インターミッション

 セイル達の元へと戻ったウルザは、見てきた全ての事を自分の見解を交えて説明する。

 その内容が的確に要約されているのは、暗殺稼業をしていた者の効率的思考故だろう。

 偵察のオークの撤退方向から推測したオークの集落の位置も、その内容には含まれている。

 そして、そんなウルザの報告を受けたセイルは短く唸り考え込む。


「……時間差でのオークの巡回……か。いや、最初のは斥候的な役割と考えるべきか?」

「ありえる話ね」


 時間差の巡回だと考えると、その間隔があまりにも短すぎる。

 現場の状況を考えるに、オークがゴブリンに長時間手こずっていたとも思えない。

 となると、最初のオークは巡回とは異なり自由経路を歩く斥候のようなものと考えた方が納得がいく。

 しかしそうなると、別の問題も出てくる。


「巡回経路と時間を割り出して奇襲をかけるつもりだったが……そんなものがウロついているとなると難しいな」

「確かに、ランダムで出歩いているなら出し抜くのは難しそうですが……」


 アミルも頷き何か妙案を出そうと考え込むが、中々出てこない。

 同様にイリーナやエイスも頭を捻っているが……良い案など、すぐに出るはずもない。

 一方のウルザは、気楽な様子だ。こちらは何も考えていないのが丸分かりだ。


「貴方も何か考えたらどうですか……!」

「私の仕事じゃないわね」

「この……!」

「落ち着け」


 セイルに窘められ、アミルは渋々といった様子で矛を収めるが……納得したような顔ではない。


「ウルザは充分に仕事を果たした。ならば後は俺達の……いや、俺の仕事だな」

「セイル様……」

「こういう時に軍師でもいればいいんだがな」


 軍師。カオスディスティニーではユニットの能力を上昇させる効果を持ったユニットであったが、最低でも星3からのレアユニットでもあった。

 当然、今のセイルが軍師を仲間にするにはノーマルガチャで星3を出すしか方法はなく、それが非常に困難であることは今までのガチャの結果が証明している。


「軍師、ですか……」

「ああ」


 軍師として最も高い能力を持つのは星5のフェリスだが、今のセイルには星5を出す手段はない。

 星4も当然のように除外。つまり星3になるが……星3の軍師でセイルがパッと思いつくのは2人ほどだ。

 1人は、見習い軍師カノ。

 王国軍学校の出身で、シナリオ「見習い軍師の奮闘」で初登場するユニットだ。

 小さな農村で自警団を指揮し、モンスターの襲撃を防いでいたが……とか、そんな感じのストーリーだった。

 無論、ストーリー上は仲間になるが実際に使うにはガチャを引いてね、という「いつも通り」な扱いなのだが……イラストがよかったこともあって、中々人気なキャラであった。


 もう1人は、隠者オズヌ。

 東方の島国から流れてきたという設定の着流し姿の老人で、軍師ユニットであるのに近接攻撃が得意という、意味不明なユニットだった。

 

 軍師としての性能はカノの方が上だが、単純に戦力としても数えられるということでオズヌを育てているプレイヤーも当時多かった。

 どちらにせよ、どちらも居ない状況ではどうしようもないのだが……。


「……」


 無言でカオスゲートを取り出したセイルの手を、アミルが押さえる。


「セイル様、何を……?」

「ああ、この状況なら今日の無料ガチャで軍師がくると思うんだ。運命力とかそういうのが働いてな」

「何を言ってるんだか分かりません」


 セイルが「1日1回無料ガチャ」を引いていないのはアミルも知っていたが、まさかこのタイミングで引こうとしていたとは思いもよらなかった。


「いい考えだと思うんだがな。今俺は軍師を必要としていて、ここにガチャがある。神の導き的なものが働くだろう」

「運命力は何処に行ったんですか……!」

「旅立った」


 絶対1回じゃ終わらないと確信しているアミルと1回で終わらせる「つもり」のセイルがカオスゲートを巡ってバタバタと暴れるが……そのセイルの手から、ウルザがヒョイとカオスゲートを取り上げる。


「あっ」


 手の中から消えた感触にセイルは思わずウルザへと手を伸ばすが……ウルザは後ろ歩きでそれを避けると、ガチャの画面を興味深そうに眺める。


「1日1回、ね。やればいいじゃない。意外と良い結果になるかもしれないわよ?」

「1回で終わらないから言ってるんです……!」

「アミル、俺を信じろ」

「セイル様の事は信じてますけど、嫌な予感がするんです」


 まさかセイルのガチャ中毒の事を察しているわけでもないだろうが、アミルの顔には「絶対1回じゃ終わらないですよね」と書いてある。


「大丈夫よ。セイルが期待を裏切るわけないわ。でしょ?」

「……ああ」


 少し目を逸らしながらもセイルはそう答える。

 実際、釘を刺されなければ1回で終わった自信はない。

 やはり無料ガチャはダメだ、次の10連でくる……を2、3回繰り返していた可能性は否定できない。

 何しろセイルは、シチュエーションを整えれば出るという「シチュエーション説」の信者でもあった。

 似たような説としては特定の時間には高レアが出やすいとかいうものもあったが……まあ、それはともかく。


「安心しろ。この1回で終わる……俺を信じろ」


 言いながら、セイルは無料ガチャを引く。

 その結果、見事に星1の鉄の斧が出たが……アミルの視線に耐えかねたセイルは、うずうずと感じるガチャ欲を抑えながらカオスゲートを仕舞ったのだった。

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