冒険者ギルドにて

 冒険者ギルドハーシェル支部。

 セイル達が入ると、ギルドの中に居た冒険者達の視線が集まってくる。

 前回とは違って中々視線が外れない事をセイルは不審に思うが……アミルも同様の感覚を抱いたのか、腰の剣をいつでも引き抜ける位置に手を持っていく。


 一体何があるというのか。その答えは、向こうの方からやってきた。


「お前がセイルか」


 セイル達の目の前に立ったのは、おおよそ20代前後の若い男。

 金色の短い髪と青い目、頭部に着けた金属製の大きなサークレットがまずは目に入る。

 身体を包むのは目立ちそうな赤い服と銀色の金属鎧。

 この鎧も宝石をあしらった派手なものだが、腰にさげた剣もまた劣らず派手なデザインのものだ。

 誰かと聞かずとも、誰であるかがすぐに分かる装いだ。


 無視してセイルが男の横を通り抜けようとすると、別の男達が派手男の背後から出てきて道を塞ぐ。

 1人は、背の高い戦士らしき男。

 巨大な斧と盾をこれ見よがしに持っている。


 1人は、如何にも優男風の魔法使い。

 こちらは金属製の杖を持っているが……ニヤニヤとした顔がどうにも気に入らない。


「どいてもらおうか」

「こっちの話が済んでないんだ。無視するのは頂けないな」


 ブッ飛ばしてやろうかと短気な事を考えつつも、セイルは派手男へと向き直る。


「……何の用だ」

「俺はアリアス。こう言えば分かるだろう」


 勿論昨日聞いたから知っている。勇者を名乗ったあげくに追い出されたとかいう大馬鹿だ。

 しかし、あえてそれを指摘してやる必要はない。


「さあな。俺達は初対面だし、王都には昨日来たばかりだ。そして悪いが、俺達は用事があって来ている。用事があるならば、また今度にしてくれないか?」

「その話だ。お前、どうやって王女に取り入った?」


 勇者を名乗る割にはいきなり下種な話題から入るものだとセイルは思うのだが、それに溜息で返す。


「……別に取り入ってなどいない。これでいいか」

「嘘つけ! 王女から指名依頼が入っている事は知ってるぞ! お前みたいな無属性がどうやって気に入られたんだ!」


 その言葉に周囲がヒソヒソと囁き合うが……そんなものを知っているということは、なるほど。

 誰かがセイルの情報を漏らしたのだろう。まさか他人の個人情報を勝手に閲覧できる仕組みが冒険者ギルドにあるとも思えない。


「このギルドで判定をしたことはないはずだが? 何処でそんな話を仕入れてきた?」

「ふん、隠したって真実は伝わるものだ! 無属性みたいな落ちこぼれの分際で、デカい面をするなよ!」

「そうか、覚えておこう。話はそれで終わりか?」


 アリアスの分類を「ウザい奴」から「敵っぽい奴」に自分の中で移動させつつ、セイルは極めて冷えた口調でそう問いかける。


「ああ、終わりだ。お前みたいな奴の化けの皮はすぐに剥がれる。俺がそれを証明してやる」


 言いながらアリアスはわざと肩をぶつけていくが……セイルがその程度で揺らぐはずもない。

 逆によろけてしまったアリアスに何処かから吹き出したような音が聞こえてくるが、アリアスはそちらの方向を睨みつけると仲間と共に冒険者ギルドから出て行ってしまう。


「……なんだったんだ、アレは」


 文句をつけたかっただけなのだろうか。

 まあ、ここで決闘だと言い出すような馬鹿でなかったのは救いなのだろうか?

 内心で首を傾げつつも、セイルはカウンターまで歩いていき大きな音を立てて手を突く。


「さて、説明して貰おうか。何故冒険者ギルドへの登録情報が洩れている?」

「へ!? え、いえ。その……えーとですね……も、申し訳ありません……私共にも何が何だか……」


 本気で脅えている様子を見ると、この職員は関与していない。

 となると別の誰かがこっそり漏らしたのだろうが……それが誰であるかなど、言うまでもないだろう。

 

「まあ、今はいい。こっちの用事を先に済ませたい。こちらのクロスの冒険者登録と、俺達のパーティへの参加を」

「は、はい。それでは魔力パターンを登録致しますので、このオーブに手を触れてください」


 職員を差し出してきた判定のオーブにクロスが不機嫌そうな表情で触れると、オーブは強く……そして黄金色に輝き始める。


「光属性……? それもこんなに強く……!」


 漏れたオーブの光に周囲の冒険者達がざわめくが、クロスはサッと手を離してしまう。


「あ、ありがとうございます。それではクロス様を仮登録と……」

「それなんだがな。こんなものを預かっている」


 言いながらセイルがブラックカードをカウンターへと置けば、職員はヒッと声をあげる。


「こ、これは……その、確認しても?」

「ああ、構わない」


 職員は恐る恐るブラックカードを持ち上げると水晶にかざし「本物……」と呟く。


「か、確認出来ました。それでは今回は特例としてクロス様をランク1からのスタート、そして【ガイアード】への登録を致します」

「ああ、頼む」


 渡された白いカードをクロスが受け取り、セイルがブラックカードを懐に入れるフリをしてカオスゲートに仕舞うと……奥からあまり見たくない女がやってくるのが見えた。

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