『お花見したい』――①


「お花見したい」


 また姫様が何か言い出した。


「何ですか。またいきなり」

「お花見したい」


 理由等を含めて聞いたのに、分かってて言っているのかいないのか。姫様がさっき言ったことを繰り返す。


「それは分かりました。だから、理由ですよ」

「だって、春だよ? 美味しいものを食べながら、お花見したいじゃん」


 したいじゃんと言われても、困る。


「そもそも、その『お花見』って、何をするんですか」


 俺も疑問だったことを、レオンが聞く。


「ん? お花見はお花見だよ? 花を愛でながら、美味しいものを食べたり、どんちゃん騒ぎしたりするんだよ」

「つまり、花を見ながらやる宴会、ですか」

「うん、それ」


 花ならこの部屋からでも見れると思うのだが……


「違うの! ああいう庭園にあるような花じゃなくて、桜のような……うーん、説明が難しい……」


 王族どころか姫としてやってはいけないような表情で、姫様が唸る。


「では、ご希望の花が見られる場所に行かれては?」

「それは無理なんだよね。そもそも遠いし」


 姫様が寂しそうな顔をする。

 きっと、その場所は国外のように、そう簡単に行けない場所なんだろう。


「せめて、嫁入り前に行けると良いですね」


 てっきり「そうだね」とでも返してくるかと思ってたが……そんなに遠いのか。姫様が望む花がある場所は。


「まあ、本で我慢するよ」


 どうやら、その花は本には載っているらしい。


「では、その場所に行って、苗を取ってきましょうか」

「だから、遠いから無理だし、海越えないとだから」


 え、そんなに遠いの?

 移動して、船を調達して、そこから目的の花を探すことを考えると、確実に1ヶ月以上は掛かるのは予想できる。


「それに、もし仮に苗を手に入れられたとして、こっちの気候に合わなかったら、枯らすことになるんだから、わざわざ取りに行ったり、取り寄せたりする必要は無いし」


 そんな姫様の様子に、レオンと顔を見合わせる。

 俺たちとしては、姫様の願いは可能な限り叶えてあげたいところではあるが、今回ばかりは無理なものは無理だ。


「それに、ちゃんと合った場所で咲いているから、その花は綺麗なんだよ」


 きっと、姫様の脳裏には、その花が咲き乱れているの光景が、はっきりと映っているんだろう。

 故に、それを求めてしまっている。


「だから、本で十分じゅうぶんなんだよ。ちゃんと存在している・・・・・・って、分かってるから」


 それでも、どこか諦めを含んだ姫様の願いを、どうにかして叶えてやりたいと思ってしまうのは、仕方ないことで。

 だから、休憩時間に不可能を可能にできそうな奴を尋ねた。


「姫様の求める花ですか……」


 俺の話を聞いて考え込んでいるのは、ヴィーである。

 姫様直属の魔導師であるヴィーであれば、何らかの魔法で幻影でもいいから見せることが出来るのではないかと思っていたんだが……


「さすがに、こんなこと聞かれると困るよな」

「いえ、姫様が求める花の種類さえ分かれば、見せることは可能かと。あくまでも見せるだけ・・・・・、ですか」

「種類か……」


 花にもいろんな種類があることは知っているが、そういえば姫様が求める花について、どんなものなのかを聞いていないのを思い出す。


「悪い、聞いてくる」

「あ、二度手間になるので、僕も行きます」


 そして、ヴィーと共に姫様の元に戻れば、珍しい組み合わせとでも言いたげな目を向けられる。


「リュークとヴィーのペアって、珍しいね」

「ヴィーなら、姫様の願いを叶えられるんじゃないかと」

「種類さえ分かれば、幻影でも見せることは出来ますからね」


 きっと、姫様のことだから、何のことなのか、察したんだろう。


「……そんな気、回さなくて良かったのに」


 姫様は苦笑しているが、どこか複雑そうではある。


「うん、でも、たとえ幻影だったとしても、やっぱり見れる可能性があるって言うのは、嬉しいかな」


 寂しそうだったり、悲しそうな表情だったのが、少しだけ明るい表情に変わる。


「それで、早速ですが――」


 そこからは、姫様とヴィーの話し合いで進んでいった。

 花の種類や色や形。花の付け方など……その花が挿し絵として使われている本や植物図鑑などとにらめっこしながら「あーでもない、こーでもない」と話し合う二人を見ながら、ヴィーを連れてきて正解だった、と息を吐く。


 そして――ついに、その日はやって来た。


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