トテラの森3

 その言葉に、セイルは一瞬考えた後に「分かった」と頷く。

 この場で断るのは簡単だ。オークを倒すという目的は達成できていないし、もし道中で素性を探られれば面倒な事になるかもしれない。

 しかし見捨てるというのは如何にも寝覚めが悪いし、助けておいてそんな事をするというのも無責任だろう。


「本当!? はあ……助かるわ。ありがとう」

「だが、君達はなんでこんな所であんなのと戦っていたんだ? 倒す依頼でも受けていたのか?」


 試しにセイルがそう聞いてみれば、とんでもないとばかりにサーニャは嫌な顔をしながら手をパタパタと振る。


「冗談じゃないわよ。ゴブリンジェネラルなんか相応の準備がなきゃ相手できないもの。私達が受けたのはオークの集落調査よ」

「ん? あれはランク3以上のパーティ推奨じゃなかったか?」


 自分の事を棚に上げるセイルだったが、冒険者ギルドでの話を知るはずもないサーニャは「あー」と苦笑する。


「確かにちょっと背伸びしてるけど。あくまで推奨だから、私達でも調査くらいなら……ね?」

「そうか」

「それがまさか、ゴブリンジェネラルに会うとは思わなかったけど」


 サーニャの話を聞きながら、どうやらゴブリンジェネラルが居たのは相当に想定外の状況であり、ひょっとするとオーク以上の強敵なのではないかという想像をつける。

 しかし、それを確信できるわけでもなかった為に、ためしにかまをかけてみる。


「はは、その言い草だとオーク相手なら会っても何とかなったように聞こえるな」

「それは言いっこ無しでしょ。そりゃオークも強いし集落の中に入り込んじゃったらヤバいけど。でもゴブリンジェネラル程じゃないわよ」


 それを聞いて、セイルは自分の中でのオークの優先度を下げる。

 強さを測るという意味では、今回の目的はある程度達成されたも同然だ。


「けど貴方って本当強いわよね。一体……」

「サーニャ、治療終わったよ」

「え? ほんと!?」


 言いかけたサーニャはしかし、先程治療に回っていたペルナがやってきたことによって中断される。


「うん。まだすぐには動けないかもだけど、傷はもう全部。なんか魔法の効果がいつもより高くて……」

「へえ……」


 その言葉に、セイルは感心したように頷く。

 結構危ない者も居たはずなのだが、ペルナには疲れた様子もない。

 カオスディスティニーにおいて回復とは魔法ユニットの持つおまけみたいな能力であったが、この世界では所謂「神官」とか「回復魔法士」的な専門の回復役がいるのだろう事が理解できた。


「凄いんだな」

「ふへっ!?」


 素直なセイルの称賛に、しかしペルナは顔を真っ赤に染める。

 プルプルと震えだしてしまうペルナを見て、セイルは思わずサーニャに「俺は何かやったか……?」と聞いてしまうが、サーニャも今の反応は予想外であったらしい。


「ちょ、ちょっとペルナ。どうしたのよ」

「ど、どどど、どうって……サーニャはどうして平気なの?」

「へ?」


 ぷるぷる震えながらもそう主張するペルナに、今度はサーニャが疑問符を浮かべてしまう。


「だって、さっきの戦闘……それにこの雰囲気……どう考えてもやんごとない立場の方だよ……」


 言われて、セイルは気づく。

「王族のカリスマ」だ。原因はそれに違いない。

 セイルの元々持つスキル「統率」からヴァルブレードによって変化した「王族のカリスマ」は味方ユニットの能力アップという効果を持っているが、それが現実になるとペルナのような反応になるのかもしれない。

 その割にはサーニャが普通だったり冒険者ギルドでの反応がああだったのは気になるのだが……ひょっとすると先程の「魔法の効果がいつもより高い」というのも、それが関係しているかもしれなかった。


「俺はたいした人間じゃない。気にしなくていい」


 亡国の王子という「設定」はあっても、この世界では何の役にも立たない。

 ならば最初からそんな設定はなかったという風な体で居た方がいい。


「そ、そうなんですか?」

「そうよペルナ。やんごとない方々がこんな場所にいるわけないじゃない」

「で、でも……」


 ペルナの視線はセイルの背後……ビシッと立っているアミルや、目立たないように控えているイリーナへと向けられている。

 セイルのパーティメンバーというよりは従者っぽいその態度を加味すればなるほど、そういう風に見えるのも仕方ないかもしれない。


「俺は単なる冒険者の後輩だ。本当に気にしないでくれ」

「は、はい。あの、私ペルナです」


 そういえば本人から自己紹介はされていなかったか、と気付いたセイルは「俺はセイルだ。あっちの剣士はアミルで魔法士はイリーナだ」と改めて自己紹介する。


「セイル様……」


 だが、どうにもペルナの視線はセイルにだけ集中している。セイルの顔が美形設定だというのは知っているしセイルも自身の顔がそうだというのは分かっているが、どうにも居心地が悪い。


「と、とにかく。そっちの仲間が目を覚ましたら移動しよう。流石に男三人を運んで移動するのは辛いしな」

「そうね……ほら、ペルナ!」

「ああっ」


 微妙にジリジリとセイルへと近づいていくペルナを引き離して仲間の元へ連れて行くサーニャ。

 その様子を見ながら、セイルは今更ながらに「やっぱセイルって美形なんだな……」と、そんなズレた事を考えていた。

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