特殊ユニットは使い方次第
「ギャギャギャ!」
死んだ仲間の事など気にも留めずに、ゴブリンが錆びかけた剣を振るって飛び掛かってくる。
防御のことなど何も考えていない風の突撃だが……なにも恐ろしくはない。
オークが石斧を振るうと、剣はへし折られゴブリンは頭をかち割られて絶命する。
それで、最後。
「オロカナゴブリン共メ」
叩き殺したゴブリン達を見下ろして、オークは考え込むように立ち尽くしていた。
今現在、森の中で食糧は減少傾向にある。
ゴブリンが間引かれずに増えたせいだが……一体何を血迷ったのか、こうして実力で勝る自分達オークを襲ってくる。
とりあえず叩き殺してみたが、殺した後のゴブリンは貴重な肉の塊でもある。
食ったことは無いが、とりあえず持って帰ってみるのも手かと。そんな事を考えて……次の瞬間、その意識は暗転していた。
殺された、とオークが気付くことはなかっただろう。
オークの急所などという胡乱なものを正確に突き、殺す。
そんなものが存在するなど、分かるはずもない。
一撃で相手を殺しうる技能を持った暗殺者などという、およそ現実離れした存在。
しかしそれは確実ではないとはいえ、発動しうる。
セイルの「ヴァルスラッシュ」同様、ウルザの「暗殺者」の能力も、また現実となっているのだ。
「……ふう、意外と上手くいったわね」
オークの背後に回っていたウルザは、地響きと共に倒れるオークの巨体を見下ろしながらそう呟く。
ウルザのやったことは、恐らくはオークの心臓があると思われる場所を背後から一突きしたという……ただそれだけのこと。
そんなものでオークが死ぬのであれば冒険者の勝率はもっと高いはずだが……ウルザの中では、そういうものを見極める目という認識である。
そして実際、それが上手くいけば相手は一撃で死ぬ。ウルザにとっては、それで充分であった。
「さて、と……」
ゴブリンは一目でオークに殺されたのだと判断がつく。
そんなものは無視して、ウルザはしゃがみ込んでオークの死体を検分する。
格好としては特筆すべきものはない。
何かの獣の革を利用したと思わしき服。しっかりとなめされているのがオークの知能の高さを示している。
手に持っていたのは、石を木に括りつけた簡素な石斧。
武器としては原始的もいいところだが、オークの力をもってすれば強力な武器になる。
ゴブリンの持っていた錆びかけた剣がへし折られているところを見ても、それは充分に分かる。
「特に何かを持ってるわけではなし、か」
狩りの帰りというわけではなさそうだ。獲物を持っていない。
狩りの途中という風にも思えるが……違うようにも思える。
そもそも石斧で狩りをするなら、相手は地上で行動する獲物に限られてしまう。
ならこのオークは、何をしていた?
「見回り……? だとすると、何を警戒していたの?」
人間?
違うだろう。セイルからの情報を考える限り、人間はしばらくこの森のオークの集落には近づいていない。
見回りなどというものをするのは、現実的な「敵」が想定されているからこそだ。
ならば、「敵」は何か?
答えは簡単だ、目の前に転がっている。
「……ゴブリン、てことね」
ゴブリンジェネラル。強力なゴブリンの指導者に率いられていたゴブリン達は、セイルに倒され指導者を失ったことで統率を失った。
その結果、何をしていいのか分からなくなった……あるいは、手柄をたてて新たな指導者になろうとしているとしたら?
何処に居るのか分からない人間ではなく、何処にいるか分かるオークを倒して「次の指導者」になろうとしている。
いわゆる度胸試しのようなものをしているとしたらどうだろう。
当然その襲撃は散発的なものになるだろうし、オークとしてもゴブリンを警戒せざるを得ない。
その為に巡回が行われているとしたら。
「面倒、ね」
言いながらウルザは軽く舌打ちをする。
そうなっている以上、オークは油断はしていないだろう。
当然オークの集落の入り口にはそれなりの警備を敷いていると見るべきだ。
見回りを出しているなら、奇襲という手段自体が不可能かもしれない。
「んー……」
面倒だ。ウルザとてセイルを殺す為に王国軍の陣地に忍び入ったことはあったが、あれとて色々と手筈を整えてからやったのだ。
人間相手ならともかく、オークにそんな手管が通用するはずも無し。
どうしたものかと考えて……ウルザは気配を消して闇と一体化するように周囲に潜む。
やがて近づいてきたのは足音で、それがすぐにオークであると気付く。
「ム! シッカリシロ……!」
倒れている仲間に近づいたオークは死んでいる事に気付き、周囲にゴブリン達の死体が転がっている事にも遅れて気付く。
「ゴブリン共ノ襲撃カ……! オノレ、サテハ数ニ任セテ襲ッタナ……!?」
そうでなくば仲間がやられるはずもない。すぐに集落に戻って伝えねばと、オークは仲間の石斧を手に取り走り去っていく。
やがてその姿が完全に消えたのを見届けて、ウルザは考え込む。
あの後を追う……というのは無しだ。
流石にあの速度についていけば、足音は消しきれない。
だが、オークの集落のある方向は充分に分かった。
「……とりあえず戻るしかないわね。判断は私の仕事じゃないわ」
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