王都ハーシェルの風景

「なんだか、凄い人でしたね……」

「何処の組織でもああいう人間はいるという事だろう」

 

 アミルにセイルがそう返せば、アミルは「そういうものですか……」と納得したように頷く。

 紹介状を受け取ってしまえば冒険者ギルドにはもう用はない。

 職員や冒険者がマトモでも、副支部長がアレでは何か余計な仕事を押し付けられないとも限らない。


 そういうわけで早速セイル達は王城を目指しているわけだが、その足取りに迷いはない。

 何故なら、町の中心部にあるらしい王城は今いる場所からでも良く見えるからだ。

 その方向を目指して歩いていれば、嫌でも辿り着くというわけだ。


「けれど、思ったよりも盛況でしたね。俺ぁ、もっと酷い状況になってると思ってましたけど」

「ん? どういう意味だ?」


 近くの屋台を見ながら歩いていたエイスはセイルに顔を向けると「えーとですね」と言いながら人差し指を振る。


「セイル様から聞いた話だと、結構詰んでるみたいなイメージあったんですよ」


 まあ、セイルとてペグからの又聞きではあるのだが。

 強国に囲まれたこのヘクス王国はいつ潰されてもおかしくはない状態だ。

 そうしても利が無いから潰されていないというだけの状態だが、確かに沈みかけの船と比較してもたいした違いはないだろう。

 セイルがそう考え頷くと、エイスは「つまりですね」と前置きする。


「なんつーか、冒険者もそれなりの腕のは皆逃げ出してんじゃねえかなって思ってたんです」

「なるほどな」


 あの場所に居た冒険者は、恐らくはそれなりに腕が立つ者ばかりだろう。

 白き盾と比較しても、上の者だって多数いるだろうというのが率直な感想だ。


「騎士登用の為の武闘大会があると聞いた。それもあるのかもしれんな」


 ペグは「そんなものに応募するのは実力が半端な者や食い詰め者」と言っていたが、この国の現状を差し引いても騎士という職は魅力的なのかもしれない。

 あるいは、ペグが思っていた以上に「ヘクス王国を見捨てない」者が多かったのか。

 どちらかは分からないが「思ったよりも詰んでいない」というのが実情なのかもしれなかった。


「騎士登用ですかー」

「興味あるのか?」

「ハハハ、まさか! 俺は何処か田舎で嫁さん貰って狩人してるのが夢ですよ」


 そう言って笑うエイスにセイルは「そうか」とだけ答える。

 カオスディスティニーの世界であれば、国を取り戻せばエイスはその夢を叶える事が出来ただろう。

 だが、この世界では?

 明確な目的なんて何もないこの世界では、エイスはいつその夢を叶える事が出来るのだろうか?


「……でも、ま。今はセイル様達と一緒に旅をするのが楽しいですかね。この世界には俺達のとこみたいな危機はないですけど、それもまた……」

「……そうか」


 頷いて、セイルは前を向く。

 エイスを、アミルを、イリーナを、ウルザを……皆をこの世界に引き込んだのはセイルだ。

 ならば、セイルは……「セイル」だけは、迷ってはいけない。

 全員の心の支えになって、導いていかなければならないのだ。


 決意を新たにし、セイルは前を向いて歩く。

 すでに王城は目の前であり、大きな堀と壁に囲まれた王城がセイル達の前にそびえ立っている。


「やー、やっぱり城ってのはでっかいですねえ」


 エイスの言う通り、ハーシェルの王城は大きかった。

 建物としては三階建てといったところだろうか?

 中央の城だけではなく、壁の四隅には見張りの為なのか塔のようなものが建っているのが見える。

 その四つの塔は壁の上の通路で繋がれており、兵士がぼーっと平和そうな顔で立っているのが見える。

 肝心の城へ入る為には、今セイル達の目の前にある橋を渡り門を潜ればいい。


 しかし当然といえば当然なのだが、橋の前には斧槍を持った二人の兵士が立っている。

 兵士達はセイルを見ると少し考えるような表情を見せ……しかし、ガシャリと音を立てて斧槍をクロスさせる。


「この先は王城です。どのような方であっても此処で一度御用を伺っております」

「アンゼリカ王女からの招待で参じたセイルとその仲間だ。この町の冒険者ギルドで紹介状も受け取っている。取次ぎを願いたい」


 セイルはそう言いながら先程の紹介状を渡すと、兵士達は封蝋を確かめ頷く。


「……この封蝋は、確かに冒険者ギルドのものですね。しかし我々では中身の確認に関する権限がありません。しばらくこの場でお待ち頂けますか?」

「ああ、構わない」


 セイルが頷くと兵士の一人が紹介状を持って走っていき、門の前の兵士にそれを手渡す。

 渡された兵士はそのまま城の奥へと走っていくが……恐らくはああやって次の担当に手渡していくのだろう。

 どれだけ時間がかかるのかは分からないが、待つほかない。

 黙って待っているセイルに、残った兵士が声をかけてくる。


「しかし、姫様からの招待ですか……高名な冒険者でいらっしゃるのですか?」

「いや、そんな事はない。キャリアでいえば新人もいいところだ」

「そうですか……けれど、目に留まるものがあったのでしょうね。あの方は冒険者ギルドにかなりの頻度で行っていますが、こうして招待状を携えて来られた方々は二組目です」

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