インターミッション2

「さて、セイル様。実際、どのように動かれますか?」

「ああ、そうだな……」


 懐に仕舞ったカオスゲートが気になってチラチラと見るセイルに意識を逸らさせるように、アミルがそう促す。


「とりあえず現状を整理しよう。まず、ゴブリンの残党とオークは敵対関係にある」


 ゴブリンジェネラルを欠いている以上、それに準ずるゴブリンが居ない限りは「残党」という表現が正しいだろう。

 ゴブリンの進化が時間経過によるものかセイル達でいうレベル……経験や実力によるものであるかは分からないが、本来格上であるはずのオークと敵対しているところを見ると、後者である可能性もゼロではないだろう。


 つまり、オークとゴブリンを食い合わせるという選択肢はある程度危険を伴うと考えなければならない。

 無論、生態を確認する意味で食い合わせてもいいかもしれない。

 ゴブリンジェネラル程度であればセイル一人で充分打倒可能であることは証明されており、今後何かがあった時の為に進化の条件を把握しておくのは悪い事ではない。

 資金面でも、再度ゴブリンジェネラルを討伐するというのはメリットがある。


 しかし、この問題点としては「オークの進化も促してしまうかもしれない」という点だ。

 この世界のオークの実力が不明……勿論、ウルザが暗殺で仕留めたのは例外だが……とにかく不明なので、それを実行する事はある種のギャンブルであると言わざるをえない。


「……オークを殲滅し、漁夫の利を狙うゴブリンが居ればこれも撃退する。これしかないだろうな」


 ゴブリンにもオークにも、どちらにも経験値を与えない。

 経験値などというものが存在するかをさておいても、安全策としてはこれが一番だった。


「けど、そう上手くいきますかね?」

「難しそうです……」

「だが、やるしかない」


 エイスとイリーナに、セイルはそう断言する。

 幸いにも、セイル達は戦えば戦うほど強くなることが確約されている。

 現実にレベルなどというものを持ち込んだ結果、単純に熟練などというものを超えた域で成長出来るのだ。

 つまり、戦えば戦うほど不利は解消されていく。これは疲労という点を除けば大きく有利な点だ。


「そして次に、オークの集落は見張りや斥候を出せる程度には人数がいる……ということだ」


 確か依頼書では「オークの小集落」となっていたが……ゴブリン達の中にゴブリンジェネラルのようなモノが生まれていた現状を考える限り、オークの中に同じようなモノが発生している可能性……そしてオーク自体の人数が増加している可能性は大きい。

 それははたして、セイル達にどうにか出来る数なのだろうか?


「……まあ、これも「やるしかない」んだが……」


 あまりにも数の差が酷いようなら撤退も考えねばならないだろうが、撤退したところで何かが変わるわけでもない。言ってみれば、オークの数が増え犠牲者の数が増えるだけ……となるだろう。

 セイル達に出来ないのであれば、「白き盾」に劣る面々しかいないアーバルの冒険者ギルドには成す術もない。

 討伐隊を組もうにも、それだって簡単にいくものではあるまい。

 下手をすると、更なる災厄に発展する可能性だってある。


「……」


 ひょっとすると、あの少年神はこの件を見越していたのではないか?

 その為にわざわざセイルをこんな国に送り込んだのではないだろうか?

 そんな事を考え、セイルは溜息をつく。


「……無茶をさせて悪いが、俺についてきてほしい。改めて頼む」


 セイルが頭を下げると、その場の全員が慌てだす。

 ウルザは目を見開いた程度だが……アミルの慌てっぷりが酷い。


「せ、セイル様!?」

「頭をあげて……ください」

「い、いけませんいけませんセイル様! セイル様がそんな……!」


 バタバタと手を振り「いけません」と繰り返すアミルに、セイルはようやく頭をあげる。


「ありがとう。とはいえ、一人として死なせるつもりはない」


 これがゲームであれば、敵に倒される事は死ではない。

 次のステージの時には復活しているし、ダメであればガチャを引いたり強化したりと「やり直し」が出来る。

 しかし、現状はそんなことは出来ない。1回で「クリア」するしかないのだ。


「では、具体的な作戦についてだ」


 潜伏しての奇襲は通用しない。

 敵が巡回を定期的にしている以上、見張りもいると考えるのが当然だ。

 オークの知能を考えると、夜間の奇襲が有効かどうかも不明だ。

 むしろ視界が悪くなる分、オークに夜目が効く能力でもあれば詰む。

 となると……。


「俺達がやるべきは、正面からの奇襲突撃だ」


 戦術でいえば下策中の下策。

 正面からの奇襲突撃、などといえばそれっぽいが、やることはつまり正面突破でしかない。

 正気であればゴブリンくらいしかやらないであろうソレが、恐らくは一番有効だ。


「まず正面だが、俺だ」

「えっ……セイル様、それでしたら私が!」


 ずいと進み出てくるアミルに、セイルはゆっくりと首を横に振る。


「アミルは、イリーナとエイスの護衛だ。言っただろう? 一人も死なせるつもりはない、と」

「し、しかし……」

「お前が頼りだ」


 正面からそう告げると、アミルは葛藤したように……何かを言おうとしてやめるという事を何度も繰り返した後、絞り出すように「はい」と答える。


「……助かる。ウルザ、お前は遊撃だ。遠距離担当の奴がいたら優先的に仕留めていってほしい」

「分かったわ」

「イリーナとエイスは特に目標を設定しない。とにかく撃て」

「はい」

「了解です」


 全員が自分の役割を理解し、その表情が戦いを前にした戦士のものへと切り替わる。

 迷いも、恐れも何もかも捨てて。全ての意思は、セイルの元へと統一される。


「……いくぞ、皆。出撃だ」

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