トテラの森
やがて辿り着いたトテラの森は、鬱蒼と茂る木と草で覆われていた。
しかしよく見てみれば何度か踏まれたような跡があり、何者かが出入りしたような形跡もあった。
「これは……まだ新しい、か?」
「どうでしょう。私にはよく分かりませんが……」
うーん、と唸るアミルだが、セイルだってよく分からない。
よく分からない以上は、最悪の可能性を考えておけば間違いはない。
「よし、中に先客がいる可能性を考えて動くぞ」
頷くアミルとイリーナに合図をすると、セイルは森の中へ進もうとして。
しかし、慌てたようにアミルが前に出てくる。
「セイル様。此処から先は私が先行します」
「いや、しかし」
「お任せください。これでも栄えある王国兵です!」
胸をドンと叩くアミルに、セイルは「分かった」と答えるしかない。
アミルにとって、セイルが守るべき王子であることに変わりはないのだ。
未知の場所で彼女が前に出たがるのは、当然の事なのだろう。
「あの、そういえばセイル様」
「ん? どうしたイリーナ」
恐る恐る手を上げるイリーナにセイルが振り返る。
此処に来るまでの間に王子と呼ぶのは修正したが、まだ慣れていない様子だ。
「ゴブリン退治についてなのですが……私が倒してしまっては、冒険者カードとやらに記録されないのではないでしょうか」
「むっ」
言われてみると、確かにそうだ。ギルド職員は討伐数がカードに記録されると言っていたが、パーティでの討伐数が記録されるとは言っていない。
そういう機能がついているとも思えず、恐らくは個人での討伐数だろう。
となると、イリーナはゴブリンとの戦いでは手を出せない事になる……が。
「まあ、問題ないだろう」
「そ、うですか?」
「ああ。どうせお前も冒険者ギルドに後で登録する。とりあれず自衛程度にゴブリンの相手をしてくれて問題ない」
イリーナの事は、途中で会った魔法士だとでも言えばいい。あのギルドの様子を見るに、そんな細かく調査しないだろう事は明らかだった。
「分かりました。セイル様の言う通りにします」
ぺこりと頭を下げるイリーナに頷くと、アミルを先頭にセイル達は森の中へと足を踏み入れる。
ガサガサと草を踏み進む森の中は木が密集している箇所もあり中々上手く進めないが、しばらく歩いていくと道のようなものに出る。
「こんなところに道、ですか……?」
「木こりの道かもな。人の入らない森のモンスターの退治依頼を出すとも思えんし、な」
言いながら周囲を見回すと、大分古いが切り株があるのも見える。
間違いなく、此処は木こりか……あるいは狩人用の道だろう。
木こりであれば端から切るだろうから、狩人かもしれない。
「とにかく有難い。この道を進ませてもら……」
「ギッ」
言いかけたセイルの正面。道を挟んだ森の反対側から、一匹のゴブリンが顔を出して。
セイルは反射的に剣を構えゴブリンへと斬りかかる。
「ギアッ!?」
タイミングの悪いゴブリンはその一撃で倒れ、しかしその後ろの方からギイと鳴く声が複数聞こえてくる。
「早速のお出ましか。ったく、どういうタイミングだ!」
「行きます!」
「いや、待て! 折角だ、向こうを待ち構えろ!」
森の中では剣が振るいにくいが、この道であれば別だ。
棍棒を構えて出てきたゴブリンをアミルが切り裂き、続けて飛び出してきたゴブリンもアミルの一閃で倒れ伏す。
「……終わり、か?」
「はい。気配は近くには感じません」
言いながらも警戒するアミルだが、周囲からはもうゴブリンの声は聞こえてこない。
「まさかコレで終わりって事はないだろうが……」
報酬は3シルバー。それがゴブリン3匹と引き換えとは考えにくい。
「しまったな、何匹倒せばいいのか確かめておくべきだった」
依頼書には書いておらず、何匹でもいいという風にも読めるが……まあ、目につくゴブリンを全部倒しておけば間違いないだろう。
「とにかく奥に進むぞ、アミル。ついでにオークも倒しておきたい」
「はい!」
再びアミルを先頭に道を進んでいくと何度かゴブリンが襲撃してくるが、その全てがアミルとセイルによって倒されていく。
散発的なその攻撃は気を付けてさえいれば楽なものだが、あまりにも違和感がある。
「……やはり、おかしいな」
「私も、そう思います」
セイルの呟きに、イリーナも同意する。
「此処までのゴブリンの攻撃は、道を進む私達への森の中からの攻撃です。まるで待ち構えているかのような……いえ、それも何か違います。まるで、何かを逃がすまいとするかのような」
そう、待ち構えている割には反応が1テンポ遅いのだ。
そのせいで迎撃に全く苦労しない。1回や2回なら偶然で済むが、3回続けば必然だ。
ゴブリンが逃がすまいとするようなものが、この先にある。
そう考えた時、道の先からギインという剣戟の音が響く。
「行くぞ!」
「はい……って、あ!」
カオスディスティニーは戦略シミュレーションだ。
マップ上をユニットを移動させ攻撃するゲームだが、ユニットには移動力というものが存在する。
そして、アミルよりもイリーナよりも……セイルの方が、僅かに長く移動できる。
そしてそれはこの世界で、足の速さの差として実現された。
「アミル、お前はイリーナと一緒に来い!」
言い残し走るセイルの先に見えるのは、開けた広場。
そして……二回りは大きいゴブリンと。恐怖に満ちた表情で武器を振るう少女達の姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます