……疲れた

「……疲れた」


 王都の宿屋「空舞う蛙亭」の部屋で、セイルはベッドに倒れるとそんな事を呟く。

 王城での会話については一通りアミル達に説明したのだが……そうして話してみると、実に疲労する会話である事に気付いたのだ。


「ふーん、あのオバサンが勇者とかいう男の愛人とはね。中々面白いネタなんじゃない?」


 何やら怒った表情のアミルとは違いウルザは実に楽しそうだが、セイルはそんな気にはなれない。


「……そんなに楽しいか? 俺とアンゼリカ王女の会話が比較的好調に終わっただろう事は冒険者ギルドに伝わるだろう?」

「でしょうね。王城前で隠れてるつもりの奴が居たもの」


 なるほど、それは間違いなく副支部長が放った見張りだろう。

 セイル達が叩き出されるかどうかを確認していたのは間違いない。 

 となると、今副支部長がどういう状態かは……想像したくもない。


「まったく、困ったものだ。こんなものを渡されなければ、しばらくこの国を離れる事も考えたものを」


 言いながらセイルがヒラヒラとさせるのは、一枚の書状だ。

 そこには今回の「依頼」についての詳細が書かれている。

 実際には明日セイル達が冒険者ギルドに出向き指名依頼として受け取る形になるのだが……事前情報というものだ。


「王都付近に潜む盗賊団の調査、あるいは討伐か」


 アンゼリカ王女から聞いた話と書状の中身によると、どうにも最近王都の付近に正体不明の盗賊団がいる可能性がある……らしい。

 らしいというのは出会って生き残った人間が居ないからであり、金品が奪われている事から「恐らく盗賊であろう」とされているのだ。


「私達は襲われませんでしたね?」


 そんなアミルの疑問にセイルは「ああ」と答える。


「単純にタイミングの問題か、それとも狙いに基準があるのか……それは不明だがな」


 もしかすると盗賊ではなく、金品に興味のあるモンスターであるかもしれないのだ。

 その辺りは実際に調査してみないと何とも言えないが……被害がかなり広範囲、具体的には王都の全周である以上、複数……あるいは大規模の盗賊団の可能性も示唆される。


「確かにこんなものが潜んでるとなると、気が気じゃないですよねえ」

「……盗賊は殲滅、大事です」


 エイスとイリーナもそう言うが、もし本当に大規模盗賊団であった場合にどうするべきかは考え物だろう。

 この間のオークの集落での戦いで、集団戦にも対応できる事は証明された。

 全員、ランクアップして強くもなっている。

 しかし今度の相手はオークではなく人間であり、奇襲に慣れた盗賊団だ。

 如何にオークよりは弱いだろうとはいえ、確かな悪知恵で武装した彼等相手に何処まで戦えるのか?


「……とにかく疲れたな。明日ギルドで依頼を受けてから考える事にしようか」

「そうですね、それが良いかと思います」

「つーか先に風呂だと思いますけど。旅の汗流したいですし」


 なるほど、言われてみると今日は風呂に行っていない。

 疲れた時は風呂に入れば回復するかもしれない。

 そんな事を考えて、セイルは立ち上がる。


「……の前に、ガチャを回すか。この気苦労を労わって何か出るかもしれん」

「ええ……」


 何やらアミルが不満そうに声をあげるか、この時だけは聞こえない。

 セイルはカオスゲートを取り出すと、ガチャの10連をタップする。


 10連で1シルバーを消費。


ガチャ結果:

鉄の斧(☆★★★★★★)

鉄の盾(☆★★★★★★)

木の杖(☆★★★★★★)

布の服(☆★★★★★★)

鉄の槍(☆★★★★★★)

鉄の短剣(☆★★★★★★)

ラピッドショット(☆☆★★★★★)

鉄の剣(☆★★★★★★)

ミスリルの鎧(☆☆★★★★★)

鉄のシミター(☆★★★★★★)


「ラピッドショット……? 初めて見る武器ですね」

「これか。これはガンナーの武器だな。確か、えーと……西方の国の武器だ」


 そう、ガチガチのファンタジーであった「カオスディスティニー」には、何故か機械があった。

 つまり銃もあった。

 そんな中で銃兵の居ない王国がよく生き残っていたものだとセイルは当時は思っていたのだが……たぶん、銃の通じない魔法的な何かがあるのだろうと勝手に納得もしていた。

 しかしまあ、銃は射程が2で弓よりも低かったので、ひょっとするとそういう問題もあったのかもしれない。

 セイルが覚えている星3のガンナーは、2人。


 1人は賞金稼ぎギュンター。渋い中年男のガンナーで、銃を周囲に乱射する「デスペラード・ショット」は便利だった。


 もう1人はアルタ。こちらは美少女ガンナーで、2回攻撃の「ハイスピードショット」は火力の底上げになった。


「しかし、イマイチ癒されんな。もう1回引くか」

「引くだけ疲れるという可能性もありますよ、セイル様……!」

「そう言うな、アミル。これはこれでストレス解消になるんだ」


 言いながらセイルは10連ガチャを再度タップする。

 ガチャはいい。引く瞬間の高揚感が、セイルを一瞬でも癒してくれる。

 この瞬間だけは、神に祝福されているような気分にすらなるのだ。


 10連で1シルバーを消費して、光の色が白、青……そして、赤へと変わっていく。

 そう、赤。つまり星3が確定である。


「これは……!」

「え、なんかすげえの来るんですか?」


 身を乗り出す全員の前に、ガチャ結果が表示されていく。


ガチャ結果:

王族の鎧(☆☆☆★★★★)

鉄の剣(☆★★★★★★)

鉄の短剣(☆★★★★★★)

錆びた斧(☆★★★★★★)

鉄の鎧(☆★★★★★★)

鋼の杖(☆☆★★★★★)

召喚士クロス(☆☆☆★★★★)

錆びた剣(☆★★★★★★)

陰陽服(☆☆★★★★★)

鉄のクナイ(☆★★★★★★)

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