オーク集落の戦い

 オークの集落。ギルドの職員がオークの小集落と呼んでいたそれはもはや、大集落とまではいかないまでもそれなりの規模へと成長していた。

 森を切り開き防御柵を作り、入り口には見張りをも立てている立派な「集落」である。


 戦闘員だけで28人。いずれ戦闘員に成長するであろう者が6人。雑事担当が10人。

 雑事担当といっても戦闘力がないわけではなく、ゴブリン程度であれば充分叩き殺せる。

 そして、この集落のリーダーを合わせれば森では最強と言ってもいいだろうとオーク達は自負していた。


 たまに人間がチョロチョロと森に入ってくることも知っていたが、最近は来ない。

 このまま集落の規模が大きくなっていけば、食料も足りなくなってくる。

 ならば、森を出て人間の領域に侵攻する必要も出てくるだろう。

 その日は遠くない。そう考えていただけに……村の入口に立っていた見張りのオークは、その人間達の姿に驚愕した。

 コソコソと覗くのではなく、真正面からやってきた5人の人間の男女。

 武装したそれらが敵だと気付かないはずもない。

 だが、「まさか」という思いも同時に湧き上がる。

 コソコソしながらゴブリンとやり合う程度が関の山の人間がまさか、こんな。


「テ……」


 敵襲だ、と見張りのオークが叫ぶその前に。ヴァルブレードを掲げたセイルが鬨の声をあげる。


「攻撃開始!」


 ガシャンッ、と。一斉に武器を構える音が鳴り響く。


「敵襲ダアアアアアアア!」


 叫び武器を構える見張りのオークを、突進するセイルのヴァルブレードが切り裂き倒す。

 その横を闇纏いを発動させたウルザがスルリと入り込んでいき……オークの誰もがそれに気付かない。

 イリーナの魔法とエイスの矢が迎撃に出てきたオーク達へと降り注ぎ、その前には鋼の装備に身を固めたアミルが立つ。


「弓兵! アノ魔法士ヲ……!」


 弓を構えたオークがイリーナを狙おうと走り出し……しかし、次の瞬間には血を吐いて倒れている。

 ゆらりとその背後から消えたウルザに誰も気付かず、しかし何者かがいることだけはオーク達にも理解できる。

 理解できる……が、それをゆっくり探させるほどセイルは弱くない。


「囲メ! 囲ンデ倒セ!」


 木製の盾を構えていたオークが叫ぶが、その盾ごと腕を切り裂かれ絶叫をあげる。

 木製の盾といえど弱いわけではない。

 矢であれば防げるし、鉄の剣だって場合によっては防げるだろう。

 だが、ヴァルブレードは無理だ。ただそれだけの不運。


「よし、いける……!」


 半ば自分という存在を囮にした突撃作戦は順調。

 このままであれば……と、そう考えたセイルの視界の隅に、何かが映る。

 集落のあちこちにある小屋の中の一つから、のっそりと出てきた巨体。

 他のオークとは違う、立派な装備。


「人間メ……ワザワザ殺サレニ来タカ!」


 じゃらりと、ゴブリンの頭蓋骨か何かを繋げたネックレスが音を鳴らす。

 巨大な盾は金属製。手に持つのは、やはり金属製の巨大で肉厚の剣。

 簡素な鎧と兜まで身に着けたその姿は、このオークの集落を纏めるリーダーであることを示している。


「オークのリーダー……ジェネラルか!?」

「如何ニモ!」


 その巨体からは考えられぬスピードで、オークジェネラルはセイルに向けて跳ぶ。

 地面を蹴り、一瞬で距離を詰め大剣を振るう。


「くっ!」


 受けるか受けまいか、一瞬の躊躇の後にセイルは一撃を回避する。

 ズガン、と。まるでハンマーで地面を叩いたかのような音と共に地面が爆砕し、土が舞う。

 一撃が重い。

 横を通り抜けた攻撃の重さに、セイルはゾクリとする。

 ガラ空きになった胴へとセイルはヴァルブレードを振るい、しかしオークジェネラルはバックステップでそれを回避する。

 同時に回転するように振るわれた大剣がセイルを両断せんと迫り……セイルはヴァルブレードを突き立て防御する。


「ぐっ……!」


 ヴァルブレードはオークジェネラルの振るう大剣を傷一つつく事無く防ぎきるが……セイル自身はそうはいかない。

 筋肉の化物のようなオークジェネラルの一撃はビリビリと響くような衝撃をセイルへと伝え……だが、それでもセイルはその場に踏み止まる。


「ヌ……ッ」


 そして、その事実がオークジェネラルに僅かな疑問と焦りを生まれさせる。

 自分の力で吹き飛ばなかったものなど今まで無かったというのに、目の前の人間が耐えた。

 その事実が、オークジェネラルに「脅威」を感じさせたのだ。

 そして同時に、セイルも確かな手ごたえを感じ取る。

 オークジェネラルは強い。強いが……勝てない相手ではない、と。


「いくぞ……オークジェネラル!」

「調子ニ乗ルナヨ人間!」


 オークジェネラルの大剣と、セイルのヴァルブレードがぶつかり合う。

 攻撃範囲はオークジェネラルが広い。

 だがそれもセイルが懐に入ってしまえば利点は無くなる。

 その「最速」を出せないのであれば、互いの力に明確な差でもない限りは必殺とはなりえないからだ。


「オ、オオオオオオオ!」

「うおおおおおおおお!」


 剣と剣が、ぶつかる。

 剣戟の音が、響き合う。

 オークの集落での乱戦の中で……この空間だけは、誰も入り込めない空気に満ちていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る