森への出撃2
トテラの森へと続く平原。相変わらず人の姿の見えないその場所をセイル達は歩いていた。
イリーナを喚んだ場所であり、あの角ウサギが出た場所でもあるが……今のところ、あの角ウサギのような生き物には出会っていない。
「お、見てくださいセイル様。薬草ですよ」
「そうなのか?」
突然しゃがみ込んだエイスにつられるようにセイルもその方向に視線を向けると、エイスは地面からそれを掘り出し土を掃っていた。
そうして差し出したものは、タンポポの葉のようなものが上向きになって集まったような……そんな形の草だった。
「俺達の世界とは別の世界だから違うモノって可能性もありますけどね。同じならコレ、簡単な毒消しになりますよ」
「毒消し……食べるのか?」
「生で食うと少しばかりエグいですけどね。水薬に加工して傷口に振りかけたりもしますね。ちょっとそっち方面の知識は俺にはないですけど」
受け取ったセイルが草をカオスゲートに取り込んでみると、確かに「毒消し草」と表示される。
「なるほど、確かに毒消し草みたいだな」
「ほー、便利ですねカオスゲートってのは。わざわざ鑑定を頼む必要もないじゃないですか」
言われて、セイルはあの少年神と会った時の事を思い出す。
あの時セイルは「鑑定」と言う事でアイテムの鑑定を出来ていたはずだが……こちらに来てから、その能力は使えなかったのだ。
カオスゲートの機能に統合されたのかもしれないが、少しばかり残念ではあった。
「便利なだけにあまり表立っては使えないけどな。盗まれでもしたら大変な事になる」
「確かに……」
「盗まれても盗み返してあげるわよ。三倍返しでね」
それは盗み返すというか報復強盗か何かではないかと思うのだが、とりあえず今のウルザの言葉は冗談としてセイルは笑って流した。
とりあえず、正規の手段以外でもどうにか出来るというのは安心ではあるからだ。
何しろ、たとえセイルの設定が「元王子」であろうとこの世界では通用せず、今は一冒険者だ。
権力を使われた場合に正規の手段でどうにか出来るとは思えない。
「ど、どうかされましたかセイル様?」
その悩みが透けて見えていたのだろうか、前を歩くエイスに代わってセイルの隣に来ていたアミルが、心配そうにセイルの顔を見上げる。
「いや……この世界での権力について考えていて、な」
「権力……ですか」
アミルはきょとんとしていたが、やがて納得したように「あっ」と声をあげる。
「セイルはこの世界じゃ「王子」でも「元王子」でもないものね。権力を盾にされたら厳しいものがあるわよね」
「その通りだ」
様、をつけず呼び捨てのウルザをアミルは睨みつけるが、ウルザは気にした様子もない。
肩肘張るなとセイルに言われたばかりなのもあってアミルは何かをぐっとこらえるような顔をするが……会話を止めずに繋げる事を選ぶ。
「確かに、セイル様の御威光を伝えるのは難しいですね。王家の紋章もこの世界では通用しないでしょうし……」
「別の世界などと言ったところで、信じる者は居ないだろうしな」
別の世界の王国の王子。そう名乗る者がセイルの前に現れたなら、まずは頭の病気を疑うだろうとセイルは自分でも思う。
故に、そんなものを名乗る気はセイルにはなかった。うっかり王子と呼ばれでもしたら「仲間に王子と呼ばせている痛い奴」と思われる可能性すらある。
だから、そういう方面に関しては諦めているのだが……。
「とりあえず冒険者として実績を積み、周囲に何か余計な手出しをされない基盤を作るのが最良だとは思うんだが、な」
問題としては、冒険者として一流になった果てにそうした発言力があるかどうかだろう。
たとえば冒険者が傭兵のような扱いであるとして、「一流の傭兵」などというものは貴族からしてみれば木っ端の平民の一人にしか過ぎないだろう。
「……まあ、この辺りは再度調べてみてから、だな」
今は考えても仕方ない。そう結論づけると、セイルは周囲に再度気を巡らせ始める。
狩人であるエイスが索敵している以上、問題はないと思うのだが……数値上の実力ではセイルの方が遥か上なのだ。
「お、今度は麻痺消し草ですね。取っておきます?」
「ああ、頼む」
「向こうには傷薬になるのもありますね……この平原って、結構探索してみる価値あるんじゃないです?」
流石にそればかりにかまけているわけにもいかないが、それだけ色々生えているとなると……ひょっとすると、冒険者ギルドにも薬草採取の依頼の類もあるのかもしれない。
「まあ、今は後回しだな。今回の主目的はオークだ」
「それもそうですね」
セイルの言葉にアッサリ頷くと、エイスは再び先頭を歩き出す。
その動きに迷いはなく……幸いと言っていいのかどうかは経験値や資金的に考えると微妙なところなのだが、今回は角ウサギのようなモンスターの襲撃を一度も受ける事無く、セイル達はトテラの森の前へと到着した。
「ここが例の……」
「トテラの森だな」
「中々でっかい森ですね……腕がなりそうです」
「ああ、頼むぞ」
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