イベントは大抵連鎖する
「……気付いてるか、セイル」
そんなバルトの問いかけに、セイルは「ああ」と答える。
何に、などとは聞かない。先程からセイル達をつけている者の姿があるからだ。
「どうする?」
「どうするも何も、そうだな……」
セイルは足を止めると、そのままピリピリと警戒していたアミル達を押しのけて追跡者達のいる方向へと目を向ける。
「おい、出てこい。バレバレだ」
そう告げれば、路地に顔を引っ込めた男達が舌打ちしながら出てくる。
それは冒険者ギルドに居た面々だが、数は全部で四人。
全員が何らかの武器を持つ、戦士で構成されていた。
「チッ、いつから気付いてやがった」
「最初からだが」
「気付かれてないつもりだったのか?」
セイルにバルトも同調し、呆れたように息を吐く。
それをバカにされていると感じたのか……いや、実際馬鹿にしているのだが、リーダーらしき剣士の男が怒りの表情を浮かべる。
「バルト……手前等はどいてろ。俺等は其処の貴族のお坊ちゃんに用事があんだよ」
「貴族だあ?」
「おうよ、その高そうな装備。どう見ても貴族のボンボンだろうが。しかもいけすかねえ空気を出しやがって」
いけすかない空気、というのは王族のカリスマのことだろうかとセイルは思う。
なるほど、そういうものが気に入らない者に対してはそうなるのだろう。
「……俺が何処の何者かなんて、どうでもいい事だろう。何の用だ? まさか、こんな往来で強盗でもしようってわけか?」
「ハッ、そうじゃねえよ。紳士的に交渉ってやつに来たんだ」
イリーナが何か言おうとしてアミルが口を押えているが、恐らくは何か余計な事を言おうとしたのだろう。
まあ、たぶん「紳士的な顔じゃない」とかそこらへんだろう。セイルも同感だ。
「一応聞こうか?」
「おう。そこの魔法士をうちのパーティに勧誘に来たんだ。テメエみたいな坊ちゃんと細い女のコンビと組むよか、余程頼りになるってもんだ」
言われてセイルは思わず目を丸くする。そういう用件だろうとは思っていたが、あまりにもど真ん中すぎて何と返せばいいか逆に分からなくなってしまったのだ。
「ちょっと、何言ってんのよ! あんた等用心棒専門じゃない! 魔法士なんか仲間に入れたって意味ないでしょ!」
サーニャが目を吊り上げて叫ぶが、男は気にした様子もない。
「だからだよ。魔法士がいるとなりゃあ、より単価の高い用心棒の仕事も来るってもんだ。イイ思いさせてやれるぜ?」
「おう。ついでにペルナもどうだ? 神官も需要が高いぜ」
「嫌……!」
嫌悪感に満ちた顔でペルナに拒絶されて、男は肩をすくめる。
「そうかい。で、魔法士のお嬢ちゃんはどうだ? 夜だって存分に満足させてやれるぜ? なあ?」
下品な誘い文句とも思えない誘い文句に女性陣が怒りの表情を浮かべ、男の仲間たちが下品な笑い声をあげる。
それで誘えると思っている辺り、普段どういう層と付き合っているのか知れたものだが……当のイリーナは無表情だ。
……が、やはり怒ってはいるらしい。
「今世では、ご縁がなかったということで」
「あ?」
いまいち良く分からない返しをされた男が首を傾げるが、イリーナはそんな男に無表情のまま、親指で首を掻っ切る動作をする。
「キモいので、お帰りください。来世でセイル様くらいのイケメンになってから、出直してほしいです」
「んなっ……!」
遠回しに死ねと言われた……まあ、誰が聞いても仕方ないが、そんな返答に男達は顔を真っ赤にする。
「お、おいおい。いいのかよ。俺達はランク3のパーティなんだぜ?」
「そうなのか?」
「残念な事にな」
セイルの問いにバルトが苦い表情で答える。
この辺りは冒険者ギルドの基準のせいなのだが……実力と見合っているようにはセイルには見えなかった。
「人間のランクが低いです。ママのお腹から生まれ直してこいです」
「て、てめ……!」
イリーナの口汚い言い様に、思わずセイルは手で額を押さえる。
そう。そういえばそうだった。
イリーナは騎士でもなんでもなく、兵士なのだ。
いざという時の動作こそキビキビしていても、上流階級ではなく庶民だ。
兵士なのに騎士みたいなアミルが恐らくは例外なのであって、恐らく兵士はこんなものなのだろう。
「大体、何がランク3ですか。お前の人間のランクが3です。セイル様は1億ですけど。ちなみに2はネズミで1は黒くて素早い虫です」
「お、おいイリーナ、そのくらいで……」
「夜の相手が欲しけりゃゴブリンに土下座してこいです。きっとお情けで抱いてくれるです。それともネズミを抱くですか? お前のなんかで満足できないと齧られるかもですけど」
ペラペラと口の回るイリーナにセイルを含む全員がドン引いているが、それでもイリーナは止まらない。
「ああ、でもゴブリンもネズミも迷惑だって言うですね。やっぱり生まれ直した方がいいです。きっと5巡目くらいには普通になれるです」
「な、な……」
「で、いつまで其処にいるつもりですか? 正直見られてるだけで迷惑なもがっ」
「イリーナ! 待て、言いたいことは分かったから!」
色々耐えきれなくなったセイルがイリーナの口を塞ぐが、イリーナは何故か満足そうで。
「ぶ……ぶぶぶ……ぶっ殺す……!」
目を血走らせた、今となっては少しばかり哀れな男達が其処に居た。
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