果てしなき進化への道
「ど、どうしたんですか王子。魔法兵を呼ばないんですか?」
「ん……それもいいんだがな」
まずは考える時間が必要だ。そう考えたセイルは、カオスゲートから鉄の鎧を取り出す。
ガチャリと音を立てて地面に落ちた鉄の鎧とセイルを見比べ、アミルは「え?」と声をあげる。
「これって……鉄鎧? それも王国制式の……」
「ああ、お前の新しい鎧だ」
「わあ、ありがとうございます!」
もし星3のキャラが出てきたらそちらに渡そうと思っていたのだが、もう1つ出た以上はアミルの強化に一つ渡した方がいい。
そう考えながら、鎧を付け替えるアミルをそのままにセイルはカオスゲートを操作する。
問題は、ここから先だ。
「……4つ、か。どうするべきか」
「え?」
セイルの小声での呟きを耳にして、着替えていたアミルが振り返る。
「どうされました、セイル様?」
「……ああ、とりあえず元の鎧を収納してから話そう」
セイルはアミルの鎧を収納すると、カオスゲートの画面をアミルへと見せる。
「問題はこれ……鉄の剣だな」
「えーと……3本。あ、違いますよね。私が1本お借りしてますから4本……あ!」
そこで、アミルが何かに気付いたように声をあげる。
そう、星1の鉄の剣が4本。その意味するところに気付いたのだろう。
「セイル様、これって鉄の剣を星3に出来るって事ですよね!」
「そうだ」
だが、ここで問題がある。
これまで引いたガチャは10連2回、単発1回。
合計21回のうち、鉄の剣は4本。
これを確率が高いと見るか低いと見るかは人によるだろうが、問題は「カオスディスティニーでは結構剣の需要が高い」という点にある。
4本しかない鉄の剣を、進化させてしまっていいものかどうか。
レア度の低いまま数を所持しておき、不足を感じたら合成してレベル上げしたほうがいいのではないか。
要は、そんな事を考えてしまうわけだが……。
「今後来る連中の為にとっておくべきか、それとも進化させるべきかを考えていてな」
「なるほど……」
セイルの言葉に、アミルも頷き……そして、一つの妥協案を提案してくる。
「でしたら星2を1本用意して、残り2本を星1のままとっておくのは如何でしょう?」
「ん……」
確かに、それならアミルを含め3人分の鉄の剣は確保できる。
今後更に鉄の剣が入ったとして、常に3本ストックしておけば現在のキャラ排出率を見る限りではすぐに問題が出るとも思えない。
「よし、それでいこう」
「はい!」
セイルは早速アイテム画面からアミルの装備している鉄の剣を選ぼうとして……。
「すまん。一度鉄の剣を渡してくれ。進化させる」
「はい、すぐに」
鉄の剣を外して渡してくるアミルから受け取ると、セイルはすぐにそれをカオスゲートへと取り込む。
「よし、これで……ん?」
取り込んだばかりの鉄の剣を選ぼうとして、セイルはそれに気付く。
鉄の剣【帰属済】(☆★★★★★★)
「……そういう、ことか」
「え?」
「帰属システムだ。なんてものを入れてやがるんだ……」
帰属システム。それはスマホゲームでは馴染みがあまりない単語だが、要はアイテムをプレイヤーに紐づけて取引を不可能にするシステムの事である。
通常、一部のレアアイテムにのみ設定される「帰属」なのだが、どうやら鉄の剣にも設定されていたらしい。
そして鉄の斧でああいう反応になったのも、これなら納得できてしまう。
「……いや、問題はない。ないはずだ」
疑問符を浮かべるアミルの前で、セイルは自分を落ち着かせる。
此処は現実だ。帰属されたところで、アイテムを売るのには何の問題もない……はずだ。
それよりも、今は進化だ。
アミルの装備していた鉄の剣を選ぶと、進化画面にもう1つの鉄の剣を投入し「進化」を選択する。
すると、カオスゲートから2本の鉄の剣の映像が浮かび上がりクルクルと回りながら1つへと合わさっていく。
「進化成功!」の文字が浮かび上がると同時に映像は消え、アイテム一覧には星2の鉄の剣が追加されている。
帰属の消えているそれを再び取り出すと、セイルは持ち上げてアミルへと手渡す。
「さあ、アミル。受け取れ。何度でも言うが、これはお前の剣だ」
「はい、セイル様。この剣で貴方をお守りします」
星2の鉄の剣は、攻撃力15。星1の時と比べれば1.5倍強くなっている計算だが、レベル1の段階ではほぼ誤差のようなものだ。
「よし、では魔法兵を喚ぶとするか」
「はい、いよいよですね!」
やはりどう考えても、魔法兵を呼ばないという選択肢はない。
もし性格が何か問題があるとしても、セイルに逆らうということはない……はずだ。
「さあ、来い……魔法兵!」
王国魔法兵【女】を召喚しますか?
「はい」を選べば、アミルの時と同じようにカオスゲートが光り、一人のローブ姿の女の姿が構築されていく。
長い黒髪は腰のあたりまで伸びており、前髪もセイルほどではないが長め。
瞳も黒く、しかし何処となく焦点があっていないような気もする。
深く被った紫の帽子は魔女のトンガリ帽といった風ではあるが、それが魔法使いらしさを強調している。
身に着けたローブはやはり紫色であり、ダボッとした印象もある。
手に持っているのは初期装備の謎金属の杖だろう。そんな少女の目にゆっくりと意思の輝きが宿っていき……セイル達の姿を認めると、ゆっくりとした動きで帽子をとり頭を下げた。
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