簡単に受け入れられるものじゃない
セイルの一通りの説明を受けると、エイスは呆けたような顔になって座り込む。
「違う世界……俺達の世界が、もうない……?」
「ショックなのは分かる。だが俺達は」
「そんな……そんな簡単に割り切れることじゃないでしょう!」
床をバンと叩くエイスにアミルが素早く反応しかけるが、セイルはそれを視線で制する。
「無くなったんですよ? 俺達の世界が……俺の村が! 王子だって、なんでそんな淡々と言えるんですか!」
「……エイス……」
それはそうだ。簡単に受け入れられるものじゃないだろう。
アミルやイリーナ……まあ、ウルザは例外としても、彼女達の割り切りが凄いのだろう。
エイスの反応は、むしろ当然のものだ。
「くそっ、なんでそんな……」
「エイス。今すぐ割り切れなんて言わない。だが俺達はこの世界で力を合わせる必要があるんだ」
「……王子。申し訳ありませんが、今の俺は王子に力を貸す理由がないです」
言われて、セイルはぐっと言葉を呑み込む。
そうだ。これは有り得た反応だ。
カオスディスティニーのキャラクター達は、それぞれの理由でセイルに力を貸してくれていた。
その中には、カオスディスティニーの世界の中でこそ力を貸したキャラクターも当然いたはずだ。
目の前のエイスが「そういうキャラ」であった可能性は、当然考えられたことだ。
「俺達の世界がもう無い事も、この世界が違う世界である事も理解は出来ました。でも、俺は俺の村を守る為に王子の配下になったんです」
「……だが」
「滅びた世界から俺を拾い上げてくれた事には感謝します。でも俺は……こんな事を言うのは不敬だと分かってはいますが、滅びた世界で村の皆と運命を共にしていたかった」
その言葉に、セイルの良心がズキリと痛む。
滅びた世界。それどころか、カオスディスティニーの世界は「存在すらしていない世界」だ。
だが、そんな事を話すわけにはいかない……絶対に、だ。
「エイス! 貴方、セイル様になんてことを……不敬ですよ!」
「斬りますか? 斬ればいい。この世界が違う世界なら、王子の威光なんてありませんよ!」
「この……!」
「やめろ」
剣を今にも抜きそうなアミルと、杖を構えて立ち上がったイリーナをセイルは制する。
「エイス、お前の気持ちは分かった。その上で、これからどうしたい。元の世界に戻すというのは、当然だが出来ない。そういう機能は無いからな」
手の中のカオスゲートを見せるセイルを、エイスは無言で見つめる。
そのまま無言の時間が続くかと思われた後……エイスは座ったまま、大きく溜息をつく。
「……分かってるんですよ、八つ当たりだってことくらい。王子だって、俺を好意でこの世界に連れてきてくれてる。それにとやかく言うのが我儘だってことも分かってます」
それでも、割り切れない。そう呟いて、エイスは俯いてしまう。
そんなエイスに……セイルは膝をつき、手を差し出す。
「お、王子……?」
「セイルと呼んでくれていい。これは俺の我儘なんだが……やはり、俺はお前に力を貸してほしいと思う」
「え、いや。立ってくださいよ! 王子がそんな……」
「お前も言っただろう? この世界じゃ、俺は王子じゃない。そんな俺に……ただのセイルに、力を貸してほしいんだ。他ならない、お前の力を」
「う……いや、その……」
うろたえるエイスに、セイルは微笑みかける。
それは自然に出てきて……その笑顔を見たアミルやイリーナが思わず「うっ」と呻いて頬を染めるような……そんなカリスマめいたものが溢れ出た笑みで。
「お前が必要だ、エイス」
「……分かり、ました」
エイスはそう答えた後、顔を両手で覆ってしまう。
「ああー……もう! なんですかその笑顔! 卑怯だ、卑怯すぎる! そんな顔初めて見ましたよ!?」
「そうか?」
「そうですよ! いつも何考えてるか分かんない無言無表情だったのに良く喋るようになってるし……!」
確かにセイルはそういうキャラだったな……などと考えながらも、セイルは苦笑する。
「フェリスがいるわけじゃないからな……俺自身が色々とやっていかねばならん」
「そういえば、そのカオス……ゲート? でフェリス様は……」
「残念だが、これにはそこまでの力はない」
フェリスは星5。レアガチャがあるならともかく、ノーマルガチャしかない今の状況ではフェリスをこの世界に喚び出す手段はない。
「そ、うですか……」
「お前、フェリスに惚れてたんだったか?」
「な、ななな……何言ってんですか! そんなわけないですよ!」
ああ、これはそうだな……と確信しつつも、そんなエイスにセイルは申し訳なくも思う。
フェリスは現時点では、絶対にこの世界には来れない。
エイスの想いが叶うチャンスはないだろう。というか、確か公式設定では「フェリスはセイルの事が……」みたいな文言もあったはずだから、もしレアガチャが引けてフェリスが来たとしても振られる運命なのは間違いない。
「まあ、いい。とにかく今俺達が抱えている問題について話をするから聞いてくれ」
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