オーク集落の戦い3

 剣戟の音が響く。

 セイルの剣とオークジェネラルの剣が打ち合う音が響く。

 力では、セイルが上。オークジェネラルというモンスターの力を、セイルの力は上回っていた。

 それでも決着がつかないのは、オークジェネラルの技量故。

 恐らくは実戦経験に裏打ちされているのであろう的確な攻撃は、セイルを僅かながら守勢に回らせる原因となっていた。

 そして一際大きな音が響いて。セイルとオークジェネラルは互いに距離をとる。


「人間……貴様、本当ニ人間カ……!?」

「モンスターに人間かどうかを問われるとは思わなかったな」


 セイルがそう返せば、オークジェネラルはギリッと奥歯を噛む。


「フン……ダガ、コレデ終ワリダ……!」


 そう吐き捨てると、オークジェネラルの身体が薄く光り始める。

 その身に纏う赤い光の正体は不明だが、恐らくは魔力。

 そんなものをわざわざ纏う意味を、セイルは即座に看破する。


「アビリティか……!」


 勿論、アビリティなどという名前ではないかもしれない。

 しかし、似たようなものであることは確かだろう。

 これで終わりと言うからには、恐らくはオークジェネラルにとって必殺の一撃。

 ならば……セイルが打つべき手も決まっている。


「受ケヨ、ソシテ死ネ……!」

「断る。死ぬのはお前だ……!」


 上段に大剣を構えるオークジェネラルに向けて、セイルは受けて立つようにヴァルブレードを構える。

 そして……ヴァルブレードに、光が宿る。


「パワー……スラアアアアッシュ!!」


 オークジェネラルの大剣に、赤い輝きが全て移動する。

 輝く赤い大剣がセイルに向けて振り下ろされて。


「ヴァルスラアアアアッシュ!!」


 セイルのヴァルブレードが、迎撃するようにオークジェネラルの大剣へと叩き付けられる。

 いや、叩き付けた……ではない。

 輝くヴァルブレードは、オークジェネラルの大剣を容易く斬り裂いた。


「ナッ……グアアアアア!」


 剣を腕ごと斬り裂かれたオークジェネラルは叫び声をあげるが、次の瞬間には眼前に迫ってきていたセイルを見つめ……自分の「死」を悟る。


 勝てない。

 強い。

 恐ろしい。


初めて感じる感情に翻弄されながらも、目の前のセイルに向けて最後の言葉を放つ。


「貴様ニ……呪イアレ!」


 そんな呪詛の言葉を吐きながら、オークジェネラルはセイルのトドメの一撃を受け絶命する。

 そして。その瞬間を、オークジェネラルの最後を見てしまったオーク達の間に激しい動揺が走る。


「馬鹿ナ……ジェネラルガ……」

「逃ゲロ、逃ゲロオオオオオ!!」


 知恵がある分、ゴブリン達とその反応は大きく異なっていた。

 生き残っていたオーク達は化物と出会ったかのように逃げ出し……その反応に一瞬何が起こったのか分からなかったアミル達は、セイルの姿を見て全てを悟った。


「セイル様……!」

「勝ったです……」

「傷一つなさそうね」


 アミルが、イリーナが、そしてウルザが口々に喜びを示し……エイスも、力が抜けたように両肩を落とす。


「はあー……死ぬかと思いましたよ。オーク、マジ怖え」

「だらしないわね」

「やめてくださいよ姐さん」

「誰が姐さんよ。殺すわよ」


 ウルザに睨まれたエイスはさっと目を逸らすが……先程のやり取りの中でエイスにはウルザに対する尊敬の念が沸き上がったのだろう。

 ウルザもなんとなくそれを察しただけに、苦虫を噛み潰したような表情だった。

 そんな中、セイルはヴァルブレードについた血を掃い鞘へと納める。


「……何匹か逃がしてしまったが……これで一応殲滅は完了ということでいいのか?」


 殲滅というからには全て殺さなければいけないのかもしれないが、流石に森の中でオークを追うのは難しいだろう。

 ジェネラルを倒し、それなりの数のオークを倒したからにはしばらくはトテラの森の平和も保たれるはずだ。

 あとは白き盾あたりにでも頑張ってほしいところではある。


「ま、そこまで期待してるかもしれないけど。やってあげる必要はないと思うわよ?」

「そうですね……どれだけかかるか分からないです、し」


 ウルザにイリーナも同意し、セイルはふむと頷く。確かにその通りではある。

 実際、支部長とも殲滅を約束したわけではない。

 しかしまあ、この集落を再利用されないようにしておくことくらいは必要だろうか?


「よし、なら追撃は無しだ。この集落を破壊しておくぞ」

「燃やした方がいいんじゃない?」

「それは無しだ。万が一森が燃えたら面倒な話になる」


 森を焼いた放火魔になってしまっては笑えない。

 そんな意味を込めて言うセイルに、ウルザも「それもそうね」と肩をすくめる。

 そんなヘマはしないと言いたかったのかもしれないが、セイルに遠慮した形である。


「なら私の出番……です」

「そうだな。イリーナ、頼む」

「はい、です」


 イリーナのダークであれば「破壊」という点で他のメンバーに大きく勝る。

 家を中心にダークで破壊していくイリーナをそのままに、セイルは周囲を見回す。


「どうかされましたか、セイル様?」

「いや……何もない事を確かめていた」


 この隙にゴブリンの襲撃があるかとも思ったが、それはないようだ。

 終わってみれば「簡単」というわけではなかったが、然程の苦戦をしたわけでもない。

 ならば少年神がこの国にセイルを送り込んだ理由は何なのか。

 偶然か、あるいは単純に「慣れさせる」為だったのか。

 それを考えながら……セイルは、イリーナによる破壊の光景を眺めていた。 

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