オークの集落を探して
エイスを先頭に進む一行を、ゴブリンの群れが塞ぐ……ということは、今回は無かった。
狩人用の道は静かで、ゴブリンの声は聞こえない。
ひょっとすると前回のゴブリンジェネラル退治によって、ゴブリンの数が大幅に減るか何かしたのかもしれないが……そこまではセイル達には分からない。
「オークの集落の場所……は、まだしばらく先ですね」
オークの集落を見つけたという狩人の証言を元に作られた地図を見ながら、エイスは呟く。
非常に簡素な地図は最低限の目印などが表記されているだけだが、同じ狩人であるエイスにはそれでも充分に分かるものであるらしかった。
「一応気を付けてはいますけど、上とかに気を付けてください。流石に俺でも、周囲全部の罠とかモンスターとかを同時把握ってのは無理があるんで」
「罠……ゴブリンが罠を張るのか?」
「有り得ない話じゃないですよ。ゴブリンもオークも、頭いい個体ってたまに出ますから。世界が違っても、そういうのが「出ない」とは言い切れません」
「なるほどな」
エイスの意見は納得できるもので、今までも油断していたわけではないがセイルも木の上などに視線を向ける。
そこには当然何も無いが……その何も無さが、逆に気になった。
「そういえば、鳥の声も聞こえないな」
「モンスターが食ったのかもですね。聞いた話じゃ、随分増えてたんでしょう?」
「だが、そうなると……」
「オークアーチャーがいるかもしれませんね」
言いながら、エイスは先頭を進む。
ただ歩くだけだったセイル達と違い、周囲の痕跡を探しながら進むその姿は、森のプロそのものだ。
ウルザの策略能力といい、そういう「ステータスに出ない」能力は恐らくは、他のユニットにもたくさんあるのだろう。
今後はそういうものも、もっと考えていかなければいけないなどと……セイルはそんな事を考えて。
聞こえてきた金切り声のようなものに、全員の足が止まる。
「今のは……」
「人間の、じゃないです。あれ、ゴブリンのです」
「分かるのか?」
セイルがそう聞くと、イリーナは頷いてみせる。
「……魔法士ですから。音の判別、得意です」
なるほど、これもステータスに出ない能力なのだろう。
しかしそうなると、別の問題が出てくる。
すなわち、ゴブリンに悲鳴をあげさせたのは誰なのか……だ。
「他の冒険者でしょうか?」
「オークの可能性もあるんじゃない?」
アミルとウルザの意見は、どちらも可能性としては有り得る。
そしてオークだった場合は、そのまま戦闘になってしまう可能性がある。
だがどちらにせよ、調査は必要だが……。
「セイル、私が偵察してきましょうか?」
「お前がか? だが……」
ウルザは単体での戦闘能力は低い。もし複数のオークが居た場合、不利だ。
そう考えるセイルの前でウルザの姿が、ゆらりと視界から消える。
「!?」
「こっちよ」
視界のすぐ外に移動していたウルザに、セイルは驚き振り向く。
「闇纏いという技術なのだけどね。まあ、ちょっとした能力のようなものよ」
「闇纏い……」
闇纏い。ウルザの固有アビリティで、遠距離攻撃の対象にならないという能力。
それが現実になると、こういう能力になるのだろう。
確かにこんなものを使われたら、至近距離まで近づかれないと分からないに違いない。
「これを使えば上手く気付かれずに出来るはずよ……どうかしら?」
そんなウルザの言葉にセイルは少し考え……やがて、頷く。
「分かった。だが、無理はするなよ」
「ええ、分かってるわ。流石に私一人でオークを正面から相手取るのは骨だもの」
言いながら、ウルザの姿は森の闇の中へと消えていく。
「……大丈夫でしょうか」
「大丈夫じゃないですか? さっきのアレ、ちょっとした能力とか言ってましたけど……俺、背筋冷えましたよ」
全く気付きませんでしたもん、と言うエイスに、セイルは心の中だけで「そうだろうな……」と呟く。
遠距離攻撃の対象とならないウルザの闇纏いと、遠距離攻撃専門であるエイスとは相性が悪すぎる。
いや、ウルザからしてみれば相性が良すぎるのだろう。何しろ、一方的に近づいて攻撃できるのだから。
「とにかく、ウルザが戻るまでは此処で待機だ」
「ですね」
待機、という言葉にほっとしたように息を吐いたイリーナが、座れる場所を探すように周囲を見回す。
「ん……そうか。イリーナには辛かったか?」
「いえ、大丈夫です。ちょっと緊張してただけ、です」
「無理はするなよ」
「はい」
オークがセイルの想像通り……というかカオスディスティニーのオークと同じであるならば、オークとは緑色の肌を持つ大柄の人型モンスターだ。
ゴブリンを更に大きくしたかのようなその姿に相応しい力を持ったモンスターで、色々な武器を作成し取り扱う知能も充分に持っている。
カオスディスティニーでも、初期の強敵として存在していたモンスターでもある。
体力ゲージも相応にあった為、一撃で倒されかねない魔法士ユニットは近距離ユニットを間に置かなければまともに攻撃するのを躊躇われたほどだ。
それを思い出し、セイルはイリーナに出来る限り優しく微笑みかける。
「大丈夫だ、イリーナ。俺もアミルもいる。お前に攻撃が届くことはない」
「はい……セイル様」
その言葉に、イリーナは恥ずかしがるように赤面し、帽子を引っ張って顔を隠してしまう。
「……セイル様って喋ると女たらしになるんですね」
「俺は女たらしじゃない」
エイスを睨み、セイルはアミルに同意するように視線を向けるが……何故か、アミルはプイと顔を逸らしてしまうのだった。
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