決闘の朝

 そして、次の日の朝。セイルは微妙にだるい身体を起こす。


「おはようございます、セイル様」

「おはようです」


 セイルが起きるのを待っていたのか、ベッドの近くには整列したアミルとイリーナが立っていて……その様子に、セイルは思わず苦笑する。


「2人ともしっかりしているな。それとも俺と同室だと緊張してしまうか?」

「とんでもありません! 身が引き締まる思いです!」

「です」


 どうやらアミルに比べるとイリーナは合わせているだけ、といった印象があるが……早めに男キャラを出して彼女達を別室にするか、女キャラでも距離感の近いキャラを出してそちら方面に修正していくかを考えないといけないかもしれないとセイルは思う。

 こればかりは、いくらセイルが気にするなと言っても中々直らないだろう事は確実だ。


「しかし、あの女は大丈夫なのでしょうか?」


 あの女、というのがウルザのことであると察してセイルは頷いてみせる。


「大丈夫だろう。朝には戻ると言っていたしな」

「だといいのですが……」


 そんな会話をしていると、タイミングを計ったかのようにリズミカルに扉が叩かれる。


「はーい、戻ったわよ」


 聞き違えようもないウルザの声にアミルが無言で歩いて行ってドアを開けるが……その瞬間「うっ」とのけぞる。


「さ、酒臭っ! 貴方、どれだけ呑んでるんですか!?」

「私は大して呑んでないわよ。呑ませた方だもの」

「貴方まさか軍資金をほとんど酒に変えてきたんじゃないでしょうね!?」

「いいからどいて。報告できないでしょ」


 ウルザはアミルを手で押しのけると、ベッドに座るセイルの近くまでやってきて一礼する。

 その腕には出る時には持っていなかった細長い包みが抱えられている。


「ただいま戻ったわ、我が主セイル」

「ああ……確かに酒臭いな。酒場に居たのか?」

「ご想像の通り。そして全ての細工は完了よ」


 自信満々に笑うウルザにセイルは「そうか」と頷いてみせる。


「なら、報告を聞こうか」

「ええ、その前に……はい、軍資金の残り」


 言いながらウルザの投げてきた革袋を開けてみると、そこには7シルバーと80ブロンズが入っていた。


「増えてないか? 確か渡したのは5シルバーのはずだが」

「ついでに賭け事にも勝ってきたのよ。楽なものね」

「そうか……」


 増える分には全く問題が無いので、セイルはそのままカオスゲートに金を収納する。


「で、報告だけど。まず結果から言うと今回の決闘騒ぎは真っ黒ね。代理人、協力者、すり替え。ぜーんぶ仕掛けられてたわ」

「豪勢な事だな……」

「まったくね」


 溜息をつくセイルと、クスクスと笑うウルザ。

 そのままベッドに腰掛けるウルザを見てアミルが「あっ」と声をあげるが、セイルが「構わん」と制する。


「でもまあ、そんな仕掛けをする割にはお口はユルユルで助かったのも事実ね。ほんのちょっと煽てて呑ませるだけで吟遊詩人ばりに唄ってくれるんだもの」


 ウルザの聞き出した今回の決闘騒ぎの「真犯人」だが、どうやら冒険者ギルド職員の一人であったらしい。

 主に買取担当の職員はセイルの剣に目ざとく目を付けたらしいのだが……どうにも似たような事をよくやっていて、その片棒を担いで美味しい思いをしていたのが昨日の連中ということらしい。


「セイルが初めてギルドに来た時から目をつけてたらしいわよ?」

「ふむ……」


 とすると、あの日冒険者ギルドに居た中の誰かが犯人だったということだろう。

 買取担当が誰かはセイルには分からないが……。


「上手く森の中でモンスターにやられて倒されてたなら、後から息のかかった連中に回収させて売り払うつもりで偽物を仕立ててたみたいね。そっちの協力者は町のアクセサリー職人よ」

「なるほどな……」

「で、それがコレ」


 言いながら包みをウルザが開けると、そこから出てきたのは柄の装飾がヴァルブレードに似ていないこともない……そんな感じの剣だ。


「普通の鉄の剣にそれっぽい装飾つけたみたいね。たいして価値もなさそうだけど」

「おい……それは……」

「あんまりペラペラ喋るもんだから……つい、ね」


 てへっ、と笑うウルザにセイルは「盗んできたのか……」と溜息をつく。


「あら、違うわよ。早朝の人の少ない時間帯に冒険者ギルドに運び込むつもりだって言ってたから。背後からこう……トン、とね」


 手刀で何かを打つ仕草をしてみせるウルザに、セイルは再度の溜息をつく。


「もっと酷いな……」

「所詮酔っ払い相手だもの。酒瓶と一緒に転がしといてあげたから、兵士に見つかっても疑われないわ」


 なるほど、その細工師か……あるいは運び役も犯人の呑み会に参加していたのだろう。

 しかしそうだとしても迷いなくそういう手段をとれる辺りは流石暗殺者といったところなのだろうか?


「まあ、いい。カオスゲートに入れておけばバレないしな」


 言いながらカオスゲートに取り込むと、そこには「偽ヴァルブレード(☆★★★★★★)」と表示される。

 攻撃力は1。星1の鉄の剣よりも低い。


「……まあ、これですり替えは防げたわけだな」

「ええ、そうね」


 ニヤニヤと笑うウルザにセイルは「まだ何かあるな……」と呟くも、「後は結果をお楽しみにってやつよ」と言いながらセイルのベッドへと潜り込んでしまうのだった。

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