スキップを選ぶと、後から話が分からなくなる
「……というわけで、この辺りはどの勢力も手を出していない空白となっているわけです」
「ふむ……」
セイル達を乗せた馬車は、ガタコトと道を進む。
ペグは話好きなのか、聞いても居ない事をペラペラと喋るが……その内容は、かなり有用なものが多い。
たとえば、この世界の通貨に「ゴールド、シルバー、ブロンズ」が存在する事。
実際に硬貨を見せながら商売自慢をする為、それぞれのデザインについては頭に叩き込んでいる。
そして、この世界には幾つかの国が存在し……表面上では仲良くしていても、水面下で殴り合いをしていること。
聞いた限りでは「レヴァンド王国」「アシュヘルト帝国」、「スラーラン皇国」などの国があるようだ。
何度か神に祈っていたところを見ると、何らかの信仰もあるらしいことが分かっている。
……そして、この場所は「へクス王国」という名前であり、先程の三つの国に囲まれた場所にある小国であるらしいこと。
「だが、その戦略的価値の無さ……だったか? そんなものはやりよう次第でどうにでもなるんじゃないのか?」
「いえ、先程も言った通り、このへクス王国はその全てが平地です。特に特産物があるわけでもなく、有用な資源があるわけでもない。そして場所も三つの大国に挟まれた場所です。こんな場所を取って戦争の切っ掛けにするくらいなら、放置した方がいい……というのが大国のお偉方の結論のようで」
「なるほどな……」
結果として中立国のような立場にへクス王国はならざるを得なくなっているようだが、いざ戦争が始まれば吹いて消えるような小さな国でしかない。
「そのおかげで、へクス国王は疑心暗鬼でして。いつ大国が攻めてくるか分からないと武具を買い漁る始末。おかげさまで儲けさせていただいております!」
「……武具、か」
「おや、ご興味が?」
勿論ある。この世界の武器レベルにも興味はあるし、そういう事情ならばノーマルガチャで出た要らない武器を高値で売り払って資金稼ぎ出来るんじゃないかという目論見もある。
しかしながら、そんな様子を見せるわけにもいかずセイルはフッと余裕そうに笑う。
「そんなものを買い集めたところで、どの程度抵抗できるものかと思ってな」
「ははは、なるほど。しかしそれは言いっこなしですよ! 私達にとってはお得意様ですからね!」
「だろうな。いったいどれ程儲けるつもりやら……幾らか護衛料として払ってもらった方が世の為だったかな?」
「これは手厳しい!」
ぴしゃりと自分の額を手の平で叩くペグは「手厳しい」などとは全く思っても居なさそうだったが……まあ、心にもない事を言っているのはお互い様なので別にどうでもいい話だろう。
「だが一番問題なのは、人だろうな……買い集めた武器を使えるだけの人も揃えようとしているんじゃないのか?」
「やはりお分かりになりますか」
「分からないはずもないだろう」
剣や槍が1万本あったところで、兵がその数居ないのであれば死蔵する武器が増えるだけだ。
となると、その武器を使えるだけの人も同時並行で集めていると考えるのは突飛な発想ではない。
「しかし、そこはそれ。あからさまに人を集めれば大国に潰されるというのは自明の理ですからね。近々騎士登用の為の武闘大会を開催するつもりらしいですよ」
「数ではなく質を望んだか」
「ええ、まあ……そんなものに応募するのは実力が半端な者や食い詰め者でしょうがね」
本当に実力があれば、大国の方に行けばいい。わざわざ負け犬の下に行く必要はない……というわけだ。
「世知辛い話だ。沈む事が分かった船を助けようという者は居ないわけだ」
「船から宝を持ち出す輩はいるかもしれませんな」
「お前の事か?」
「ハハハ!」
ゴトゴトと進む馬車の中で、会話は弾む。
ペグは終始ご機嫌で、しかし反比例するようにセイルの心は冷えていく。
商人とはこういうものなのかもしれないが、異世界初の人助けとしてはアレな人物を助けてしまったようにも思う。
……まあ、商売人なだけで悪人というわけではないのだろうが……それでも、セイルにはまだ受け入れがたいものがあった。
「しかし、口封じに襲ってくるかと思いましたが……そんな根性もなかったようですな」
「ああ、お前を見捨てたという冒険者達のことか」
「ええ、ええ! 向こうの冒険者ギルドに着いたら、即座にクレームを入れてやりますとも!」
憤るペグを余所に冒険者ギルドについてセイルは考える。
どう考えても傭兵斡旋所の類だが、亡国の王子などという怪しげな立場よりは冒険者という身分を手に入れた方が今後動きやすいかもしれない。
「冒険者ギルド、か。興味はあるな」
「ええっ、セイル殿がですか!?」
「ああ。そんな仕事をしない奴が冒険者でございとのさばっているなら、俺ならすぐにトップをとれると思わないか?」
半分本気で言うと、ペグはツボに入ったのか腹を抱えて笑い出す。
「ははは、はは! なるほど確かに! いやいや、それは面白い! どれ、向こうに着くまでに私から推薦状を一筆書くとしましょうか!」
言うが早いか、紙と羽ペンを取り出し始めたペグを余所に、セイルはずっと不快そうな顔をしているアミルへと振り返り苦笑する。
気持ちはわかるが、もう少し我慢してくれ。そんな無言でのメッセージが伝わったかどうかは不明だが……セイル達を乗せた馬車はその後、特に問題もなくへクス王国の町の一つ、アーバルへと到着したのだった。
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