トテラの森2

「も、もうダメよサーニャ。こんなの、勝てっこない……逃げよう!」

「駄目よ。皆を置いて逃げられない!」


 サーニャと呼ばれた少女から離れた場所に転がっているのは、血を流し気絶した仲間達。

 幸いにも全員生きてはいるようだが、手当てをしなければ危ういだろう。

 しかし目の前にいるのは、ゴブリンジェネラルと呼ばれるゴブリンの上位種。

 一般的な上位種であるゴブリンリーダーよりも更に2段階も上の超強敵だ。

 ただのゴブリン退治の依頼のはずが、こんなものが出てくるなんてと嘆いても状況は変わらない。


 なんとかゴブリンジェネラルを退けられれば、他のゴブリンも撤退するはず。

 しかし、この場で動けるのは剣士のサーニャと、サーニャの後ろで震える神官のペルナだけだ。


「大丈夫。こんな奴、すぐにやっつけるから!」


 ロングソードを構え、サーニャはゴブリンジェネラルを睨みつけて。

 しかし、ゴブリンジェネラルはそんなサーニャを嘲笑う。

 力の差は歴然。この女の剣では、自分を殺せない。

 逃げても、その先にゴブリン達を配置している。

 どう足掻いても、女達の先に待つのは絶望だ。


 それが分かっているから、邪魔な男を行動不能した。

 それが分かっているから、こうして遊んでいる。

 それが、分かっていたからこそ。

 それに、恐怖した。


「う、おおおおおおおおおおおお!」


 叫ぶ。飛び込む。

 広場の惨状を目にして、セイルは己を律する全てを消し飛ばした。

 これも罠かもしれない。弓で狙われているかもしれない。

 そうしたリスクを全て無視してセイルは広場へと、ゴブリンジェネラルへと向かっていく。

 強敵であるのは分かっている。だから、出し惜しみはしない。


「ヴァル……スラアアアアッシュ!」


 セイルの咆哮に応えるかのようにヴァルブレードが眩く輝く。

 ヴァルスラッシュ。詳しい設定こそ存在しないが、攻撃力の3倍のダメージを敵に与える必殺技。

 幾らヴァルブレードによる補正があるとはいえセイルもヴァルブレードもレベル1では、威力は知れたもの。

 だが、輝く光の剣による一撃は……ゴブリンジェネラルを、一撃で真っ二つにする。


「ア……」


 悲鳴をあげることすら叶わず、真っ二つになったゴブリンジェネラルは地面へと轟音を立てて落ちる。


「ギ、イイアアアア!?」

「ギア、ギア!」

「ギイ!」


 光の消えたヴァルブレードを構えるセイルの姿に、ゴブリン達は怯え……しかしそれでも、ジリジリと囲もうとする。

 確かにジェネラルは倒された。しかし、そのセイルを倒して剣を奪えば自分がジェネラルになれるかもしれない。

 そんな浅はかな考えがあるからだが……次の瞬間には、それは恐慌に変わる。


「セイル様! ご無事ですか!」

「問題ない……殲滅しろ!」


 広場に飛び込んできたアミルの剣が近くのゴブリンを斬り倒し、その背に背負われポイ捨てされたイリーナがダークの魔法でゴブリンを闇に呑み込む。

 そして、サーニャもまたゴブリン達へと反撃に転じる。


「えい、やああ!」


 素早い二連撃でゴブリンを切り裂き、次のゴブリンへと向かっていく。

 怯えるばかりだったペルナもメイスを構え、ゴブリンの頭へと振り下ろしていく。

 恐慌状態になったゴブリン達は散り散りに逃げていき、その鳴き声が遠ざかった後。サーニャがぺたりと地面に座り込む。


「さ、サーニャ!」

「私は大丈夫。それより、皆を……」

「う、うん!」


 倒れた仲間達へと駆け寄って回復魔法をかけていくペルナをそのままに、セイルはサーニャへと近づいていく。


「大丈夫か?」

「う、うん。おかげさまで……貴方達は? たぶん、同業よね?」

「俺とそこの剣士はな。魔法士の方は、戻った後登録するつもりだ」


 そう返すセイルに、サーニャは目の前のセイル達がランク3以上ではないかと予想をつける。

 何しろ、ゴブリンジェネラルを一撃で倒すような剣士だ。

 もう一人の剣士もかなりの技量だし、魔法士は登録はまだのようだが貴重な闇属性だ。

 これに神官や盾役が加わりでもすれば、一気にランクを駆けあがってもおかしくはない。


「とりあえず、ありがとう。私はサーニャ。「白き盾」所属よ」

「白き盾……?」

 

 パーティ名か何かだろうか、と考え聞き返すセイルに、サーニャは苦笑する。


「まだランク2のパーティだから、知らないのも仕方ないわね。貴方達は?」

「俺はセイル。剣士の方はアミルで、魔法士はイリーナ。今回が初仕事ということになる」

「え……じゃあまさか、木札!?」


 驚きの声をあげるサーニャに、セイルは白いカードを取り出して見せる。


「いや、ランク1だ。ちょっとした紹介があってな」

「そ、そうなの。ランク1でその強さ……装備もかなりのものみたいだけど……」

「ま、あまり詮索はしないでくれ」


 肩をすくめるセイルに、サーニャは勿論よと頷く。

 

「助けてもらっておいて、そんな不義理はしないわ」

「ならいいんだが……そっちの仲間の方は大丈夫か?」

「うん。全員生きてはいるから、あの子……ペルナの回復魔法でどうにかなるわ」


 それでも、しばらく静養は必要になるかもしれないが命があるだけいい。


「で、助けられたついでにもう一つお願いがあるんだけど」

「なんだ? 助けた縁だ。聞くだけは聞くが」


 冗談めかして言うセイルに、サーニャは手を合わせる。


「アーバルまで一緒に連れて行って! これで帰りにゴブリンの残党と会って全滅とか、シャレにならないもの!」

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