『お花見したい』――②


「それでは、行きますね」


 そんなヴィーの言葉とともに、魔法が発動される。

 そして、次の瞬間に現れたのは、木々とそこから芽吹いていたつぼみや花、空に舞うピンクの花びらだった。


「わぁっ……!」


 姫様の想像通りだったのだろう。

 今まで見たことないほどに、その目を輝かせていた。


「これは、凄いな」

「東洋にある花の一種ですね。この時期に咲く花らしくて、この国ではまだ見たことがないので、想像の産物になっているのが残念ですが」


 本物はこれ何かよりも、もっと綺麗なんでしょうね――ヴィーが、そう付け加えるように言ってはいるが、俺としては、これだけでも十分な気がする。

 幻影とはいえ、ここまで可能にしたのは、魔導師たちが使う演習場の横にある丘まで出向いたからだろう。


「ほらほら、食べよう?」


 こんなに上機嫌な姫様を見たのは、いつ以来だろうか。


「姫様、さすがにそれは……」

「私と一緒に食べられないって言うの?」

「いや、そうではなく……」

「じゃあ、王女命令。一緒に食べなさい」


 さすがに王族と一緒に食事することについて言い淀んでいれば、王女命令を出されてしまった。


「やれやれ。これじゃ、従うしかないな」

「誰かに見つかるまでですからね」

「そうですね。何かっても困りますし」


 妥協点を口にすれば、ヴィーも追随するかのように、そう口にする。


「それじゃ、『お花見』楽しみましょうか」


 そんな姫様の言葉で、俺たちの『お花見』は始まったのである。


   ☆★☆   


「へぇ、そんな面白いことしてたんだ。俺も早く帰ってくれば良かったなぁ」


 任務から戻り、報告ついでに顔を見せに来たんであろうルゥに、お花見の話をして見せれば、予想通りと言うべきか、悔しそうな顔をした。

 まあ、この中じゃ、一人だけお花見を経験できていないてないわけだから、そうなるのも分からなくはないが。


「つか、お前の場合は、仕事だろうが」

「同じ仕事でも、リュークたちの方がまだ楽しめるじゃん」


 ……否定できないのが悔しい。

 基本的に姫様と居ると、ハラハラはしても、飽きることはない。

 それに、姫様が口にするのは、大規模な迷惑にならない――俺たちだけに留められるようなものばかりである。


『ね、やって良かったでしょ?』


 花見からの帰り際に、満面の笑みで問われてしまっては、否定することなど出来るはずもなく。


「あ、そうだ。姫様にお土産があったんだ」

「お土産?」


 姫様の復唱を肯定したルゥが、何やらずっと持っていた袋をガサゴソと漁る。


「じゃーん」

「これ……」


 ん? 小さい鉢植えか何かか?


「何かね、これ『盆栽』って言うんだって」

「……」

「それでさ。ほら、ここ」


 ルゥが示した場所に目を向ければ、そこにあったのは、小さな蕾。


「上手いこと世話をすれば、綺麗な花が咲くんだって」

「……うん、ありがとう」


 『盆栽』を見てから、口数が減った姫様だったが、どうやら嬉しさで減っていたらしい。

 だって、『サクラ』を見たときのように、笑みを浮かべていたんだから――

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うちの姫様 夕闇 夜桜 @11011700

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