ランクアップ
「ランクアップ……? 俺が、か?」
「はい。セイル様はアーバルの町にて受領された依頼でゴブリンジェネラル、そしてオークジェネラルを討伐されています。これをランクアップさせないというのは、少々……」
「なるほど、な」
しかしそうなると、そんな話が一切出なかったアーバルの町の冒険者ギルドはどうなのかという話になるが……冒険者だけではなく職員もダメだったということだろうか。
「だが、俺一人で全てを成したわけではないぞ?」
「はい、それはカードの討伐内容からも想像できます。けれど、皆様はパーティ登録されていませんよね?」
「……パーティ登録?」
首を傾げたセイルは振り向き仲間達を見るが、全員が首を横に振るか肩をすくめてみせるだけだ。
その様子を見ていた職員は困ったように「えーと……」と呟く。
「アーバルの支部で、説明は」
「聞いてないな」
「申し訳ありません」
職員は本当に申し訳なさそうに頭を下げる。
他の支部のミスをこうして謝る辺り、この支部では教育が徹底しているのだろう事が透けて見えてくる。
「パーティ登録とは、依頼などの受領時にその成果を共同とする為のものです。また何か緊急の討伐があった際にもパーティ全体で考査され、ランクアップに繋がります。今回の場合はセイル様のカードにのみ依頼達成記録が記入されている為このような処置となる事をご容赦ください」
本当に申し訳ありません、と頭を下げる職員をセイルはそれ以上責められない。
しかし素直に「分かった」と言えることでもない。
困ったような顔で黙り込むセイルに、職員は「早速で申し訳ないのですが……」と切り出す。
「同様の事態の発生を防ぐ為、よろしければこの場で皆様のパーティ登録を行いたいのですが、よろしいですか?」
「ああ、それは是非頼みたい」
「承知いたしました。それでは、希望のパーティ名をどうぞ。もしすでにあるパーティ名であった場合には申し訳ありませんが……」
パーティ名。
そう聞いて、セイルは再び黙り込む。
そんなもの、考えたことも無い。
「……何か、案はあるか?」
仲間達を振り返ってみれば、イリーナとエイスは即座に目を逸らしアミルはオロオロとしてしまっている。
堂々としているのはウルザだけだ。
「セイルご一行様でいいんじゃないかしら」
「……それは俺が嫌だな」
聞かれた時にセイルご一行様などと名乗るのは絶対に嫌だ。
しかし他の仲間達から良案が出てくる様子も無く、セイルは仕方なく脳をフル回転させる。
パーティ名。つまり名乗っても恥ずかしくないようなものをつけるということだが……。
「参考に、だが。どんなパーティ名を他はつけてるんだ?」
「そう、ですね……少々お待ちくださいね」
言いながら職員は分厚い書類を捲っていく。
「最近ですけど【ブレイブドラゴンバスターズ】【ドラゴンキラーズインフィニティ】、あとはえーと……」
「あ、いや。もういい」
それを名乗るんだろうか、とセイルは薄ら寒い気分になるが、そんな名前は絶対につけまいと心に決める。
無難な名前がいいだろう。しかし、何が無難なのだろうか。
だが……それを名乗ると考えると、あまり無難でも問題な気もしてくる。
考えているうち……セイルは、一つの単語を思い出す。
「そうだな。ではガイアード、というのは大丈夫か?」
「えーと……その名前で登録はありませんね。それに致しますか?」
「ああ、頼む」
セイルの告げたガイアード、という単語に全員が反応する。
ガイアード……すなわちセイル達の国、ガイアード王国の名前からとったのが全員に理解できたからだ。
ウルザには少しばかり微妙な思いがするところだろうが、全員が愛着を持って名乗れるという意味では秀逸な選択だった。
「それでは、セイル様をリーダーとしてパーティ【ガイアード】の登録が完了いたしました。皆様のカードを返却致します」
渡された冒険者カードをセイル達が受け取った頃、奥から先程の職員と……およそ40代から50代程に見える一人の女がやってくるのが見える。
職員を置き去りにするようにしてやってきたその女はセイル達を見ると、フンと鼻を鳴らす。
「貴方がセイルですか」
「ああ。貴方は何処の誰だ?」
「私はこのハーシェル支部の副支部長、コネリィです。姫様の我儘で呼ばれたようですが……あまり調子に乗らないように。貴方程度の功績を上げている者は幾らでも居ます」
いきなり何を言い出すのか。今までセイル達と話していた職員が頭痛を我慢するような顔をしているが……諫める程の度胸はないのだろう。
戻ってきた職員も、オロオロとしてしまっている。
セイルもこの場は流すのがいいだろうと黙っていると、コネリィは気に入らなかったのか金切り声をあげる。
「聞いているんですか!?」
「ああ、聞いているとも。しかしそんな話をしに来たわけじゃない。もし冒険者ギルドハーシェル支部のコネリィ殿が「アンゼリカ王女からのご招待を自分の権限で無しにした」と言うのであれば、それは仕方が無いが」
「そんな話はしていないでしょう……!」
「ならば、アンゼリカ王女からの招待の件で訪問している俺達への対応をお願いする。そうでないのであれば、話にならなかった事実を携え直接王城に参じるしかない」
セイルがそう言うと、忌々しそうにコネリィは「待っていなさい!」と叫び戻っていき……やがて、一つの封蝋付きの書類を叩き付けてくる。
「確かに受け取った。では失礼する」
踵を返しながら、セイルは思う。
下が良くても、上が良いとは限らないな……と。
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