2シルバーですよ!? なんでこんなに高いんですか!」
セイルから手を離して振り返ったアミルが叫ぶが、事実この宿……空舞う蛙亭は高い。
アーバルの安宿と比べても仕方ないかもしれないが、それでも高い。
だが、これでも手頃なのだ。本気の高級宿になると1日で10シルバー以上をとるようになってくるし、物価全体が値上がりしている。
「この王都の冒険者ギルドに初心者っぽいのが居ないのも、その辺が理由でしょうね」
「……稼げないからってことですか?」
「初心者にとっては、ね。実力者であれば此処で暮らすのに問題ない程稼げる。自然と選別されていくってことよ」
「なるほど……」
納得したアミルだが、ハッとしたようにセイルと光を放つカオスゲートに気付く。
「ああっ!?」
「ナイスサポートだ、ウルザ」
アミルがウルザに気を取られているうちにガチャを回したセイルがニヤリと笑い……ウルザもそれにニヤリと返す。
そして、10連で1シルバーを消費する。
ガチャ結果:
鉄の剣(☆★★★★★★)
錆びた槍(☆★★★★★★)
鉄の斧(☆★★★★★★)
召喚書(☆★★★★★★)
鉄のメイス(☆★★★★★★)
鉄のレイピア(☆★★★★★★)
布の服(☆★★★★★★)
舞踏服(☆★★★★★★)
竹槍(☆★★★★★★)
鉄のガントレット(☆★★★★★★)
「うーん……全然ダメだな」
「やっぱりやめましょうよう、セイル様。きっと今は引くなっていう啓示なんですよ」
「ああ。だが何となく、此処を乗り越えれば良い事がある気もする」
勿論、何の根拠もないのは言うまでもない。
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