ガチャを引く時は誰だって敬虔な信仰者になれる

 足取りも軽やかに、セイルは歩く。

 野営用品も金属板の機能で収納できると分かったからだ。

 荷物は軽く、金属板さえあればどんな重いものだって持ち運べる。

 品質の保持機能については確認が必要だが……まあ、今回の旅で検証する必要はないだろう。


「トテラの森……か。街道を外れるのは助かるな」

「そうですか? 街道の方が安全だと思いますが」

「人目につくだろう」


 そう、セイルはガチャを引きたいのだ。

 あまり人目につく場所ばかりに居ては、いつまでたってもガチャを引けやしない。


「はあ」


 アミルは分かっていない風ではあるが、セイルはこの金属板がこの世界では値段がつけられない程価値があるだろうことは分かっている。

 だからこそ、先程のような例を除けば可能な限り存在は秘匿したかった。


「しかし、いつまでも金属板と呼ぶのもあれだな……」


 かといって、スマホ呼ばわりするには機能があまりにも足りない。

 これには、カオスディスティニーの一部の機能があるだけなのだ。


「でしたら……ゲートというのは如何でしょう?」

「ゲート、か」

「はい。私達の世界の方々を呼び出せる門ですし、道具を仕舞う機能もありますし……」

「悪くないな」


 えへへ、と笑うアミルの頭を軽く撫で、セイルは考える。

 ゲート、悪くない。

 しかしこの世界に転移魔法の類とかがあったりした場合、ゲートという名前だったりするかもしれない。

 こういうのは可能な限り被りを避けるのが基本であり、そうなると……。


「よし、では今からこの金属板をカオスゲートと呼称する」

「はい! ところで、何故カオスと……?」

「ガチャは何が出るか分からない混沌の力だからな」


 感心したように頷くアミルだが、勿論今思いついた適当な嘘だ。

 カオスディスティニーの機能を持っているからカオスとつけただけである。


「……」


 周囲を見回せば、誰も居ない。

 この辺りは街道も整備されていない平原だが、それ故に身を隠すには不向きだ。

 だから、確実に誰も居ないと断言できる。


「よし、ではガチャを引こう。10連だ」

「10ってことは……1シルバーですよね? い、いいんですか? そんなに」

「問題ない」


 何しろ8シルバーあるのだ。50回回しても3シルバー残るし、安い宿に泊まるには一人30ブロンズもあれば事足りる。

 今回の依頼の報酬もあるし、何よりゴブリンを倒せばすぐ宿代も溜まる。


「回さなければ強くなれない。そして、いつか回さなければならないんだ」

「そ、うですね……」

「よし、じゃあ引くぞ。大丈夫だ。今日はなんだか星3がきそうな気がするんだ」


 そう言うと、セイルは10連のボタンをタップする。

 そうすると、あの ヒュイイイイン……という音と共にカオスゲートの画面から白い光が溢れ出し、回転を始める。


「来い、来い……!」

「お願いします……!」


 セイルの真剣さに引っ張られたかアミルもカオスゲートを見つめて祈る。

 だが……無情にも、光の色は白で確定。


「ああ……」

「いや、まだだ! 場合によってはいける……!」


 絶望するアミルとは逆に、セイルは希望を捨てていない。

 キャラだ。星1でもキャラさえ出れば、当たりと考えていいのだ。

 ならば……!


ガチャ結果:

王国魔法兵【女】(☆★★★★★★)

鉄の剣(☆★★★★★★)

鉄の杖(☆★★★★★★)

鉄の斧(☆★★★★★★)

鉄の鎧(☆★★★★★★)

鉄の盾(☆★★★★★★)

木の杖(☆★★★★★★)

鉄の刀(☆★★★★★★)

鉄の弓(☆★★★★★★)

錆びた剣(☆★★★★★★)


「よし、やった!」

「うわあ、魔法兵ですよセイル様!」

「ああ、これは幸先がいいぞ! よし、あと10連……!」

「ま、待ってください! それはどうか思いとどまってください!」

「何故だ、運が逃げるぞ!」


 本気の目をしているセイルに、アミルはどう説得したものかと必死で頭を働かせる。

 何故止めなければいけないのかは分からない。

 分からないが、なんとなくセイルは全財産を突っ込んでしまいそうに見えたのだ。


「ええっと……ほら! あまり増やすと維持費がかかります! まずは補給線を確実にしてからがよいかと!」


 そんなアミルの必死の説得に、セイルの手はピタリと止まる。

 そう、確かに。ゲーム時代と違い生活コストという概念がある。

 あまり増やしすぎても、まだそれを養える拠点すらないのだ。


「……まあ、そうだな」

「そ、そうですよ!」


 ガチャ熱が抜けたセイルは、今回のガチャ結果をじっくりと眺め始める。

 まずは、王国魔法兵【女】(☆★★★★★★)。これはカオスディスティニーではモブの1つではあったのだが、モブでは珍しく各種の色違いが存在していて攻撃モーションが異なるという特徴があった。

 属性の概念の存在しないカオスディスティニーでは、それは単純にお楽しみ要素の一つでしかなかったが……今となっては、大きな意味を持つ。


「……魔力属性、か」


 王国魔法兵【女】☆★★★★★★

レベル1/20

魔法攻撃:200

物理防御:10

魔法防御:100


【装備】

・杖

・ローブ


【魔力属性】

・闇


 ユニット画面には、魔力属性の項目がある。

 属性、闇。なんだか悪役っぽい属性持ちの魔法兵を呼び出すべきか否か、セイルは少し悩んでしまう。

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