朝が来た
アーバルの町、跳ね足の仔馬亭。
エイスの加入によって借りる部屋は二部屋となり……男部屋となった部屋で、セイルは目を覚ました。
依頼達成の祝いということで全員で酒場に繰り出したはいいが、かなり呑まされてしまった。
この身体がかなり酒に強い……というよりもザルだと分かったのは収穫ではあったが、セイルとウルザ以外の全員が潰れてしまったせいで運ぶのが大変だった。
今も、エイスはぐっすりと夢の中……気楽なものである。
「……よし」
日付も変わり、一日一回の無料ガチャが引ける。
素早くタップしてガチャを引くと、結果はやはり星1。
ガチャ結果:
鉄の鎌(☆★★★★★★)
「鎌……か」
鎌は、武器分類としてはかなり新しい部類に入る。
初期武器と呼ばれる剣、杖、弓などとは違い新ユニット追加によって追加された武器になる。
故に使える職業も限定されており、「ソウルリーパー」と呼ばれる分類のユニットにしか装備は不可能であった。
このソウルリーパーがまた特殊であり、攻撃と共に相手のヒットポイントを吸い取るのだが……その代わり、他者からの回復を受け付けないというデメリットがあった。
当然、被ダメージが大きい割には与ダメージの低いボス相手に運用できるユニットではなく「雑魚専門」などという評価をつけられる結果となった。
しかしながら雑魚相手には単体でも無双……つまり大活躍できる可能性を秘めており、露払いとしての活躍を期待されていた。
されていた、のだが。前衛の割には鎧が装備不可というハンデまで背負っていた為評価は更に低くなる結果となった。
最終的についたあだ名が「デュエリスト」であったが、それはともかく。
ウルザの例を見れば、特殊ユニットでも決して「使えない」わけではない。
「ソウルリーパーは確か星3からだったな……」
セイルの記憶では、ソウルリーパーは不人気だったせいかそれ程数は多くない。
その中でも今のセイルが引き当てる限界の星3となると、まさに片手でも数えきれる。
死神少女オリビア、処刑人クロード、魔人ガルマ。
オリビアは最初に追加された星3のソウルリーパーだが、「死の宣告」というアビリティを持っていた。
攻撃力と防御力の増加、一定確率で即死効果……と普通なら喜ぶべき効果も「即死させたらソウルリーパーの意味ねえだろ」という辛口の評価を得る結果となった曰く付きのユニットである。
クロードは、「王国」ではなく「帝国」に所属するユニットだ。
見た目は30前後の筋骨隆々の男で、その「当たり」ともいえるイラストからそれなりに人気があった。
一定時間攻撃力をアップさせるアビリティを持っていたはずだが、正直あまり記憶にはない。
そして、最後のガルマ。
魔人とついているのは比喩ではなく「魔界」所属のストーリー上でもハッキリと敵であるユニットだ。
ストーリーでも比較的初期に登場し、味方のヒットポイントを吸い取る極悪さから嫌われた上にガチャで引いて味方ユニットになるとボスだった時ほど強くはないという「ライバルキャラの王道をいくゴミ」「ガルマ様(笑)」などと称されたユニットである。
ただし、アビリティの「魔人の血」は一定時間経過ごとに僅かなヒットポイントを回復していくという効果があり、星3のソウルリーパーの中では一番当たりのユニットでもあった。
「……引きたいな」
ぼそっと、セイルはそんな事を呟く。
現在の資金は残り4ゴールド28シルバー72ブロンズ。
オークでの稼ぎがよかったのか、思った以上に資金が増えている。
特に依頼で得た4ゴールドは大きい。
これを全てガチャに突っ込めば星3の10や20くらいは出そうな気もするが……そういうわけにもいかない。
「……まあ、今はやめておくか」
怒ったアミルの顔が頭の中に浮かんで、セイルは滾るガチャ欲をなんとか抑え込む。
今のところ戦力は足りている。そこまで慌てる段階でもないのだ。
ガチャ欲を振り払うかのようにセイルは部屋の木窓を開けて朝の光を部屋へと取り込む。
まだ早朝といったところだが早い者はすでに動き始めており、荷物を一杯にした荷車を引いて何処かへ行く男の姿も見受けられる。
載っているのは野菜か何かのようだが、配達だろうか。
「ふわぁ……」
そんな欠伸が聞こえてきて横を向けば、そこには隣の部屋の窓から顔を出していたアミルの姿がある。
朝起きたてで油断しているのか、まるでくせ毛のように頭の上にピンと跳ねた毛が見える。
顔も眠そうで、なんというか……非常に緩い雰囲気だ。
いつもキッチリしているアミルと比べると中々のギャップだが、意外とそんなものかもしれない。
朝からキッチリカッチリして剣でも振っていそうなのがセイルから見た「アミルのイメージ」だったが、これはこれで女の子らしい。
「おはよう、アミル」
「おはようございま……って、うえっ!? セ、セセセ……セイル様!?」
一気に目が覚めたらしいアミルは恥ずかしいところを見られたとでもいうかのように顔を真っ赤にするが、今更どうしようもないと気付いたのか顔を手で覆ってしまう。
「違うんです……ちょっと今日は油断してて……ていうか昨日も大変申し訳なく……」
「気にするな。俺も気にしない」
「はいぃ……」
「あ、おはようです」
引っ込んでしまったアミルの代わりにイリーナが顔を出すが、こちらはいつもと変わらず眠そうな顔だ。
「ううー……」
背後では、何やらエイスが起きそうな声もあげている。
「朝食まではもう少し時間あるですかね」
「……お前は、少し気にしてもいいんだぞ?」
「何のお話です?」
演技ではなく素で何も気にして無さそうなイリーナを見て、セイルは小さく溜息をついた。
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