出発準備画面ではミスが無いように気を付けるべし

 跳ね足の仔馬亭の部屋に戻ると、ウルザがぐっすりと寝ていた。

 何故か脱いだ服がベッドの下に捨ててあるのが気になるが……とりあえず気にしない事にして、セイルは近くの椅子を引き寄せ座る。

 アミルはウルザがセイルの視界に入らないような位置に立ち、イリーナは別の椅子を引いてきて座りだす。


「で、これから準備をするわけだが……」

「ああ……やっぱりソレなんですね」

「当然だ」


 カオスゲートを取り出したセイルにアミルが微妙に顔をヒクつかせる。

 引く度に資金が減るのが気になるのだろうが、引かなければどうしようもないのだから仕方ない。


「今回の相手はオーク。しかも恐らくは小集落などというものではすまない規模に増えている可能性もある。となると、戦力の拡充は必須だ」


 星3の武器でもいいし、星3のユニットでもいい。

 ウルザは星3のユニットではあるが、純粋な対モンスターの戦力としては数え難い部分がある。

 そう考えると、純粋な前衛がアミル、セイル、後衛がイリーナ……となっているこの現状を補強するようなユニットが一人欲しい。

 

「具体的にはそうだな……真正面から盾になれる重装兵。あるいは手軽に戦力を補強できる召喚士が是非欲しい」


 星3でいえば、やはり重騎士レイアか召喚士クロスだ。この二人が来ればかなり違う。

 レイアはイリーナを護衛するにも戦線を支えるにも役立つし、クロスの召喚するソルジャーアーマーは槍を使うから攻撃役を簡単に増やす事が出来る。

 可能なら二人来てくれてもいいのだが、それは確率的に中々難しいだろう。

 だが同じ星3のウルザとて来てくれたのだ。不可能というわけではないはずだ。


「レイア様は、確か新人の騎士の方でしたよね……」

「ああ」


 そういえばアミルは兵士だから、立場としては新人騎士のレイアよりも下なんだな、とセイルは不思議な気持ちになる。

 イリーナも同じだ。もし「騎士」が来たら、アミル達の距離も今より遠くなってしまうかもしれない。

 それは少し寂しいような、そんな気がして。


「……まあ、誰が来ても気にすることはない。今まで通りだ」


 言い訳のようにそんな事を言ってセイルは10連ガチャをクリックする。

 10連で1シルバーを消費。


ガチャ結果:

狩人エイス(☆★★★★★★)

鉄の槍(☆★★★★★★)

鋼の盾(☆☆★★★★★)

鉄の鎧(☆★★★★★★)

布のローブ(☆★★★★★★)

鉄の斧(☆★★★★★★)

鉄の斧(☆★★★★★★)

鉄のレイピア(☆★★★★★★)

鋼のレイピア(☆☆★★★★★)

錆びた杖(☆★★★★★★)


「おっ……」

「わあ、出ましたねセイル様!」

「おおー……」


 嬉しそうなアミルと無表情ながらも嬉しそうなイリーナ。

 ユニットが出たことが嬉しいのだろうが……。


「で、セイル様。この人はどういう方なんですか?」

「ん、ああ……」


 正直、覚えていない。星3以上なら何となく覚えているのだが、星2以下はほとんど記憶にない。

 狩人エイス。どんなキャラだっただろうかとセイルは必至で頭を働かせる。

 覚えていないなりに女キャラならそれなりに覚えているから、ここまで覚えていないということは恐らく男だろう。

 しかし、そんな事を正直に言えないセイルは必死で思い出す。

 確か……そう、なんとなくだがぼんやりと思い出してきた。


「……何処かの村の狩人、だったな」


 どういう経緯だとかは覚えていない。そこまで男キャラに興味がなかったというのもある。

 しかも星1だ。出てきて「チッ」とは思っても、詳しく設定を読んでなどいない。


「では、これでガチャは終了ですね!」

「ん? いや、もう1回くらい……」

「新しい人も来るんですし、いいじゃないですか」

「いや、そうは言ってもだな」

「いきなり増やしすぎてもいい事ありませんよ!」


 アミルにそこまで言われると、セイルとしても「そ、そうだな」としか言えなくなってしまう。

 まあ、確かに男が一人増えたならばそれでもいいのかもしれないが。


「まあ、いい。早速喚び出すとしようか」


 狩人エイスを召喚しますか?


「はい」を選べばカオスゲートが光り、一人の男の姿が構築されていく。

 それは、森の中に溶け込むような深い緑色の服。

 髪の色は燃えるような赤色で、同系色の赤い目は次第に焦点が合っていき……目の前のセイルをはっきりと捉える。


「王子……?」

「よく来てくれたな、エイス」

「此処は……いや、俺は……?」


 混乱するように周囲を見回したエイスは、アミルやイリーナの姿を見つけ訝しげな顔を浮かべる。


「王国兵……2人、だけ?」


 寝息に気付き3人、と訂正するが……ウルザは王国兵ではない。


「王子。他の方は……参謀のフェリス様は何処に?」


 参謀フェリス。チュートリアルで主人公であるセイルに操作説明をしてくれたり、要所で喋らないセイルの代わりに喋ったり状況説明をしたりする解説キャラだ。

 ユニットとしては星5で、ノーマルガチャから出てくるキャラではない。

 つまり、エイスの言う「参謀のフェリス」はこの世界にやってくることは出来ない。

 だから……セイルはこう言うしかない。


「フェリスは居ない。よく聞けエイス。此処は……俺達の世界じゃない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る