スマホゲーでイベントCGは期待できない
アンゼリカに案内されて再度やってきた王城。
当然男女別だが……背中を流そうとするメイドを断って、セイルとエイスは風呂の中へとやってくる。
「なぁんでメイドさん断ったんですか……」
「断るに決まってるだろう」
「王子だって城に居た頃はそういうのに慣れてたんじゃないですか?」
勿論そうであるかどうかなど知らないので、セイルは「覚えてないな」などと言いながら洗い場へと向かっていく。
普段は王が使用しているらしい場所がこの男湯で、王女は別の場所に用意された此処よりは少し狭い風呂が女湯となっているらしい。
その辺りの事情はセイルにはよく分からないが……。
「……王はどう思っているのだろうな」
「へ?」
「この国には王がいる。大国を恐れ、武器を集めているという話だったが……」
武闘大会を催そうとしているのも、その王だったはずだ。
それ程大国との関係に悩んでいるのであれば、娘の結婚に関する話にも神経質になりそうなものだが……今のところ、王が出てくる様子はない。
「うへー……どうします? 娘が欲しけりゃアレしろコレしろーって言われたら」
「ブラックカードの義理もあるからな。ある程度は付き合うが……」
それでも、あまり無茶な頼みは聞けないだろうとは思う。
たとえば大国をどうにかしろと言われても、セイルの手には余る。
「……まあ、ひょっとするとこの後の夕食の時に王が一緒というパターンはあるか」
「一番嫌なパターンじゃないですか」
エイスは言いながら洗い場に行く。
メイドを断った事でタオルも石鹸も渡されていたが、エイスはまだ不満そうだ。
セイルからしてみればその方が落ち着かない気がするのだが……まあ、エイスは女好きなのだろうとエイスが聞けば全力で文句を言ってきそうな事を考える。
「はー……メイドさん……」
「中々しつこいな……」
男湯でそんな会話がされているとは思わないだろう女湯の方では、やはりメイドを断ろうとしたアミルを他のメンバーが宥めてメイドが全員の身体を磨き上げたのだが……それも終わると、ゆっくりと風呂に浸かり始める。
「うむ……こんなに大勢で風呂に入るのは初めてじゃのう」
「ご兄弟はいらっしゃらないんですか?」
アンゼリカの呟きにアミルがそう返せば、アンゼリカは頷いてみせる。
「うむ。妾の兄弟は……兄上と妹がいたが、どちらも固有能力に目覚めなかったからの。早々に貴族と結婚しておる」
固有能力に目覚めない王族は、そうなる運命だ。
ならば早めに嫁や婿となったほうが、傷は少ない。
そういう風潮があるが故に、アンゼリカには兄弟姉妹の記憶はほとんどない。
「寂しい?」
「それが王族の務めよ。しかしまあ、今日は中々に賑やかで良い」
ウルザにそう返しながら、アンゼリカは目を細める。
「しかし……」
アンゼリカはウルザに、そしてクロスに目を向けると何かを言おうとして黙り込む。
「何か見えた? 固有能力が見えるんでしょう?」
「あー……まあ、セイルから聞いとるか」
アンゼリカは苦笑すると「見えておる」と答える。
「クロスのものも気になるが、ウルザのは恐ろしいのう……」
「ふふふ、敵だったら放っておけない能力ね」
ウルザの聞きようによっては恐ろしい言葉にアンゼリカは「おお……」と慄くが、ウルザは「冗談よ」と返す。
「でも、貴方みたいな能力は珍しいのかしら? それとも何か確認する手段が?」
「うむ、ある」
ウルザの探りにアンゼリカは隠す事なくそう答える。
「各王家には「判定の宝珠」と呼ばれるものがあっての。そう多用できるものではないが、それによって固有能力の有無と名前を確かめることが出来るのじゃ」
「判定の宝珠……」
「これが中々使い勝手が悪くての。力が溜まるまで使えんし、その為の外部からの補給は出来んときた。おおよそ半年に1回程度じゃの」
なるほど、そんなものがあるからレヴァンド王国の第三王子の「嗅覚上昇」のようなものが隠さず伝えられるのだろうとウルザは理解する。
もし幾らでも騙しようがあるのであれば、もっと良い「固有能力」だと言うだろうに正直に伝えるのは何故かと思っていたのだ。
それは別に友好とかそういうものではなく、単純に「騙せない」からであったのだ。
そしてそれ故に、半年という期間を待たずに固有能力を判定できるアンゼリカ王女の固有能力は貴重なのだろう。
「お主達の固有能力の事は、とりあえずは隠しておいた方がいいじゃろうな」
「ええ、私も言う気はないわ」
「同じく」
アンゼリカにウルザとクロスは同意する。
本当に王族であるセイルはともかく、ウルザもクロスも王族扱いされる気などなかった。
まあ、クロスとしては王族か否かがセイルとの障害になるのであれば王族扱いされるのも否とは言わないが……今のところはその気はない。
「うむ、妾もこの名にかけて言う気はない」
アンゼリカもそう言って頷くが……やがて、真剣な表情でウルザ達へと向き直る。
「……で? 実際のところ、お主等はセイルと今どのような関係なのじゃ」
「仲間です」
嫁、と言いかけたクロスの口を素早く塞ぐと、アミルが代表するようにそう答える。
「ふむ。すると、妾が遠慮する必要はないわけじゃな?」
「いえ。出来れば最大限遠慮して頂けると助かります」
「ほおう……?」
意味ありげに視線を投げかけるアンゼリカと、その視線を正面から受け止めるアミル。
そんな女性同士の静かなバトルが女湯で繰り広げられている事など……やはり男湯では、知るはずもなかった。
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