選択肢を適当に選んでも、リセットボタンがあると思ってはいけない

「……逃げた? 護衛が、か?」

「はあ。その……その通りでして」

「何故だ? 三人も居たならあの程度の数、どうにでもなるだろう」

「それが、そのう。私達もそこが不思議でして。もしかすると、そういう手だったのではないかと」


 疑問符を浮かべるセイル達に、ペグは「えーとですね」と慌てたように説明を始める。


「つまり、護衛依頼を受けた以上は冒険者には馬車を守る責任が生じるわけですね」

「ああ」

「しかし、力及ばず……ということも当然ございます」

「そうだな」


 何となく想像はついてきたが、セイルはそのまま話の先を促す。

 セイルの想像通りなら、それはつまり。


「勿論、それで冒険者が生き残れば評価は下がりますがそれだけです。ですが、もしそれを演出できたとしたら……」

「護衛料をせしめて、上手くいけば襲われた後の馬車の積荷や金も手に入る……か?」

「はい。成功報酬とて護衛対象の懐から出ます。盗賊相手ならばともかく、ゴブリン共は金には興味ありませんから……」


 目先の大金を手に入れることにした。そういうことだ。

 無論バレたら犯罪者確実だろうが……この世界の法律にセイルは詳しくないので断言はできない。

 だから、それとなく探る事にしてみる。


「そんな事をしても、バレたらただではすまんだろう」

「ええ、勿論です。バレたが最後、賞金首は確実です。しかし逆に言えば成功する見込みがあったのでしょうね」

「そうか……」


 賞金首という制度があるということは、その冒険者の組織か官憲か、どちらかが賞金をかけているということだ。

 だがそういう賞金目当ての賞金稼ぎがいるということは、政府組織による摘発にはあまり期待が出来ないのかもしれない。


「まあ、どちらにせよそいつらの目論見は崩れた。よかったな」

「ええ。それでですね? そのー……」

「助けた礼であれば必要ないぞ。当然のことだ」

「いえ、えーとですね? その。まだ次の町までは距離がありましてですね。裏切った連中が襲ってこない保証もなく……出来れば次の町までご一緒できたらと思いまして」


 その提案に、セイルは考えを巡らせる。つまるところ遠回しな護衛依頼なのだろうが、受けていいものかどうか。


「……つまり護衛を頼みたいという話でいいのか? 俺達は別に冒険者というわけではないが」


 勿論冒険者を装うことも出来るが、身分証明のあるような何かだった場合には身分詐称になるし何より「冒険者の知っているべき常識」もセイルは知らない。

 ならばここは正直に言った方がいいだろうと考えたのだが……ペグはうんうんと頷いてみせる。


「そうでしょうとも。貴方のその鎧、かなり上質な細工がされております。使われていた剣も、かなりの業物……只人ではないことは明らかでございます」


 言いながらも、ペグの視線はアミルへと向けられる。

 先程から直立不動のアミルは、どう見ても訓練を受けた兵の類だ。

 つまり、セイルは何処かの貴族か……あるいは有力者、もしくはその関係者というところが妥当だろうとペグは考えていた。

 護衛であろうアミルを連れているとはいえ、こんな場所に居るからには何かの事情を抱えているのだろう。ならば、その辺りを追及せずに便宜を図る事で上手く護衛にできないかと、そう考えていたのだ。

 なにしろ、セイルとアミルの実力は先程の戦闘で明らかになっている。

 裏切った冒険者共が襲ってきてもどうにかできるだろうという目算もあった。

 とにかく、裏切らない戦力が欲しかったのだ。


 そしてセイルとしても、この世界の情報が欲しかった。

 目の前のペグが何を考えているかは分からないが、自分達を戦力として求めているのは確実。

 それに乗るべきか、乗らざるべきか。

 しっかり考えて答えなければ、今後の全てに関わってくるだろう事は明らかだった。


「……まず、俺達は詮索されるのは好きじゃない。それはいいか?」

「ええ、ええ。勿論でございます」

「それと、少々この辺りの事情に疎い。道中、そういう話を聞かせてくれると助かる」

「私に出来る話であれば、いくらでも」


 金銭の要求はやめた方がいいだろう、とセイルは考える。

 渡されても価値など分からないし、そこから色々な推測をされても困る。

 その辺りは怪しまれない程度に探っていくしかない。

 しばらく考えるようなそぶりを見せると、セイルは頷く。


「……いいだろう。護衛を請け負う」

「おお!」

「ただし金銭の授受が発生しない以上は命令系統の存在しない、同等の関係ということにさせてほしい」

「それは勿論!」


 それに関してはペグも異存はない。何より金がかからないというのは良い。とても大事だ。


「アミル、そういうことだ。構わないか?」

「はい。セイル様のお望みのままに!」


 ビシッと敬礼を決めるアミルに「敬礼もするなって言っておけばよかったな……」と考えつつも、セイルはこの選択が良い方向に流れる事を期待していた。

 ゴブリンに追われる商人の救出、そして護衛。あの少年神の望む「英雄としての振る舞い」からも外れてはいないはずだ。

 そして、この出会いを活かし「何処までが常識で何処からが非常識か」も探っていかなければならない。


 ……やるべきことは多い。その事実を確認し、セイルはぎゅっと拳を握った。

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