第14話

 時は未明、白み始める空に今日も星屑環カシューレヴィが浅黄色の光の帯を引き始める。天道をなぞり、遠く水平線の彼方に吸い込まれるように空を横切る星屑の環、その数四本。じきに陽も昇る。


 淡黄四環、二十六日目の朝は寒い。


 カディンは寒気をこらえて気を引き締めると、シーザーを連れて山道を下る。山腹に広がる手頃な野原に目星をつけると、シーザーに地面を掘り返しておくよう頼み、その間に遺体を移動させるため、ひとり洞へと戻った。


 洞を覗くとまだ眠っているポートとチトセの姿が見えた。二人とも外套にくるまって、心なしか寒そうに見える。


 カディンは見張りに立っているクラヴィウスに目配せをすると、彼女はそれに応えるように赤竹造りの水筒を右手でちらつかせた。


「それにしても、あんたも酔狂なものね。旅人プラネッタでも普通ここまでやらないわよ」


 クラヴィウスはカディンに水筒を放った。


「良いんだよ。俺は俺のやり方で」


 カディンはクラヴィウスが投げて寄越した水筒を受け取る。


「ガキの頃から続けてんだからさ」


 カディンは手荷物に水筒を放ると、槍を片手に持ち、遺体を担ぎ上げて一人ずつ運び出していく。


 ディストリア大陸には守族リフィアを始め、多くの長耳族ディーヴァが眠る森がある。彼は沙族ヴァドンだが、土地に倣い、守族リフィア式の葬送を行うことにした。用意したのは、水の入った水筒と、適当に伐採した若木の枝。守族リフィア式の葬送は水と土をもって行うのが一般的な習わしである。


 星屑環カシューレヴィの色がだんだんと濃く変わり、水平線の先へと延びる。時はまもなく夜明けを告げようとしている。

 その様子をしばらく眺めていたカディンは、シーザーが掘った地面の傍に横たわらせた遺体へ視線を移し、おもむろに腕を組んだ。


「お前ら、よくもやらかしてくれたな。だがな、葬送はまじめにやってやる」


 カディンは口角をめいいっぱい吊り上げて笑ってみせる。


「お前らのことは、俺が全部覚えててやるよ」


 カディンは雑記帳を入れた左脚の雑具鞄を二度、景気良くはたいてみせた。

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