何かあると身構えてるときは大抵何もない

 トテラの森ではその後は何事もなく、セイル達は一度の戦闘もないままにアーバルの町へと帰還していた。

 相変わらずやる気のない門兵の横を抜け、冒険者ギルドへ帰り着くと……多少人が減ったり変わったりしてはいたが、相変わらずやる気の無さそうな面々が駄弁っていた。

 いくら仕事待ちとはいえ、それでいいのかとは思うが……まあ、セイルが口を出す事でもない。

 だが、冒険者ギルドの職員はセイルとバルトが仲良さげに話しながら近づいてくるのを見て、訝しげな顔になる。


「戻った。とりあえず出会ったゴブリンは倒してきたが」

「こっちもだ。それと、ジェネラルが出たぞ。セイル達が居なければ危ないところだった」


 セイルの報告にたいして反応を見せなかった職員は、バルトの「ジェネラル」という言葉に「えっ」と声をあげる。


「ジェ、ジェネラルですか? そんなものが森に?」

「ああ」

「よくぞご無事で……いや、流石は白き盾の皆様です!」


 そんな事を言う職員に、バルトは眉を顰め咳払いをする。


「倒したのはセイルだ。俺達はただ蹴散らされるだけだった」

「へ……?」


 言われて職員はバルトとセイルを見比べ……「ぼ、冒険者カードを拝見します」と伝えてくる。


「セイル、見せてやれ」

「ああ」


 バルトに言われセイルが冒険者カードを渡すと、職員は水晶のようなものにセイルの冒険者カードをかざし始める。


「……ゴ、ゴブリンジェネラル……確かに討伐記録に残っています、が」

「何がおかしいんだ」

「い、いえ……」


 バルトに睨まれた職員はそっと目を逸らすと「すぐに処理致します」と呟く。

 

「セイル、全員分のカードを」

「ああ」


 バルトと共に全員分……イリーナは持っていないのでそれ以外だが、とにかく全員分の冒険者カードを集めると、カウンターの上に置く。

 職員はそれを次々と水晶に翳していき、イリーナの方へと視線を送る。


「あの、あちらの魔法士の方のカードは……」

「イリーナはこの後登録するつもりだ」

「は、はい。ではセイル様ご一行と白き盾にそれぞれ、3シルバーをお支払いします。それとゴブリンジェネラルの討伐を確認しておりますので、特別報酬として1ゴールドをお支払いします。これはそれぞれに50シルバーずつ……」


 俺達はいらない、と。そう言いかけたバルトの脇腹を肘で突き、セイルは「それでいい」と答える。


「おい、セイル」

「最初に戦っていたのはお前達だろう。大人しく受け取れ」


 そう言えばバルトは黙り込む。懐事情が厳しいという話もしているだけに、セイルの好意がよく分かるのだろう。


「……感謝する」

「ああ」


 気にするな、とは言わない。いつか恩が返ってくるのをセイルは期待している。


「えっと……それではそちらの魔法士の方の登録をなさいますか?」

「ああ」


 ゴブリンジェネラルの話はそれで終わりなのだろう。いや、それともイリーナの事が気になっているのだろうか。

 やや食い気味にそう提案してくる職員にセイルが頷くと、イリーナが進み出てくる。


「では、こちらのオーブに手を触れてください」


 セイルとアミルも触れたオーブにイリーナが手を触れると、オーブは黒く輝き始めて。

 それを見ていた野次馬冒険者達から「おおっ」という声があがる。


「これは……闇属性ですか! 大変珍しい属性ですが、何処かで学ばれていたのですか?」

「秘密、です」

「そ、そうですか……では、通常は仮登録から始めるのですが……その、えーと……セイル様のお知り合い、ですよね?」

「はい。セイル様は主でもがっ」


 慌ててセイルが口を塞ぐが、職員は口元をヒクつかせた後に聞かなかったような顔をする。


「では、仮登録期間を飛ばし登録させていただきます。ペグ様からの推薦もございますので……」


 自分達が居ない間にまたペグが来ていたのだろうか。

 そんな事をセイルは考えるが、まあ手間が省けるのは丁度いいと黙っている事にする。


「それでは、こちらが冒険者カードになります」

「はい」


 イリーナがカードを受け取って下がると、職員は仕事が終わったというような顔をするが……そのタイミングを狙ってバルトがカウンターに肘を置く。


「で? ゴブリンジェネラルの件はこれで終わりじゃないだろう」

「へ?」

「ジェネラルが出る程にゴブリン退治を放置していたのはギルドの責任だろう。アレは放置しすぎた結果の進化としか思えん」

「そ、そう言われましても……」


 職員は近くにいる仲間の職員に助けを求めるが、誰もがすぐにサッと目を逸らす。


「トテラの森の再調査をするべきだ。ジェネラルで終わりならいいが、キングが出ていたら洒落にならんぞ」

「は、はあ。それについては検討させていただきます」


 どうにも引き気味の職員に舌打ちをすると、バルトはセイルの肩を叩いて「行こうぜ」と告げる。


「……そうだな」


 傭兵斡旋所の類であることは分かっていたが、どうにも危機感が職員にあるようには見えない。

 まあ、国から請け負っている仕事とかそういうもののせいだろうが……あるいは、自分は関係ないとでも思っているのかもしれない。

 そんな冒険者ギルドの現実を感じながら、セイルは冒険者ギルドを出た。

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