森への出撃
そして、ウルザやエイスの冒険者ギルドへの登録を早々に済ませるとセイル達は森へと向かうべく町中を歩いていた。
「しっかし、冒険者ギルドですか。面白いもんがあるんですねえ」
「そうだな」
手の中で白いカードを遊ばせるエイスに、セイルは頷いてみせる。
冒険者ギルド。考えてみると、これ程面白い組織もない。
何処の人間かも不明な者に身分証と仕事を与え、まともな人間として扱っているのだ。
職業安定所と言ってしまえばそれまでだが、そうやって風来坊に首輪をつけることで治安の悪化を防ぐ統治手段なのだろう。
国を跨って存在している事から考えると民間の組織なのだろうが、ひょっとすると各国で支援を行っているかもしれない。
ゴブリンの退治が定常依頼として出ている事から考えても、国がスポンサーとなっているというのは突飛な考えではないようにセイルには思えていた。
「ああいう組織があれば、流民も便利ですね。仕事に悩まなくても、身一つで出来そうですし」
「中々そう上手くはいかないだろうがな」
退治系の依頼は武具が必要だから、初心者の小遣い稼ぎ感覚のゴブリン退治でも覚束ないだろう。
その辺りを考慮した依頼も恐らくはあるのだろうが、基本的には一定以上の実力を持った人間が仕事もなくウロウロするような事を防ぐようなモノであるように思える。
「だがまあ、役に立つのは事実だろう。無頼者の犯罪組織など出来ては手に負えないだろうしな」
とりあえず身分と仕事を与えておけば、衣食が満ち足りる。
衣食足りて礼節を知る……という言葉があったが、真実を突いているだろう。
「……ところでエイス。セイル様に馴れ馴れしくないですか」
それまで黙って背後を歩いていたアミルがボソリとそう呟くと、エイスがアミルへと振り返る。
「アミルさん達が遠慮し過ぎなんじゃないですか? セイル様はもうちょっと気軽でいいと仰ってくれてるでしょうに」
「限度があるでしょう……!」
「でもイリーナさんも、ほら」
ちゃっかりとエイスとは反対側……セイルの隣の位置を確保していたイリーナがアミルの視線を受けてサッと目を逸らす。
ちなみにウルザは少し離れた場所を歩いている。この騒ぎにも我関せずなのは……まあ、彼女の持ち味でもあるだろうか。
「だ、だからといってですね……!」
「アミル。そう肩肘張らなくていい。それではお前も疲れるだろう」
「……はい」
兵士とは思えない堅物っぷりではあるが、一人くらいはこういうのが居てもいい。
セイルはそう思うのだが、だからといってアミル一人が気負うというのも間違っているように思えてしまう。
アミルが自分の中の基準に従って動いているのは確かだし、それは本来であれば正しい事なのだ。
「……とはいえ、お前の心遣いは嬉しく思っている。アミルのような仲間を頼ることが出来る俺は果報者だな」
「は、はい!」
そんなセイルのフォローの言葉に、アミルは心の底から嬉しそうに目を輝かせる。
それは自分の信念がセイルに認められているという嬉しさであり、自分自身が見て貰えてるという喜びでもあるだろう。
アミルが人知れず拳を握っているその時……セイルは、向こう側から歩いてくる特徴的な人物の姿を見つける。
だがセイルが見つけると同時に向こうも見つけたようで、その人物……ペグは、慌てたように走ってくる。
「おお、セイル殿! 聞きましたよ、オークの集落を滅ぼしに行かれるそうで!」
「耳が早いな。まあ、そういうことになったのは確かだが……」
「いやはや。少し見ない間にお仲間も増えたようですが、いずれ劣らぬ美男美女揃いですな!」
言いながら、ペグの視線はウルザへと向けられている。
まあ、この中では一番スタイルが良いので仕方のない事ではあるだろう。
「それより。ペグは新しい護衛は見つかったのか?」
「おお、心配して頂けていたのですな!」
「いや、まあ。世話になっているからな」
冒険者登録関連ではペグの世話になっている。
この世界の人間では最初に会ったということもあって、その後どうなったか……くらいはセイルも気にしていた。
「いやはや、それがロクな人材が残っておりませんでしてな。白き盾とかいうパーティはそれなりかと思ったのですが、療養中ということもありまして」
「そうか。俺達の手が空いていれば受ける事も考えたんだがな」
リップサービスも含めてセイルがそう言うと、ペグは目をキラリと光らせる。
「おお、おお! それは良い話ですな!」
「ん?」
「オーク共の集落を蹴散らすのなど、セイル殿達であれば然程かからないでしょう! そのくらいであれば誤差の範疇ですとも、ええ!」
「んん?」
「冒険者ギルドに指名依頼を出しておきましょう。お帰りをお待ちしておりますよ、セイル殿!」
「お、おい待て……速い!?」
セイルが何かを言う前に高速のスキップで何処かへと消えていくペグに、セイルは手を伸ばしかけたまま呆然として。
「あーらら、口は禍の元ねえセイル様?」
「いや、その、なんだ……」
「あの男、中々に癖者よ? あんまり関わらないのを勧めたいとこだけど」
「……まあ、気を付けよう。今後、な」
余計な事を言ってしまった。
無口キャラを踏襲しなかった事を、セイルは今この瞬間ばかりは後悔していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます