決闘イベントは大体回避できない
「おい、てめえ! そこまで馬鹿にしたからにゃ分かってんだろうな!」
「もがもが」
「イリーナ、いいからお前は口を閉じろ。いいな!」
「もが」
イリーナが頷いたのを確認してセイルが手を離すと、イリーナはゴミを見る目で男達を見始める。
「アミル。イリーナを掴んで別の方向向かせてろ」
「は、はい」
アミルが慌てたようにイリーナを引きずっていくが、男達は今にも武器を抜きそうだ。
「あー……イリーナが言い過ぎたのは悪かった。だがお前達も女性に対してマナーが悪すぎる。喧嘩を売りに来たようにしか見えない」
「ああ!? 今更誤魔化そうってか!」
「そうじゃない。お互い様ということで収めようって話だ」
何もセイルも殺し合いをするつもりもない。イリーナの口は悪すぎるが、所詮口喧嘩だ。
そんなもので命をかけるのは馬鹿らしいと思っている。
……が、男達はそうではない。
「それを誤魔化しってんだよ。こっちは馬鹿にされてんだ。当然その喧嘩は買わなきゃならねえ」
「……だから喧嘩を売りに来たのはお前等だろうに」
「ならお前等は喧嘩を買ったってことだな?」
話にならない。それではどのみち喧嘩に……武器を使うなら殺し合いになる。
かといって、あの場で無視しても逃げても同じだっただろう。
……ということは、つまり。
「まさか。お前等、最初からそういうつもりだったのか?」
「何の話か分からねえな。だが俺だって冒険者だ。正々堂々決闘を申し込む」
「決闘……?」
「おい、それは認められないぞ。セイルにあまりにも利益が無い」
訝しげな顔をするセイルが「決闘」が何のことか分かっていないと気付いたのか、バルトはそんな声をあげる。
「テメエは黙ってろバルト。お前等はこの件にゃ関係ねえ。大切なのは「受ける」か「受けない」かだけだ」
「賭けるものがないだろうと言っている。お前が何を望んでるかは想像がつくが、セイルに対して払えるものがあるのか?」
「どういう意味だ?」
セイルにしてみれば決闘なんて殺し合いと変わらないが、バルトの言い様だと何かがあるように聞こえる。
「ああ。あいつが言っているのは冒険者ギルドの規約に基づく決闘……つまり、互いに何かを賭けての勝負だ」
「賭ける……つまりイリーナを欲しがってる、てことか」
なるほど、それならば確かに賭けになんてならない。
イリーナに相当するものを、男達が持っているとは思えない。
「違ぇよ。流石に俺達も人を賭けようたあ言わねえよ。真面目な冒険者だからな」
どの口が、というのは全員の同じ感想だっただろう。
口を閉じたままのイリーナの器用な舌打ちが響くが、それはさておき。
「代わりと言っちゃなんだが、その剣を賭けて貰おうか?」
「何……?」
「古ぼけた剣だけどよ、まあ賭けるのは互いのプライドってやつだ。別に構わねえだろ? なあ?」
なるほど、そう来たか。セイルの感想はそんなものだった。
ヴァルブレードは、設定上は「伝説の剣」である。
世界最初の王が神に授けられたとされる神剣であり、それ故に「王剣」とされる剣。
ストーリークエストでセイルが手に入れる剣……その割に実際に装備するにはガチャで手に入れる必要があったのだがそれはさておき。
その見た目は、ヴァルブレードが「覚醒」するまではあまり目立たない古ぼけた剣だ。
当然、星5のヴァルブレードの剣の見た目は「古ぼけた剣」そのものだ。
そんなものに目を付けられるとは思っていなかったが……ひょっとすると、そういうお宝を見抜く能力に長けた男なのかもしれない。
「受けられないな。これはお前が言うよりも価値ある剣だ」
「ハッ、聞いたかお前等! この坊ちゃんは中古の剣1本が惜しくて決闘も受けられねえとよ!」
男の嘲笑に合わせて連れてきた男達が笑う。
周囲で先程から遠巻きに見ていた野次馬達からもクスクスという笑い声が漏れてくるが……まあ、つまりはそういう戦術なのだろう。
「兄ちゃん、受けてやれよ! なんなら新しい剣買ってやろうか!」
そんな野次すら聞こえてくるが、だからといって受ける理由はない。
溜息を一つして身を翻そうとして。カチャカチャという鍔鳴りのような音を聞いた。
振り返れば、そこには耐えるような表情で剣に手をかけるアミルと……表情の抜け落ちた顔で杖を握るイリーナ。
「……セイル様、ご命令を。今すぐあの無礼者を斬り捨てます……!」
「今すぐ消せるです……」
なるほど。セイルが乗らずとも、これは逃げられそうにはない。
アミル達の主として、こんな顔をさせてまで避けるような戦いではない。
覚悟を決めると、セイルは男達へと視線を向ける。
「で? お前は何を賭けるんだ」
「決まってるだろ? 俺の剣だよ。高ぇぞ? 60シルバーもしたからな」
ハハハと笑う男を見て、セイルはゆっくりと心を静めていく。
見れば分かる。あの男は、そんなに強くない。
ゴブリンジェネラルを倒した後のせいか、セイルにはそれがハッキリと分かる。
セイルのヴァルブレードの目利きが出来るような男が、それに気づいていないはずもない。
なら、何かある。
セイルはそれが何かについて、ゆっくりと考えを巡らせていた。
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